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秋の優しい香りに包まれて。

風邪が治らなくて調子が悪い。自分の体が誰かの体のように思えてくる。車で風景のきれいな場所で写真を撮りたかったのだけど、断念。

とはいえ、天気もいいのでカメラ片手に小さな散歩に出掛けた。

なんでもない平日の昼下がりが好きだ。みんなきっと働いている。または学校で勉強をしている。そんな中で、ひとりお気楽に散歩している。

うーん、なんだろう?この気持ち?別に変な優越感に浸っているわけじゃない。そうだな、この静かな街がきっと、私は好きなんだ。この特別な感じが私は好きなんだ。誰もいない静かなひととき。それをかみしめ、私はひとり歩いていた。

あ、香りがする・・・と思った。

とても懐かしい香り。なぜだか小学生の頃のような気持ちになった。甘くて、それでいて優しく心を包むような匂い。街全体が、この優しい香りに包まれていた。おかしいな?普段、仕事の通勤道と変わらないのに、全然気が付かなかった。

人は気持ちに余裕がないと、その五感がぜーんぶ鈍ってしまうのかな?

街路樹もいつの間にかきれいに紅葉していた。今朝、寒かったから、樹々たちも、急いで秋の服装に着替えたのかな、なんて。

一枚、君たちをパシャリと撮った。

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小学生の女の子たちが、大きなランドセルを抱えながら、帰ってゆくのが見えた。ひとりだけトボトボと歩いている女の子がいた。まっすぐに向こうから歩いてくる。お友達と一緒じゃないのかなぁ?なんて、少しだけ心配していたら、すれ違うときに「こんにちは!」と明るく挨拶をしてくれた。慌てて私も「こんにちは」と挨拶をした。もちろん、全然知らない子だったけど、むしろ、この女の子の方が「このおじさん、カメラなんか持って、ひとりで寂しいのかな?」なんて思ってくれたのかな?

そう思うとおかしくて、ひとりでクスクス笑ってしまった。

家に帰ると奥さんが、パートから帰っていた。

「ねぇ、街がなんだか甘い香りに包まれているよね。あれってなんの香りだったっけ?金木犀かな?」と彼女に尋ねた。

「え?そぉ?甘い香りがしてたっけ?」

やれやれ、彼女もきっと私と同じで、ちょっと気持ちに余裕がないのかなぁ。仕事が忙しいみたいだ。そうだ、今度の休みに、一緒に散歩に出掛けてみるかな。そうして今日あった出来事を、彼女に話してみよう。

そうすれば、きっと彼女も気づくはず。

この街の優しい香りに。

季節はこんなふうにして
私たちに用意してくれるのかも。
重ねるように優しい思い出を。

最後まで読んで下さってありがとうございます。大切なあなたの時間を使って共有できたこのひとときを、心から感謝いたします。 青木詠一