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観ている者の胸を熱くする音楽映画の誕生 『BLUE GIANT』

2月17日(金)公開 全国ロードショー

■あらすじ

 高校時代にジャズに出会い、「世界一のジャズ・ミュージシャンになる!」と決心した独学のサックスプレイヤー宮本大は、故郷仙台からいよいよ東京に出てくる。高校の同級生だった玉田の下宿に居候を決め込み、隅田川にかかる高速道路下を練習場所にする貧乏暮らしのスタートだ。

 だがジャズは今や衰退した音楽ジャンル。飛び込みで入った小さなジャズクラブも、今はライブをやっていないという。紹介されたライブハウスで、大は同い年の凄腕ピアニスト沢辺雪祈に出会う。「俺と組もう」と持ちかけた大の演奏を聴いて、雪祈はこれを了承。だがバンドの形にするには、最低限もう一人ドラムが必要だ。

 ここでドラマーに名乗りを上げたのは、音楽未経験者の玉田。ドラムセットを触ったこともない彼の参加を雪祈は当然渋るが、大の後押しと本人の熱意に押されてなんとかバンドは成立。玉田の頑張りで何とか音が揃ってきた頃、大はバンドのライブ出演を提案する。

■感想・レビュー

 ビッグコミックで今も続編が連載されている石塚真一の同名コミックを、『劇場版 名探偵コナン 黒鉄の魚影』の公開も控える立川譲監督が映画化。物語の主役とも言えるジャズの音源担当は、ジャズ・ピアニストの上原ひろみが担当している。

 原作は仙台編のエピソードを大胆に割愛して、主人公が東京に出てきてバンドを組むところからスタート。過去エピソードは短い回想や、キーパーソンたちのインタビューをインサートすることで紹介する処理だ。

 この映画のテーマはひとりひとりの人間よりも、まず第一に「バンドの成長」なのだ。ジャズはロックとは違い、一度組んだバンドがずっと同じメンバーで続いていくわけではない。それぞれがメンバーと触発し合い、成長の糧にしながら、それぞれの目指す音楽の道を進んで行く。本作は主人公が組んだ「JASS」というバンドの結成から、その成長、そして解散までを描ききる。

 この映画には宮本大の独学の3年間も、幼少期からピアノにかじり付いてきた沢辺雪祈の14年間も描かれていない。だから観客の多くは、この二人の才能に必死に食らいつく玉田俊二を応援したくなってしまうのではないだろうか。

 大学で熱くなれるものを探してジャズに出会い、音を合わせる喜びに目覚めてしまった彼は、文字通り血のにじむような努力で(大学も留年して)ドラムの技術を向上させていく。JASSというバンドの成長は、そのまま玉田の成長でもある。最初は大や雪祈に付いていくのが精一杯だった玉田が、SoBlueのライブで高速のドラムソロを叩く場面には感動してしまう。(プロが演奏していると知っていてもだ。)

 3人揃った最後のライブのラストナンバー。その締めくくり部分で、玉田は不自然なほどドラムソロを長く演奏する。彼は3人での演奏を止めず、ずっと演奏を続けていたかったのだ。玉田のドラムこそが、映画『BLUE GIANT』の語り部であり狂言回しだ。

ユナイテッド・シネマ豊洲(6スクリーン)にて 
配給:東宝映像事業部 
2023年|2時間|日本|カラー 
公式HP: https://bluegiant-movie.jp/
IMDb: https://www.imdb.com/title/tt15737898/

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