除霊(前編)
「あの店のカウンターに透明のおじさんが座っている」
そう言って大好きなレストランに行くことをためらうようになったのは妹が小学5年生の頃だった。お店のマスターは腕は良いがマナーのない客は追い返すような江戸っ子気質で、妹がテイクアウトばかりでお店に顔を出さなくなった理由を聞いて「霊感とかそういうやつ?そんなのいるわけないだろ。」と機嫌を悪くした。
それから数年後、母親のお寺関係の古い友人スピリチュアルカウンセラー、ドラゴン先生(前話「チャンネル6」参照)を連れてそのお店にいった。そして誰も座っていない扉から一番手前のカウンターの席に立ち止まりじっと空を見つめた。そのあと、何語かわからない言葉をごにょごにょと話をした後、ドラゴン先生はテーブルについた。母はそのやりとりをみて妹がこのお店にしばらく来ていない理由を思い出しその話をした。するとドラゴン先生は
「もういなくなったわよ」
といった。なんでもその透明のおじさんはこのレストランができる前からこの土地に住み着いている霊で、”もうここはあなたが住む場所ではないわよ”と伝えたら消えたという。後日、妹が母からそのことを伝えられて家族全員でレストランに行った。そして「本当に透明のおじさんがいなくなっている。やっば!」と妹が驚いた。久々に店に来た妹から事情を聴いたマスターは「おいおい、気味が悪いな。やめてくれよ」と困った顔をした。
それから1年くらいたったある日、マスターが母親にある相談を持ち掛けた。
「うちの最上階、8階の角部屋なんだけどさ。この1年でもう2組引っ越しているんだよ。それで新しく入った家族がまた引っ越すっていうから思い切って山田さんに事情を聴いてもらったんだよ。そうしたら奥さんが”キッチンに立っていると背後から小さな子供が話しかけてくるんです。それが続いて怖くなってしまって”っていうんだって。そのお母さんは妊娠していて、子供が生まれてくるからって2LDKのうちに越してきてくれたのは知っていたからさ。つまりその家には子供がまだおなかの中にしかいなかったんだよ。気味が悪いしおれもそういうの一切信じないタイプだからさ。だけどこうも続くと何か手を打たなきゃなと思って。そこで考えたんだけど、あの前に連れてきたおばさんに一回部屋見てもらえないかな。」
レストランが1階に入っているその建物はマスターが所有している賃貸物件だった。当時のあのあたりでは群を抜いて高い建物で、すべてが2LDKという間取りが特徴的だった。近所の山田不動産が管理をしていた。山田さんは人情味のあるげんきなおばちゃんで、小さいころからじいちゃんが持つアパートの管理でお世話になっていた。山田さんはマスターから話を聞いた時に「事故物件とかならね、そういう話聞くんだよ。だけどそういうわけでもないからさ、ちょっと気味が悪いわよね」と話していたという。
数日後、母親から相談を受けたドラゴン先生が再びレストランにやってきた。
つづく
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