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「ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行」で見た映画オタクのあるべき姿

今まで見た映画の本数をすべて数えて、すべて記憶している人はどれだけいるんだろう。少なくとも僕は数年前に見た映画の内容すら簡単に忘れるし、本数は数えてすらいない。

人生で1万6000本以上映画を見たと豪語する筋金入りの映画オタク、マーク・カズンズ監督のドキュメンタリー映画「ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行」を見てきた。

自身もドキュメンタリー作家として活躍するカズンズ監督の映画をめぐるエッセイのような作品。原題は「The Story of Film: A New Generation」というもので、どうやら彼が執筆した本「The Story of Film」(日本未発売)、さらにそれを基にした全15章、全編900分という映画史のすべてを網羅し解説した同名のドキュメンタリーシリーズの新章という位置づけらしい。全然知りませんでした…。

この作品では「ニュージェネレーション(新世代)」というタイトルが付いている通り、主に2010年から2021年までの11年間に発表され、映画の可能性を広げた膨大な数の作品が取り上げられ、監督は彼の映画理論に沿ってこれらを縦横無尽に線で繋いでいく。

取り上げられている111の作品は本当に多岐に渡っていて、ジャンルも知名度も製作規模も国も関係なく、あるのは映画という縛りだけ。「デッドプール」や「ブラックパンサー」のような知名度バツグンのアメコミ作品からハリウッドのホラー映画、インドの娯楽ボリウッド映画、中南米のドキュメンタリー映画、おそらく美術館でしか上映されてないような実験的な短編映像作品まで、すべてをフラットに取り扱っている。

監督はこれらを単に羅列していくだけじゃなく、テーマや手法に隠された以外な共通点や類似点、反対に同じテーマの作品同士の手法の相違点などを167分という時間の許す限り、実際の映像とともに解説していく。

余談だけど、僕がやってる映画のトリビアを紹介するTwitterアカウントでは、取り上げる作品のジャンルができるだけばらばらになるように気をつけている。これはまったく違う作品を順番に見た時に感じる意外な共通点のようなものが大好きだからだし、それを見てる人にも感じてもらいたいという思いを込めてやっているので、カズンズ監督にも若干のシンパシーを勝手に感じてしまった。

冒頭の「ジョーカー」の階段ダンスシーンと「アナと雪の女王」のエルサの「レット・イット・ゴー」の歌唱シーンに共通する「解放のテーマ」と、なぜこの2つの作品が現代でここまでヒットしたのかを結びつけるパートなど、思わず「あー、なるほどー」と声に出したくなる気づきがたくさん含まれている上に、単に「え、この映画面白そう」という映画カタログとしても優秀。まだまだ知らない映画がたくさんあることを教えてくれる。

ちなみにこの作品で取り上げられている111本の映画リストはパンフレットにすべて載っているので、これを元に見る映画を決めていくのも良い。

にしても1万6000本見た男である。1965年生まれということだから、生まれた瞬間から映画を見始めたとして(流石にないよね?)、年間約280本をコンスタントに57年間見続けたという計算。総本数ということだから同一作品の複数回の鑑賞は計算に入ってない。明らかに狂人の域と言っても良い。

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