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“映人仲間”第七回『助監督』

映画『初めての女』の原作『俳人仲間』(新潮社)になぞらえて、本作の監督・小平哲兵が撮影当時のキャスト陣とスタッフ陣を振り返ります。


80年代のラグビードラマの人

7回目は、助監督の白田さんについて振り返っていこうと思います。

白田さんとは今回の作品が初めてのスタッフだった。

白田さんは僕よりも少し歳上の身体の大きい男性で、ロマンチストな熱血漢。

例えるなら、80年代のラグビードラマの人だ。


しかし、四日目の早朝……

白田さんとは、撮影が始まる2ヶ月前位から、東京で脚本の細かな解説や作品の方向性、他愛のない雑談なんかで度々打ち合わせをした。

この頃の印象は、接しやすいスマートな先輩といったところだった……

現場が始まる一週間前の前乗りも、スタッフでは白田さんと僕、三人の役者さんとだった。仲良く、日々の稽古に打ち込んでいた私達5人。

しかし、四日目の早朝の事だった。

カメラに映らない枝の位置を調整


無言のままのホットコーヒー

白田さんは一身上の都合により急遽、東京に戻らないといけないことになる。

その日の朝一の電車に、僕は車で白田さんを送っていった。
白田さんは申し訳なさそうに、「こんな時にごめんよ」と幾度も謝った。

僕は、「何言ってんだ、待ってるからな」とその度に言った。

電車まで少し時間があったので「ドライブスルーの珈琲を飲もうよ」と白田さんが言ったので、二人で無言のままホットコーヒーを飲んだ。


体重100キロを超える大男二人

すると、白田さんが感極まって涙ぐみながら、
「……小平さん、俺さ、苦くて珈琲嫌いだったんだけど……やっぱ苦いや」

私は「そうやな」と返した。

朝一の改札に人の姿はほぼ無く、体重100キロを超える大男二人が、涙ながらに抱擁し再会を約束して別れた。


「いや〜楽しくなってきたね!」

もちろん、その後撮影日の前日には白田さんも戻って来て、現場でも熱すぎるラグビードラマの如くフルMAXで駆け抜けていった。

撮影が押しに押して、えらい事になってきて、皆んなが撮り切れるのか不安な空気になっても。

誰よりも先ん出て、パチンっと手を叩き「いや〜楽しくなってきたね!」と言い放つ白田さんは、かっこよかったです。

雪の代わりに落ち葉を敷き詰める


そうだ、雪を取りにいこう

更に、印象的な紅葉の孝作と菊の神社のシーンでは、(脚本には雪とあった為)前日の深夜に、

山頂まで僕とトラックを借りて往復し、雪を取りにいこうとし、撮影監督の仁宮さんに物理的に意味ないからと叱られた。

白田さんはいつも心意気やよしだった。

しかし、結果紅葉を集め敷き詰めて正解だったと思う。


「この撮影で誰が一番成長したかわかる?」

本撮影が終わり、白田さんとサヨナラする時も彼はこんな言葉を後にした。

「この撮影で誰が一番成長したかわかる? 俺だよ」

白田さんの放つ言葉はゾワゾワするし、行動は大抵空回りしがちだけど、半径1メートル以内で白田さんと過ごすと、彼を皆んなきっと好きになる。

自分も何かやれそうな気持ちにさせてくれる人で、私は大好きだ。
ありがとう。



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