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拳をぶち上げたくなる“最高のエンタメ” 今観てほしい注目作をご紹介【次に観るなら、この映画】10月22日編

 毎週土曜日にオススメの新作映画をレビューする【次に観るなら、この映画】。今週は3本ご紹介します。
 
①「バーフバリ」シリーズのS・S・ラージャマウリ監督最新作「RRR」(10月21日から劇場で公開中)
 
②「サイコだけど大丈夫」のソ・イェジが主人公を演じるサスペンス「君だけが知らない」(10月28日から劇場で公開)
 
③音楽レーベルの創設者の波瀾万丈な人生を映画化した「クリエイション・ストーリーズ 世界の音楽シーンを塗り替えた男」(10月21日から劇場で公開中)
 
 劇場へ足を運ぶ際は、体調管理・感染予防を万全にしたうえでご鑑賞ください!


「RRR」(10月21日から劇場で公開中)

◇「最高濃度の映画体験」看板に偽りなし ラージャマウリ監督にひれ伏したくなる特級エンタメ(文:岡田寛司)
 
 「最高濃度の映画体験」という熱狂的な文句に対して、「いやいや、煽りすぎでは?」と半信半疑でスクリーンと向き合った結果、私がどうなったと思いますか? 拳をぶち上げたくなる“最高のエンタメ”の前にくずおれ、そして、ひれ伏した――すっかり“RRR信者”となり、S・S・ラージャマウリ監督の豊かなクリエイティビティを称え続けていたのです。
 
 日本でも大きな話題となった「バーフバリ」シリーズのラージャマウリ監督。新作の舞台としたのは、1920年・英国植民地時代のインド。英国軍にさらわれた幼い少女を救うため立ち上がったビームと、大義のため英国政府の警察官となったラーマ。敵対する立場にあった2人が、互いの素性を知らず、運命に導かれるように出会い、無二の親友に。しかし、ある事件をきっかけに、2人は究極の選択を迫られる。

(C)2021 DVV ENTERTAINMENTS LLP.ALL RIGHTS RESERVED. 

 主人公のA.ラーマ・ラージュとコムラム・ビームは、実在したインドの独立運動の英雄。実際に出会うことのなかった2人が「もしも出会っていたら?」という発想から生まれた物語は、初っ端からフルスロットル。それぞれの驚異的な身体能力&胆力を示すべく「無謀すぎる!1人VS数千人の群衆」「超ワイルドな猛獣鬼ごっこ」が展開。イントロからこんなにぶっ飛ばしていいのかと思うほどの加速ぶりですが、ご安心ください。ラージャマウリ監督、まだまだ余力を残しつつ、アクセルをべた踏みしていきます。 

 全編過不足なくぶち込まれていくアクションは、どれも新鮮の一言。邂逅を視覚的に表現したサーカス的救出作戦、獰猛な野生動物が暴れまくる公邸パーティー、「その体勢で進むのか…!?」と舌を巻く脱出劇、そしてバイクがぶっ飛び、弓矢が鮮やかに射出されていく壮絶リベンジ。「友情か? 使命か?」という2択によって生み出されるラーマ&ビームの“激情”も重なり、凄まじきエネルギーを発するシーンばかりなのだ。

(C)2021 DVV ENTERTAINMENTS LLP.ALL RIGHTS RESERVED. 

  N・T・ラーマ・ラオ・Jr.&ラーム・チャランの超絶テクが堪能できるノンストップの耐久ダンスバトル「Naatu Naatu」は、多くの人を虜にしてしまうはず……というよりもかなりの中毒性をはらんでいるので、ご覚悟を。本作鑑賞後、暫くの間「Naatu Naatu」が脳内に鳴り続けていたことは言うまでもない(こう記しながら、今でも口ずさんでしまっている……!)。 


「君だけが知らない」(10月28日から劇場で公開)

◇ソ・イェジが記憶を失くした妻を演じ、見る者を翻弄する新たなサスペンス(文:和田隆)

 Netflixでも配信された韓国ドラマ「サイコだけど大丈夫」のサイコなドSキャラを魅力的に演じ、日本でも一躍人気女優となったソ・イェジ。魅惑的な低音ボイスも持つ彼女の映画最新作ということで注目されているが、ドラマを見ていない人、まだ彼女を知らない人でも引き込まれてしまうであろう、見る者を翻弄する新しい韓国製サスペンスとなっている。

 事故で記憶を失い、幻覚で未来を見るようになる主人公スジンをソ・イェジが繊細に演じ、過去、現在、未来の境目がわからなくなっていく様が恐ろしい。自分はいったい誰なのか。ある日、スジンは殺人現場を目撃してしまい、実際に死体が発見され、次第に彼女の精神は混乱していく。そんな彼女を献身的にサポートする夫ジフンを「背徳の王宮」などの実力派俳優キム・ガンウが演じているのもポイント。予測不能なサスペンスを掻き立てる。

(C)2021 CJ ENM. All Rights Reserved.

 さらに、記憶を失っていたスジンが徐々に記憶を取り戻して事件の真相に迫っていくだけでなく、ドラマは二転三転し、ノンストップで展開。フラッシュバックでスジンが思い出す記憶や、現実に起きる不可解な出来事に、デジャブ(既視感)のような幻覚=未来が複雑に絡み合い、その映像(編集)を見ている者にも混乱をもたらしていく。先ほど見たシーンは本当にスジンの記憶なのか、ジフンの作り話なのか、見えてしまった幻覚は未来に起きることなのか。観客はそれらの映像のパズルを組み合わせていくうちに、改めて映画が“記憶の装置”であることに気づくだろう。

 本作のメガホンをとったのは女性監督のソ・ユミン。「八月のクリスマス」などのホ・ジノ監督のもとで長年にわたり助監督や脚本を手掛けてきたというだけに、切れ味のいいサスペンスフルな展開だけでなく、しっかりと間をとった俳優陣の演技で物語に迫真性を与えているのも納得。デビュー作ながら、2021年の公開時に韓国のボックスオフィスで初登場1位を記録している。

(C)2021 CJ ENM. All Rights Reserved.

 そして、クライマックスで事態は急展開し、真実が明らかになっていくと、驚きとともに本作は深い愛に包まれる。身近な人が、今まで見せたことのないような表情をした時、自分が知っているのは本当のその人ではないのではないか。日常生活でふと感じるそんな恐怖。もしくは恐怖の先にある真実の愛を、あなたならどう受け取るだろうか。劇場公開前に、動画配信サービス「シネマ映画.com」で限定プレミア配信されるので、いち早く見てほしい。


「クリエイション・ストーリーズ 世界の音楽シーンを塗り替えた男」(10月21日から劇場で公開中)

◇電車に乗り遅れた時、あなたならどうする?(文:髙橋直樹)

 とにかく忙しい映画だ。

 1960年、グラスゴーで生を受けた音楽少年アラン・マッギーは、デヴィッド・ボウイやTレックスの洗礼を受け、多感期に入るとセックス・ピストルズに遭遇、鼓膜を突き破られるような衝撃を受けバンドを始める。ご多分に漏れず夢を追ってロンドンへ。だが、ロックスターへの道は果てしなく遠い。暮らしに困窮すると鉄道会社に就職、仲間たちと開業したクラブでバンド発掘を開始、昼夜奮闘しながらマネージメントへと乗り出していく。

 ここからが本番。“クリエイション・レコーズ”立ち上げからの苦難を乗り越え、マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン、プライマル・スクリーム、そしてOASISらと劇的に出会い、ブリット・ポップの景色を変えていく。

 OASISがライヴを行うL.A.に降りたったアランが取材に臨む。白ワイン、シャンパンからオン・ザ・ロック、片時も酒を手放さない彼の語りを横軸に、グラムロックに触発された思春期、ピストルズを目指した青年期、アルコールとドラッグ漬けの中で音楽を探し続けた日々が活写されていく。

(C)2020 CREATION STORIES LTD ALL RIGHTS RESERVED

 “クリエイション・レコーズ”は、憧れだったボウイが「レッツ・ダンス」を歌い、カルチャー・クラブがチャートを席巻した1983年設立。創業メンバーはアランとバンド仲間たち。経営感覚ゼロで行き当たりばったり。レコーディングに2年も費やす天才肌もいた。当然、資金はすぐに尽きる。杓子定規で官僚的な銀行員に反発し、レーベルをメジャーに身売りした男に辟易し、闇金を調達して起死回生に賭ける。

(C)2020 CREATION STORIES LTD ALL RIGHTS RESERVED

 Fワード連発、破天荒な実体験満載のアランの自伝を余すことなく伝えたい。クリエイターたちの気概が漲る。製作総指揮に「トレインスポッティング」(1996)(※以下“トレスポ”)のダニー・ボイル、脚本に“トレスポ”の原作者アーヴィン・ウェルシュとディーン・カバナー、「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」(1998)に主演したニック・モランが演出を務める。アラン・マッギーには、“トレスポ”で最も情けないキャラクター、スパッド役のユエン・ブレムナー。U.K.ケミカル・ジェネレーションの精鋭たちが結集、それぞれの実体験が裏打ちされたリアルな描写と編集で息つく暇を与えない。

 でも、ただ忙しいだけじゃない。

 無鉄砲で酒とクスリに溺れても、音楽と向き合う時だけはストイックなアランには運命の導きがあった。電車に乗り遅れたから生まれた奇跡の出会い、天に召された母との再会、柄にもなく政治に首を突っ込んだ後には悔恨も。そして、身も心も憔悴したリハビリの過程に芽吹く新たな希望。映画だからこそ表現できる特別なモーメントが絶妙にブレンドされている。

 電車に乗り遅れた時に、悔やむのか、受け入れるのか。それはあなた次第。予期せぬ所に、夢を追う者にだけ与えられる特別な導きが待っているかも知れないのだから。

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