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#27【クリーピー 偽りの隣人】後編 編集後記

どうも、毎日映画トリビアです。

先週に引き続きホラー映画「クリーピー 偽りの隣人」の後半回、編集後記です。個人的な補足と言い訳、早速行ってみましょう。

こっちを見てる件

今回のエピソード内で触れた、エキストラの一人がとあるシーンで完全にカメラの方を見てる件について。

ラジオで映画批評を行ってるライムスター宇多丸さんが公開当時に行った評の中でこのことに触れてるんですが、それがこれ。

そこでですね、川口春奈さん演じる、過去に一家失踪事件があって、そこで取り残された女の子。それに主人公が大学教授という立場で犯罪研究をしているということで、聞き取り調査をするという場面がある。で、最初はね、「聞き取り調査をしますよ」という時に、「こんなすごい開放感あふれる、外から丸見えの部屋でやるんだ。もうちょっと落ち着く場所でやった方がいいんじゃないの?」みたいな。ちょっと微妙にこっちもなんか居心地悪い感じで観客も見ているわけですよ。そうすると実際に主人公の後ろ、部屋の外側、ガラスの外側の広場にはですね、たくさんの学生たちがワイワイワイワイ、一見無秩序に、自由にワイワイワイワイ楽しそうにやっているわけです。しかし、この後ろのエキストラもですね、どうやら明らかに計算された動かし方をされていると。

たとえば、その証拠にと言うべきか。この聞き取り調査、インタビューを西島さんが始めますよ。そのはじめたあたり。後ろね、丸テーブルに座っている女の子3人ぐらいと男1人が普通に、楽しげにもう本当にただのエキストラっていう感じで会話しているんですけど……あるポイントで、その男がですね、全く脈絡ないんですけど西島さんのあるセリフと全く同時のタイミングでいきなり、さっきまで普通に楽しく話していた外側の男が、はっきり川口春奈さんのいる部屋のこっち側をキュッて向いて、ジーッと凝視するんですよ。で、しばらく見た後、またプッと戻って、普通に何事もなかったかのように、楽しげな会話に戻るという。非常に、気になるな!っていう(笑)。嫌だな!(笑)。もちろんこれ、物語的な理は落ちないです。このディテールには。でも、とにかくこっちを不安にさせる。なんなら、それに気づかない観客も無意識に不安になるようなディテールが後ろに仕込まれている。

宇多丸 『クリーピー 偽りの隣人』を語る! 
by「週刊映画時評ムービーウォッチメン」2016年6月25日
公式書き起こしより

そして、このシーンが本当に「偶然」であったことを監督本人が語っているインタビューがこれ。

──その一室の窓の外にいる学生のひとりが、しばらくカメラのほうを見つめます。あの奥からの動きも画面をざわめかせています。

たぶん彼は、こっちを見ているという認識はなかったと思うんです。ガラスに何か映っているのを見ている。外は太陽が照っているので、反射で大学のなかは見えないはずで、ガラスに映った何かを見ているのが、こっちを見つめているようになったんだろうと推測しています。エキストラの細かい動きはすべて助監督に任せました。だから僕も気にはなったんですけど、「まあそれもいいか」って(笑)。どうせ、ある種の狙いを持たせたエキストラなので。画面の手前でおこなわれている過去の物語とは基本的に関係ないというか、「奥の学生たちもゆるやかにではあるけど何かやろうとしている感じがベスト」と助監督にオーダーして、あとは任せたものですから、「たまにはこっちを向いてる奴がいてもいいか」と割り切って撮影を続行しました。

──エキストラがああいう動きを取った瞬間にカットをかける人もいると思いますが、黒沢監督の場合は……

いやいや、全然OKですね。急にこっちを向く人って、僕は好きなんです。

神戸映画資料館
『クリーピー 偽りの隣人』 黒沢清監督インタビューより

黒沢清監督が作り上げるあの奇妙な世界観の中では、このような不自然さも僕らが勝手にその世界と紐付けて、演出として生きてくる。監督の作品の魅力を表した良い例として上げてみました。

たとえエキストラのカメラ目線は完全な偶然だったとしても、それを「むしろOK」として本編に使用したこと自体を監督の「演出」と捉えても良いのかも知れません。

考えてみるとこの「誤解」自体が、どうしてもカメラに写ってしまう「ただの現実」に意味をもたせること自体が映画撮影なのかもしれない、ということを表していて、良い話だと思います。映画って面白い。

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