第21話 契約書の最初に出てくる Whereas や consideration とは何でしょうか?
契約書の最初の部分を見てみましょう。
Whereas の役割は何ですか?
この契約書にはWhereasに導かれた2つの段落があります。この部分は契約の前書き、前文に当たります。しばしばこの例のように Whereas という言葉に導かれているので、この部分を Whereas-clause と呼ぶこともあります。その役割から Preamble、Recitals とか Background と名付けられていることもあります。
なお、接続詞 whereas は「に対して」「ところが」といったときに使われますが、この個所では「……を考慮して(in view of the fact that …)」「……のゆえに(because of the fact that …)」を意味します。(☚これがポイント)
前文部分を訳してみましょう。
Whereas の「法的役割」を解くカギは、実はそれに続く Now, Therefore, in consideration of the premises にあります。premises は「前述の事」という意味です(premises の前に foregoing(前の)という言葉がつくことがありますが、premises は「前」という意味を含んでいますから、この語はなくても構いません)。
「前述の事を consideration(約因)として」というからには、Whereas-clause には consideration が書かれている筈だということになりますね。
第4話で Contract や Agreement の話をしたときに、一方当事者の約束に法的拘束力を与えるには、相手方は何か「法的価値のあるもの」を提供しなければならない、という話をしました。
この法的価値のあるものを consideration と呼ぶのです。「約因」とか「対価」と訳されています。「商品を売却する」という売主の約束に対して「購入する=代金を払う」約束という約因があり、「購入する=代金を払う」という約束に対して「商品を売却する」約束という約因があるのです。
つまり多くの契約では、当事者の義務は約束であり、約因であるという、一人二役をします。(☚これがポイント)
というわけで、その昔は Whereas-clause には、この契約の consideration が何であるかが分かるようなことが書かれていたのです。
Considerationの役割にもう少しこだわった例
この例では「前述の事」に加えて、mutual promises and conditions and other good and valuable consideration, the receipt and sufficiency of which are hereby acknowledged とあります。
訳せば「相互の約束(promises)及び諸契約条件(conditions)、並びに他の有効で価値ある consideration(それらを受領したことと、十分であることを茲許(hereby)認識している)」というわけです。
要は、ちゃんと約因は提供されているし、その価値も認識しているから、お互いの約束は法的拘束力を持つことに疑いはない、と強調して言っているのです。
その上ご丁寧に intending to be legally bound(法的に拘束されることを意図して)と述べています。第4話で、当事者間に法的関係を確立する意思がなければ、合意(agreement)があっても契約(contract)にはならない、と言いました。そのことを意識して書いているのです。
でも、商業契約で法的拘束意思がないなんてありえないので、これは殆ど飾りのようなものです。
前文は必要なのですか?
いいえ。現代の商取引契約で、約因のないものなんて事実上あり得ません。この記載があるから約因が確保される、記載がない場合は問題が起こる、などといったことは全くないのです。
約束や約因は契約書本体の中に、きちんと書かれています。ですから前文はあってもなくても契約の効力には影響ないのです。(☚これがポイント)
実際に、当事者の表示に続いて、いきなり第1条に入る契約書も多くあります。
とはいうものの、現代の契約書では約因であるかどうかは別にして、前文に取引の経緯や、目的を簡単に記していることが少なくありません。
そのことが契約の読みやすさにつながるなら、説明をするのは大いにすすめられることと言ってよいでしょう。(☚これがポイント)
なお、契約書に経緯、背景を書くときに、Whereas などといった古風な言葉を使わなくても、箇条書きでも構いません。
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