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第22話 Witnesseth って英語ですか?

第21話では Whereas や Now Therefore などと、歴史を感じさせる語句が出てきました。今回は契約書の出だし部分での、その種の話の締めくくりです。

This Agreement withesseth that …


よく見かける契約書の出だしを、今までとは別の角度から見てみましょう。

                                                   Agreement

This Agreement made and entered into as of this 15th day of November, 2017 by and between, King Electronics Corporation, a corporation of Delaware, having its principal place of business at … USA (hereinafter referred to as the “COMPANY”), and Oyez Co., Ltd., a corporation of Japan, having its principal place of business at …, Japan (hereinafter referred to as “OGC”),

WITNESSETH:

WHEREAS, OGC and the COMPANY wish to ; and

WHEREAS, OGC and the COMPANY envisage that …,

NOW, THEREFORE, for and in consideration of the mutual covenants and agreements herein contained, OGC and the COMPANY hereby covenant and agree as follows:

最初にThis Agreement made and entered intoと書いてあります。なぜThis Agreement <is> made and entered intoと動詞が置かれていないのでしょうか?

名詞を後ろから修飾

その理由は made and entered into は動詞の過去分詞の形で、形容詞として This Agreement を後ろから修飾しているからです(第6話をご覧ください)。This Agreement [which is] made and entered into と考えれば分かりやすいでしょう。「締結された契約書」というわけです。

ほかには Co., Ltd.(全部を綴れば Company Limited)も構造としては同じです。「その株主の責任が出資に限定されている会社」という意味なのです。「限定されている」に当たる limited が、修飾する対象である company の後ろに置かれています。このような構文は契約書に時々見られます(☚これがポイント)

それではThis Agreement はどこに続くのですか?

どうやら This Agreement は頭にあるのだから、文章の主語のようです。ではどこに動詞があるのでしょうか。それが witnesseth なのです。これは  witness(証する)という動詞に3人称単数、現在形の語尾 eth(現代の es の古い言い方)がついたものなのです。
 
つまり This Agreement … WITNESSETH …、「本契約書は以下のことを証する」という構造なのです。そして、それ以降に書かれることが契約書の実質的な内容なのです。

ということは「もし is を入れると、動詞が2つあることになって間違い?」と思う方もいらっしゃるでしょう。その通りです。でも実際にはかなりの契約書に is が存在します。そのうちに witnesseth は意味も分からずただ置かれ、 is のある方が標準になるのではないかと感じています。

契約書でところどころ大文字が使われている理由

余談ですが、契約書の中でこの Witnesseth に限らず、Whereas や Now Therefore、一番最後の In Witness Whereof などといったところで、本来小文字でよさそうなのに、頭文字が大文字で書かれていたり、ときには全部大文字で綴られる単語があります。なぜでしょう?

その昔、契約書は代書屋によって、手書きで作成されました。その時にいくつかの、大切な意味を持った言葉を飾り文字で書いたのです(本話や第21話の冒頭の写真をご覧下さい)。

契約書をタイプで打つ時代になっても、契約書の形式は引き継いだのですが、いかんせん飾り文字はないので、やむなく違いを示すために大文字で打つことにしたのです。法律上の要請でそうなったわけではなく、実際にそんなことは忘れても全く実害はないのですが、今でも伝統を引きずっている、というわけです。(☚これがポイント)

昔の契約書は、全部が1文として書かれていた

ついでに言えば、昔の契約書は This Agreement … witnesseth that … と続いて全部が1文として書かれていて、一番最後に「 . 」が1つだけついていたのです。しかも、このピリオドを除いて、文中に1つも句読点が使われていなかったのです(「法律家は句読点などに頼ってはいけない。そんなものがなくても、正しく読める文章を書かなければならない!」としつけられていたそうです)。

もちろん現実には、全文を通じて主語が1つ、動詞が1つしかなかったというのではありません。よく見れば、主語もたくさん、動詞もたくさんあり、独立した文章に分けようとすれば出来るのですが、そうはしなかったのです。

しかし、国際契約書でもこんな形にこだわることなく、もっと現代的に書いたものもたくさんあります。

契約書は当事者の権利、義務をきちんと書いてあればよいのです

契約書には当事者の合意の内容が分かりやすく書かれていて、万が一紛争になったときにも裁判官、仲裁人といった第三者に、当事者の権利、義務がよく分かればよいのです。上のような英国の古い書式を真似する必要もなければ、難しそうな英語を使って書く必要もありません。気を楽にして、書いてみましょう。

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