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The Doobie Brothers ソロ・ワークス<トム・ジョンストン編>

前回テーマとなったThe Doobie Brothersのメンバーのソロ・ワークスを取り上げます。
まずはソロ独立当初のトム・ジョンストン。これから触れる2枚のアルバムでは慣れないソロ・キャリアゆえの試行錯誤、苦闘の跡がかいま見えます。

むしろ復活したバンド本体の近作より、引っ掛かりを残す部分があるかも知れません。今回そこを少し探ってみたいと思います。なお、前回から続いて寓話形式も取り入れています。

Everything You've Heard Is True(1979)

バンドを辞める必要はあったのか?初ソロ作はR&B、ソウル色全開

Everything You've Heard Is True(1979) FRONT
Everything You've Heard Is True(1979) BACK

挿話 イタリアン・シェフの再起

The Doobie Brothers の Livin’ on the Fault Line を取り上げた拙稿「静かなるバンド・リーダーの交代劇 前後編」で書いた挿話の続きになります。

前の店を辞めてしまったものの、正直なところ悔いが残る。料理人として現役で働き続ける意味、それが解らない自分ではないからだ。だが、現場に戻るにしても、また一からやり直す気力が持てないでいる。

そんな思いを察してだろうか。前の店のオーナーが声を掛けてきた。親会社が半年後に予定しているイベントに臨時店舗を出店する計画があり、その采配を任せられる人物の候補を打診されていると言う。そこに何と、この自分を推薦したと告げられた。

正直、ありがたい話だ。でも、受けるべきだろうか?

いまは自分が第一線でやっていた頃と時代が違う。古巣だったあの店は、後任のシェフと副シェフの切り盛りでかつてない繁盛ぶりだ。自分がそれと同じ土俵で勝負する自信はない。
それでもオーナーが言うには、前の店で好評だった俺の料理を懐かしむ人もいるとのこと。
イベントまでの準備期間はわずか半年。だが、それなら思い切ってやって見るのも悪くないだろう。

かくして臨時店舗の立ち上げが始まった。スタッフにはオーナーの呼びかけで都内の一流店からも映え抜きの人材が集まった。あくまでも短期間という条件での話だったが。

Original Story

待望の1stソロ作

日本盤は「真実の響き」との邦題が付けられたソロ第1作。

古巣の The Doobie Brothers 脱退後では初の作品。Livin’ on the Fault Line には実質不参加だったので、レコーディングとしては76年の Takin' It To the Streets 収録の Turn it Loose 以来となる。

発表当時の反応は地味なものだった。
バンドを脱退した経緯から、音楽性を賭けたリベンジを期待する向きもあった。だが、そうした聞き方は微妙に肩透かしを食う感じなのだ。

全体としてはR&B、ソウル色が濃い内容。
1曲目、Down Along The River のイントロでギターのカッティングに絡むのはマーク・ジョーダンの弾くエレピのテンション・コード。いきなり予想外のオープニングではある。

1979年頃の音楽マーケットを踏まえての事でもあるのだろう。とは言え、これはLivin’~当時のDoobiesの腰の座ったバンド・サウンドとして聴きたかった音かも知れない。


ソロ歌手としてアプローチした本作

本作では腕利きセッション・ミュージシャンを多数起用。曲毎に変化をつけたキャスティングは、プロデューサーのテッド・テンプルマンが手がけたカーリー・サイモン、ニコレット・ラーソンらのアルバムと似た采配だ。バンドの制約を離れた多彩なアプローチ、ソロならではのフリーハンド感が本盤の特徴と言える。

本作からはA-③ Savannah Nights がシングルとして切られ、当時Hot100で34位を記録した。この日本でも一時期ディスコで定番だったそうだ。

この曲も含めて楽曲の出来自体はとても良いと思う。だが、トム本人の体調が戻らなかったのか、そこかしこで線の細さは否めない。タフなロックン・ローラーぶりはアルバム終盤の2曲で垣間見れるのだが。


ゲスト・ミュージシャンの配置に見る狙い

本盤は先に挙げたソロ・シンガーの作品に通じるゲスト・ミュージシャンの起用と配置がポイントだ。それを伝える本盤のクレジット、曲単位の布陣が分かりにくいので、スプレッド・シートに整理してみた。

クリックして拡大してみて下さい。

アナログA面がソウル、R&B寄りで、B面がロック寄りと音楽性で大まかに区分けされている。それはリズム隊の起用にも見て取れるが、本盤でのテッド流采配の極意だと思う。ニコレット・ラーソンの起用も効果的。

また、各サイドに1曲ずつ、イレギュラーな編成がある。A-④でのTower Of Powerのホーンとドラム、B-③でのDoobiesのメンバー客演がそれだ。

A-④は個人的に最も惹かれるナンバー。当時Tower Of Powerがワーナーと再契約、テッド・テンプルマンがプロデュースを担当する予定だった。結局はお流れになってしまったそうだが。

B-③は往年を思わせるギター・リフが期待させるが、曲本体はやや焦点を欠いてしまっている。バンド同様のマジックを起こせるとは限らない様だ。

これと対照的にLivin’ on the Fault Lineは、一見それっぽくないにも関わらず、やはりバンドとしてのアルバムだったのだと思う。

U.S. Billboard #100


Still Feels Good(1981)

固定メンバーで臨んだソロ2作目 前線復帰はなるか?

Still Feels Good(1981)

テッドの手を離れ、方向性を変えた2ndソロ作

1作目の幕の内弁当的な作りが肌に合わないと考えたのか、2年後のソロ2作目は基本メンバーを固定してレコーディングされた。参加メンバーとの共作が2曲あるところも1作目に無かったバンド感をうかがわせる。

プロデューサーは当時、新人AORシンガーとして鳴り物入りでデビューしたクリストファー・クロスを、グラミー受賞に導いた事で知名度を上げたマイケル・オマーティアン。


1作目と対照的なメンバー布陣

こちらも参加メンバーをスプレッドシートに展開してみた。ただし、本盤は曲単位のクレジットが無いため、正確さを欠いてる部分はご容赦願いたい。

1作目とメンバー起用の違いがわかりやすい。

さて、本盤の参加メンバーだが、なかなか凄い布陣だ。

  • Greg Douglass(Guitar) 元Steve Miller Band、ほか

  • Dennis Belfield(Bass) Rufus創設メンバー、Three Dog Nightほか、セッション多数。矢沢永吉のアルバム、ツアーにも参加。

  • Philip Aaberg(Keyboard) 後にWindham HillでNew Age系のソロ作品を多数リリース

  • Mike Baird(Drums) Hall&Oatesほか、セッション多数。後にはJourneyのサポート・メンバー(Raised on Radio tour)

このメンバーでじっくり煮出す様なアプローチで臨んだ本作、それでもどこかあっさりした味わいに終始する点は1作目と共通。R&R色を強めた内容から、本人の復調ぶりは充分伝わるのだが。

今作の場合、主役から十分な滋養成分を抽出するには、彼と対峙する個性が必要だったのかも知れない。例えばパトリック・シモンズの様な。だが、そこはソロの体裁ゆえ、致し方ないところではある。


A-① Madman は彼のロック・ナンバーとしても久々の感が。

A-④ Last Desperado はメンバーのPhilip Aaberg(Keyboard)との共作。キーボードのリフが中核となった曲調はこの人の新境地だったはず。


コーラス・ワークの復活

1作目では封印されていた節のあるバンド時代を思わせるコーラス・ワークを、今作ではセッション・メンバーで再現している。
エア・プレイのアルバムで驚異的なハイ・トーンを聴かせたトミー・ファンダーバークを含めたその一角に、パトリック・シモンズの名前も見られる。

明言は出来ないが、B-① Up on the Stage のコーラスは、パットが加わっている様に聞こえる。


ゲスト起用はやや地味か

今作でのゲスト・ミュージシャンの起用は、今一つ印象に残りにくい様に思える。その点で前作のテッド・テンプルマンは、ゲストの活かし方が上手いと感じた。音響的な配置も含めた効果的な聴かせ方、音楽的な意味合いを考慮しての演出など、色々と考えているのが解る。

U.S. Billboard #158


以上、対照的なソロ2作を見て来ました。正直なところ、どちらも一長一短ではあるのですが、当時は聞き流してしまっていた楽曲の良さを再認識しました。無理を承知ではあるけれど、現在のDoobie Brothersで再録してくれないだろうか。

Fin


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