第22話 Witnesseth って英語ですか?
第21話では Whereas や Now Therefore などと、歴史を感じさせる語句が出てきました。今回は契約書の出だし部分での、その種の話の締めくくりです。
This Agreement withesseth that …
よく見かける契約書の出だしを、今までとは別の角度から見てみましょう。
最初にThis Agreement made and entered intoと書いてあります。なぜThis Agreement <is> made and entered intoと動詞が置かれていないのでしょうか?
名詞を後ろから修飾
その理由は made and entered into は動詞の過去分詞の形で、形容詞として This Agreement を後ろから修飾しているからです(第6話をご覧ください)。This Agreement [which is] made and entered into と考えれば分かりやすいでしょう。「締結された契約書」というわけです。
ほかには Co., Ltd.(全部を綴れば Company Limited)も構造としては同じです。「その株主の責任が出資に限定されている会社」という意味なのです。「限定されている」に当たる limited が、修飾する対象である company の後ろに置かれています。このような構文は契約書に時々見られます(☚これがポイント)
それではThis Agreement はどこに続くのですか?
どうやら This Agreement は頭にあるのだから、文章の主語のようです。ではどこに動詞があるのでしょうか。それが witnesseth なのです。これは witness(証する)という動詞に3人称単数、現在形の語尾 eth(現代の es の古い言い方)がついたものなのです。
つまり This Agreement … WITNESSETH …、「本契約書は以下のことを証する」という構造なのです。そして、それ以降に書かれることが契約書の実質的な内容なのです。
ということは「もし is を入れると、動詞が2つあることになって間違い?」と思う方もいらっしゃるでしょう。その通りです。でも実際にはかなりの契約書に is が存在します。そのうちに witnesseth は意味も分からずただ置かれ、 is のある方が標準になるのではないかと感じています。
契約書でところどころ大文字が使われている理由
余談ですが、契約書の中でこの Witnesseth に限らず、Whereas や Now Therefore、一番最後の In Witness Whereof などといったところで、本来小文字でよさそうなのに、頭文字が大文字で書かれていたり、ときには全部大文字で綴られる単語があります。なぜでしょう?
その昔、契約書は代書屋によって、手書きで作成されました。その時にいくつかの、大切な意味を持った言葉を飾り文字で書いたのです(本話や第21話の冒頭の写真をご覧下さい)。
契約書をタイプで打つ時代になっても、契約書の形式は引き継いだのですが、いかんせん飾り文字はないので、やむなく違いを示すために大文字で打つことにしたのです。法律上の要請でそうなったわけではなく、実際にそんなことは忘れても全く実害はないのですが、今でも伝統を引きずっている、というわけです。(☚これがポイント)
昔の契約書は、全部が1文として書かれていた
ついでに言えば、昔の契約書は This Agreement … witnesseth that … と続いて全部が1文として書かれていて、一番最後に「 . 」が1つだけついていたのです。しかも、このピリオドを除いて、文中に1つも句読点が使われていなかったのです(「法律家は句読点などに頼ってはいけない。そんなものがなくても、正しく読める文章を書かなければならない!」としつけられていたそうです)。
もちろん現実には、全文を通じて主語が1つ、動詞が1つしかなかったというのではありません。よく見れば、主語もたくさん、動詞もたくさんあり、独立した文章に分けようとすれば出来るのですが、そうはしなかったのです。
しかし、国際契約書でもこんな形にこだわることなく、もっと現代的に書いたものもたくさんあります。
契約書は当事者の権利、義務をきちんと書いてあればよいのです
契約書には当事者の合意の内容が分かりやすく書かれていて、万が一紛争になったときにも裁判官、仲裁人といった第三者に、当事者の権利、義務がよく分かればよいのです。上のような英国の古い書式を真似する必要もなければ、難しそうな英語を使って書く必要もありません。気を楽にして、書いてみましょう。
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