初めて買ったLPについて A Day at the Races / Queen
フランク・ザッパが初めてではない
noteが募集するテーマ「はじめて買ったCD」で以下の記事を公開してから、何だか引っ掛かっていた。
媒体はLPでも、CDでも、カセットでも何でもいいけれど、初めて音楽パッケージを買う経験は、その人にとって何かしら特別な事だと思う。そんな「初めて」にまつわるストーリーが、このテーマの意図だったのではと想像する。
ザッパのCDを買った経験は自分なりに特別ではあったが、そういう意味では違う。「初めて買ったアルバム」ではないからだ。
A Day at the Races / Queen
という訳で、あらためて「はじめて買ったアナログ・レコード」の話題を。
76年発表のクイーン5枚目のアルバム。映画のタイトルにもなった「ボヘミアン・ラプソディ」のヒットを産んだ、前作「オペラ座の夜」に続く作品として、日本でのクイーンの人気が高かった時期に出たアルバムだった。
撮影のため久々に現物を見たけど、45年前にしては保存状態が良い!
買う前は2曲しか知らなかった
前持って聞き覚えのある曲は、2曲だけだった。シングル・カット曲の「愛に全てを/Somebody To love」と「手を取り合って/ Teo Torriatte (Let Us Cling Together)」だ。
当時、中学生だった自分にLPレコードは高価な買い物だった。他の曲が気に入らなかったら?と言うリスクは、当然考えるべきだったと思う。
それでも何故か「アルバム」を買うという行為に、何とも言えない期待感があった。その事は、はっきりと覚えている。
未知のものに接する時の、不思議な期待感、ワクワク感にお金を払った感じと言えば伝わるだろうか。
だから、前述の2曲以外はアルバムを買ってから、初めて聴く事になった。
当然ながら、最初に通して聴いた時は戸惑いの方が大きかった。それでも大枚をはたいた以上は、分かったと思えるまで何度も聴いた。
幸いクイーンは難解な音楽をやるバンドではなかったので、「ユー・アンド・アイ」「ホワイト・マン」「懐かしのラヴァー・ボーイ」辺りを切っ掛けに、アルバム全体が耳に馴染むまで時間は掛からなかった。
なお、付け加えるなら、クイーンがアルバム単位でしっかり作り込むバンドだったのも幸いしたと思う。シングル曲以外は手抜きばかり、なんて例もざらにある。LPレコード普及期の古い作品には、特にその傾向が強い。
クイーンから学んだ、アルバム単位の聴き方
ここでの「分かるまで何度も聴く」と言う経験が、重要だったと思う。
最初からサブスクリプション・サービスありき、だった近年のリスナーの方には、あまり馴染みのない感覚かも知れない。毎月、決まった額を払っていれば、新譜であっても気軽に聞くことが出来る。アルバムを買うため前もって大金を投じるリスクがないので、気に入るまで何度も聴くなんて必要もないからだ。
現在の自分も、サブスクリプション・サービスの恩恵を受けている。それでも、初めてクイーンのアルバムを買った当時に「こんなサービスがあれば良かった」とは思わない。
この時の経験から、音楽の価値は一聴しただけで決められない事を、学んだからだ。
失敗したと思っても、それはチャンスかも知れない
クイーンを皮切りに、この後も数々のアーティストのアルバムを買っては聴いた。もちろん、金銭的に毎月という訳には行かない。だからこそ、ハズレを引かないためにも、雑誌、ラジオなどからの情報収集は怠らなかったし、知人、友人との情報交換は欠かせないものになって行った。
それでも失敗したと思う事もある。
だが、買ってしまった以上は元を取るために何度でも聴いた。やがて理解できる様になれば、また一つ音楽の楽しみ方が増えて行く。
最初の1枚だったクイーン以来、自分にはそれが普通の事だった。
そんな聞き方は音楽の流通システムが異なる時代ならでは、なのかも知れない。
だが思うのだ。未知の音楽を理解できるまでに要する時間とか、忍耐力とか、それは今も同じじゃないだろうか?
だとしたら、音楽をノー・リスクで聴ける事はメリットなのか、デメリットなのか?それは最終的に聴き手の音楽への向き合い方に掛かっている。
アルバムが意味をなさない近年の傾向
アルバムと言うパッケージで音楽を買って聴くことについて長々と書いてきたが、これが現在のサブスクリプション・サービスではあまり意味を成さない。
目当ての曲、気に入った曲だけをピック・アップして、プレイリストに入れる聴き方が主流だし、それが時間効率的にも理にかなっているからだ。
だが、そんな近年でもアルバムに意味を持たせるアーティストも居ないわけではない。
= / Ed Sheeran
本作に添えられたノートでエド・シーランは「一度だけ順番に聴いてほしい」と訴えている。この曲目、曲順で伝わる何かを意識しているからこそ、出た言葉だと思う。
あえてアルバム単位で聴きたい作品
さんざん書いて来た事を覆す様だけれど、実はアルバム全編を通して聴きたくなるほどの作品って意外に多くはない。
そんな数少ない作品として個人的に推したい1枚を最後にご紹介したい。
The Hunter / Jennifer Warnes
必ずしもコンセプト・アルバムという訳ではない。けれどもタイトル、アートワーク、収録曲に何となく統一感がある。
例えばタイトルの「The Hunter」はギリシャ神話に出てくる月の女神アルテミス(狩猟と貞潔を司るとされる)を暗示し、月に関連する曲(Whole of the Moon [Water Boysのカバー] )が収録されている、といった具合だ。
そのぶん色々と想像を巡らせる余地が残されているとも言える。自作曲、カバー曲、ドナルド・フェイゲンの書き下ろし曲など、どれも聴きごたえがあって飽きが来ない。
なお、本作は録音とミキシングが高クオリティである事で知られ、前述したドナルド・フェイゲンの「ナイト・フライ」と並ぶオーディオのリファレンスとしても一時有名になった。実際、レコーディング・スタッフが重なっている上、フェイゲン自身も曲提供の他に演奏でも参加している。
Fin
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