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人に「纏」わるバトン

天気予報はくもりのち雨。降水確率40%。

家から少し離れた川がある。

僕は、かっこいい石や木を拾いに行きたい。
そんな衝動に駆られていた。

 


 

古着と教育について熱く語り合える
そんな友人が近くに住んでいるので
彼と久しぶりに話したいなと思い
連絡をしてみた。

河川敷に腰をおろして
川の流れをゆったり眺めながら
語り合うのもいいかな。
雨が降っていたら部屋からオンラインで
近況とか語り合ってもいいかな。

そんな風に思っていた。

でも、どうせ川に行くなら
石とか木とか探したいなぁ。
お風呂場で使えそうな大きめで平たい丸石とか
風雨に晒されて枯れ果てた木をインテリアにとか
生活にひとさじ、自然の恵みと偶然の出会いがあったら素敵じゃない?

誘っておきながら失礼を承知で
「川で石とか木探したいんやけど、いいかな?」
って友人にお願いしてみたら
彼は快く「いいですね!おともしますよ」と
素朴な宝探しに参じてくれた。

お天気アプリを確認すると
ちょうど薄い雨雲がかかるかかからないかの天気。
お互いに服が好きで、何着ていこうか?と。
彼はBarbourが大好きなので、僕が
「雨降るかもな。濡らしたくない洋服もあるけど、濡らしたい洋服もあるやろうに...?」と言うと
電話口なのに顔の表情が伝わってくるくらい
ニヤニヤした笑い声が返ってきた。

宝探しに。ちょっとした冒険に。
用途はなんであれ、洋服好きなら敬遠しがちな雨という天候にさえ、Barbourは「味が育つ」という魅力で立ち向かえる。
あえて雨の日に着て、育てることさえ楽しめる。
雨が待ち遠しくなる服。
"防ぐ"というより"味わう"感覚に近い。

コンビニで待ち合わせをして、合流する。
駐車場でひときわ渋い空気を纏う彼。
Barbourにジーンズ、REDWINGのブーツにハンチング。これから狩猟にでも行くかのような装いだ。
僕は日本の古い羽織着に藍染のもんぺ、ブーツに古いリュックを背負って。
お互いに元気な再会を喜びつつ、川へ向かった。

道中、数キロ歩く。
この道すがらも他の人たちからの視線がすごい。
まるで、ヨーロッパの狩人と日本のマタギが歩いているのだから、まぁ無理もないよな。と二人でお互いに言い聞かせて笑い合うのもよい光景だ。

就職のことや教育談議をしながら
山を越えてトンネルをくぐって何千里。
いよいよ着いた、と河川敷へ下りる。

気持ちとしては、蚤の市を廻るときのようなワクワクで特有のスイッチが入る。
さぁてさて。今日はどんな出会いがあるのやら。

夏の暑さもすっかり去って
涼しさ漂う秋が来た。
「お、コスモス」とそれを証すように。
でもご時世によって手入れが行き届いてないのか
草木が思いの外、生い茂っている。

しばらく草木の小道を歩きながら流木を探した。
去年の超大型台風の爪痕がまだ残っていることに
心を痛めながらも、そのおかげで上流からの便りは
大小様々で楽しくもある。

なにかの板に使われていた
枯れた木を見つけて、土を払う。
「おぉこれはいい味で出てる」と笑みをこぼして
リネンのリュックに挿すと、まるで剣のようで。
その姿に、ますますマタギ感を強める。

泥々になった手は
なんだか久しぶりに子どもに還ったような。
それだけで楽しくなってくる。
ふしぎなもんだな。

こんどは石ころを探そうと
より川辺に下りてゆくと
そこに小さな遺跡があった。

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ほぉこれはこれは。
誰かが焚き火をしたらしい。
明らかな文明の跡。

「すげぇ」と思わず声が出るくらい興奮した。
その近くに腰を下ろすと
焚き火の主が見ただろう光景を
僕も追体験した。

最近、流行りのオンラインゲームで
かがり火でセーブするシーンがあるけど
なんだかそんな冒険感にいざなわれて。

あぁきっと焚き火をした主も
この目の前に広がる風景を眺めながら
いろんなこと考えたんだろうか。

そういえば、僕が古い服に感じる感動も
この感覚に近いものがある。

古い服を纏うことで
前の所有者はこの服を着て
どんなことをしたんだろうとか。
この繕いの跡は、よっぽど永く
大切に使ってきたんだろうなとか。

その服に「纏わる」"これまで"を
僕が「纏う」ことで"これから"にしてゆく
そうして"僕と服"が「纏まって」ゆく。

そこにあるのは
ただ大きめの石ころと炭になった黒い木。
そこにあるのは
ただボロボロの服と繕いの糸。

なんだけど、それが
そこに人がいた証でもある。
人が生活をした印でもある。

目の前の物事から
その背景や過去にある
光景や物語を想像して
愉しむんだ。

焚き火の跡を発見して
あ、焚き火のあとだ。じゃなくて
お、焚き火してたんだ...となる、この感覚。

人が人を想うことも
縁することも
こうして僕が感じることから
はじまるのだろう。

だから、焚き火も古い服も
言葉もそうだ。

誰かが感じたことを言葉に残す。
言葉が残る。
その言葉の跡を他の誰かが見て、
言葉の主が感じた光景や経験を読む。

だから、そこにあるのは
単なる文字の羅列なんだけど
それが意味をもつのは
人がいるからなんだ。

それが価値を生むのは
人が想うからなんだ。


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焚き火の跡を越えて
僕たちは真っ直ぐな流木を発見した。
「ハンガーラックみたい!」と
早速土木工事が始まる。

ちょうど最近、情熱大陸で石積み職人さんが特集されていて、その職人魂と伝統の志に憧れていたところだ。
到底そんなレベルではないけど、
つみきをするような感覚で、
無我夢中に建築していた。

たのしい。

大きな石から直感で並べて固めてゆく。
山なりに支えて、隙間に小石を流して
グラツキもだんだんなくなって。

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何回か改良を重ねて
ようやく自立した木を眺めて
二人の職人は歓声をあげる。

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ちょっと掛けてみよう
と彼のハンチングでお試し。

いい。
よい!

それらしくなった。
イメージが形になって、目の前に立っている。
なんだか誇らしいな。

これだけのことなのに
立派な仕事を遂げたような。
無職だけど。

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強度がある程度証明できたので
いよいよ彼のBarbourを
いざ。


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なんとサマになることか!

近くの石と木で椅子をつくって腰掛けて。
しばらく眺めてご満悦。

流れる水に灰色の石、茶色の木と古い服。
今年は、ちゃんと秋の香り。
なぜか哀愁さえ漂う。
Barbourよ、今きみは何をおもふ。


そして僕らは
この建築物をそこに遺した。

その跡は言葉になるだろうか。
いつまで残るかわからないけど
もし誰かがこれに出会って
なにかを想ったなら。

そしてまた、なにかを遺したなら。

上流からの便りを見つけて
遺す僕らの証。
その便りを誰かが見つけて
なにを想うのだろうか。

古い服も
焚き火も
言葉も

想いさえあれば
時は川のように流れ
人に纏わるバトンになる。



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BORELO 谷


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