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第21話 契約書の最初に出てくる Whereas や consideration とは何でしょうか?

契約書の最初の部分を見てみましょう。

       Basic Sales and Purchase Agreement

This Agreement is made this 7th day of February 20XX between Venditor Corporation, … (the “Seller”) and Emptor Limited, … (the “Buyer”).

              Recitals:
Whereas, the Seller is engaged in the business, among other things, of exporting … (the “Products”) and desires to sell the Products to the Buyer; and
Whereas, the Buyer desires to purchase the Products from the Seller for the sale in … ;

Now, Therefore, in consideration of the premises, the parties agree as follows:

Whereas の役割は何ですか?
この契約書にはWhereasに導かれた2つの段落があります。この部分は契約の前書き、前文に当たります。しばしばこの例のように Whereas という言葉に導かれているので、この部分を Whereas-clause と呼ぶこともあります。その役割から PreambleRecitals とか Background と名付けられていることもあります。

なお、接続詞 whereas は「に対して」「ところが」といったときに使われますが、この個所では「……を考慮して(in view of the fact that …)」「……のゆえに(because of the fact that …)」を意味します。(☚これがポイント)

前文部分を訳してみましょう。

売主は……(「商品」)の輸出等に携わっており、商品を買主に売却することを望んでおり;
買主は……で販売することを目的に、売主から商品を購入することを望んでいるゆえに;
そこで、前述の事を約因(consideration)として、当事者は以下の通り合意する。

Whereas の「法的役割」を解くカギは、実はそれに続く Now, Therefore, in consideration of the premises にあります。premises は「前述の事」という意味です(premises の前に foregoing(前の)という言葉がつくことがありますが、premises は「前」という意味を含んでいますから、この語はなくても構いません)。

「前述の事を consideration(約因)として」というからには、Whereas-clause には consideration が書かれている筈だということになりますね。

第4話で Contract や Agreement の話をしたときに、一方当事者の約束に法的拘束力を与えるには、相手方は何か「法的価値のあるもの」を提供しなければならない、という話をしました。

この法的価値のあるものを consideration と呼ぶのです。「約因」とか「対価」と訳されています。「商品を売却する」という売主の約束に対して「購入する=代金を払う」約束という約因があり、「購入する=代金を払う」という約束に対して「商品を売却する」約束という約因があるのです。

つまり多くの契約では、当事者の義務は約束であり、約因であるという、一人二役をします。(☚これがポイント)

というわけで、その昔は Whereas-clause には、この契約の consideration が何であるかが分かるようなことが書かれていたのです。

Considerationの役割にもう少しこだわった例

                                              License Agreement

This License Agreement made and entered into …

                                                Witnesseth that:
Whereas, Licensor owns and controls certain intellectual property rights with respect to … ; and
Whereas, Licensor wishes to grant to Licensee, and the Licensee wishes to take, a license under such intellectual property rights … ;

Now, Therefore, in consideration of the premises and the mutual promises and conditions set forth herein and other good and valuable consideration, the receipt and sufficiency of which are hereby acknowledged, the Parties, intending to be legally bound, do hereby agree as follows:

この例では「前述の事」に加えて、mutual promises and conditions and other good and valuable consideration, the receipt and sufficiency of which are hereby acknowledged とあります。

訳せば「相互の約束(promises)及び諸契約条件(conditions)、並びに他の有効で価値ある consideration(それらを受領したことと、十分であることを茲許ここもと(hereby)認識している)」というわけです。

要は、ちゃんと約因は提供されているし、その価値も認識しているから、お互いの約束は法的拘束力を持つことに疑いはない、と強調して言っているのです。

その上ご丁寧に intending to be legally bound(法的に拘束されることを意図して)と述べています。第4話で、当事者間に法的関係を確立する意思がなければ、合意(agreement)があっても契約(contract)にはならない、と言いました。そのことを意識して書いているのです。

でも、商業契約で法的拘束意思がないなんてありえないので、これは殆ど飾りのようなものです。

前文は必要なのですか?

いいえ。現代の商取引契約で、約因のないものなんて事実上あり得ません。この記載があるから約因が確保される、記載がない場合は問題が起こる、などといったことは全くないのです。

約束や約因は契約書本体の中に、きちんと書かれています。ですから前文はあってもなくても契約の効力には影響ないのです。(☚これがポイント)

実際に、当事者の表示に続いて、いきなり第1条に入る契約書も多くあります。

とはいうものの、現代の契約書では約因であるかどうかは別にして、前文に取引の経緯や、目的を簡単に記していることが少なくありません。
 
そのことが契約の読みやすさにつながるなら、説明をするのは大いにすすめられることと言ってよいでしょう。(☚これがポイント)

なお、契約書に経緯、背景を書くときに、Whereas などといった古風な言葉を使わなくても、箇条書きでも構いません。


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