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短歌

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気になる短歌についての考察や歌集評、制作した短歌などをこのマガジンにまとめています。
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#短歌

【一首評】3番線快速電車が通過します理解できない人は下がって(中澤系)

習慣化された過程は気に留められないものだが、この社会を占める多くの〈理解できる人〉にとって前段の通達は、後段の命令の予告になりうる。 文: シゲフミ この一首は歌集『uta0001.txt』の巻頭を飾り、鮮烈さをもって迎えられてきたという(e.g. 山田 2008)。だが、数多の読者をたじろがせた異様さは、どこから感じられるものだろうか? よりハッキリと言ってしまえば、いったい何が妙だとされたのか? 言≒動としての言葉づかい まず発話行為、何か言うことは即ち何かを行う

異化してキメろ!レトリック逆算詠

文:クサナギ・シゲフミ  これは短歌同人「たんたん拍子」6号への出張企画「レトリックを縛って詠もう!」の補足記事です。「たんたん拍子」6号と合わせてお読みいただくと、さらに面白いかも知れません。  「たんたん拍子」6号の企画では、短歌に組み込むと面白くなりそうな任意のレトリック(修辞法)10個のうち、たんたん拍子メンバーがルーレットで当たったものを意識して各自で一首作りました。  本記事では、①レトリックルーレット、②10個のレトリックの解説、③特に気になったたんたん拍子メ

短歌の解釈が分かれる言語的な要因~構造的曖昧性を中心に~

クサナギ:今回はシゲフミ(以下、シゲ)とクサナギ(以下、ナギ)の二人で、言葉の組み立てから情景を絞り込めない短歌三首を取り上げ、短歌の解釈が分かれる言語的な要因について考察していきたいと思います。この三首の解釈について、Twitter(現X)のアンケート機能を使ってみなさまから意見をお寄せいただきました。たくさんのご回答ありがとうございました! シゲ:その節は皆さん、ありがとうございました!  さて、本題に入る前に思い返してみてください。普段、面と向かって喋っていて、たとえ

【創作掌篇】付け句3本立て(テーマ:都市伝説)

シゲフミ(以下、シゲ):出題者。出先でコンビニに寄ったところ、ふと並べられた雑誌・漫画の一角を見て思いついてしまった。 クサナギ(以下、ナギ):回答者。お気に入りのパン屋さんで買い物をした帰りだった。急な思いつきを振られて驚いている。 シゲ:藪から棒とは知ってのことで、例えば「コンビニに楳図かずおが置いてある」で上の句(五・七・五)になると思うんですが、下の句(七・七)をつけてホラーにしてください。それも、アイデア一発勝負のB級じゃない方で。 ナギ:無茶ぶりだなあ。でも付

三田三郎『鬼と踊る』歌集評③~全体構成を語る読書会

歌集全体の構成について書き起こし: クサナギ それぞれ「鬼と踊る」を読んで評をしてきましたが、二人に共通して「歌や連作の並びが計算されている」という感想がありました。 では、歌集全体の構成はどうなっているのでしょうか。下記のように連作をいくつかのブロックに分けて考察してみました。 第①ブロック95首 ワンダフルライフ(11 首) 自律神経没後八年(10 首) ワイドショーだよ人生は(12 首) 前科があるタイプのおばあちゃん(9 首) パーフェクトワールド(15 首)

三田三郎『鬼と踊る』歌集評②~「人生」から「人生(Part2)」までを読む(文・クサナギ)

泥酔と日常の反復横跳び文: クサナギ 「鬼と踊る」を通読して、目を引かれるのはやはり飲酒をテーマとした連作群だろう。私も酒飲みだと自負しているのだが、それにしても「酒」というテーマ詠でここまで歌をつくれるものかと感嘆してしまった。 例えばこの歌は、一首単体で読むとお酒の歌とはわからない。上の句を贅沢に使って口の中の感覚に焦点を当てていて、官能的な感じさえ受ける歌だ。だがその前の歌と合わせて読むと、お酒にのめり込んで咀嚼すらめんどくさくなったような主体の姿が浮かび上がってく

三田三郎『鬼と踊る』歌集評①~酷く理性的な酔っぱらい?(文・シゲフミ)

連作「肝臓のブルース」でパラレルに示される「僕」の矛盾したセルフ・イメージ文: シゲフミ 三田三郎による「肝臓のブルース」は、徹頭徹尾、アルコールに取り憑かれた連作である。たとえ内容を一言で要約せよ、と言われても「何がどうあろうと酒が飲みたい人の歌」、としか返しようがない。そこから先の、「僕」のとる姿勢に対する評価は、読者に委ねられている。観る人によって、自他の知識や経験に基づき、親身になって案じたり、愚かだと詰ったり、あるいは我が身を省みたりと、投影してみる裁量があるだろ

むきだしの感情(今橋愛『O脚の膝』書評)

 今橋愛の歌が好きだ。好きすぎて、なかなかこの『O脚の膝』という歌集に手が出せなかった。買ってはいたものの、読んで打ちのめされるのが怖かったのである。腹を決めて読んだらやっぱりノックアウトされたけれど、どのようなところに心動かされたか、一ファンとして忘れないうちに書き留めてみる。 独特の文体からにじみ出すもの  まずこの歌集を開いて驚くのが、その独特の文体である。ひらがなや改行、句読点を多用してつくられた歌が多いので、初めて今橋の歌を見たときは思わず「短歌って一行で書くも