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第4話 Contract や Agreement って「契約」のことですか、それとも「契約<書>」のことですか?

これは DNA の二重らせん構造的に(つまり2回絡み合っています)ややこしい問題です。少し理屈っぽくなりますが、我慢して下さい。

日本、欧米をはじめ多くの国では、「契約」というものは(少数の例外はありますが)、契約<>にしなくても(つまり、目に見える形にしなくても)口頭で成立します。(☚これがポイント)

コンビニでデザートを買うときに契約書を作ることはありませんね。それでも「契約」は存在するのです。これを英語では contract と呼びます。

☛ このあたりで英国法上 agreement が、いつ contract になるか、を説明しておきましょう。ほんとうはこの2つは違うのです
① 当事者間で何かについて「合意」すると、そこに 「意思の合致」が出来ます。「自動車を渡してあげましょう」、「ありがとう」は合意です。これを agreement と言いますが、まだ contract ではないのです。
② 売主の「自動車を渡してあげましょう」という約束に対して、相手方が何か「法的価値」のあるものを提供するまでは、この約束には拘束力がないのです。買主が「代金を払う」と言えば、やっと拘束力が発生し、売主はもう「やっぱり、や~めた」と言えなくなります。「ありがとう」には法的価値はないのです。
 このことは買主の約束についても言えます。「代金を払う」という約束は、売主が「では、自動車を渡してあげましょう」と約束してはじめて拘束力が出てくるのです。
 つまり、お互いの約束が相手の約束の法的裏付けになっているのです。
③ さて、ここまで行けば、90%「話はまとまった」と言ってよいのですが、念のため法律は「本当に当事者は法的関係を確立する気(=紛争が起こったら、裁判所に行ってもよい!)があったのか?」と問います。商取引では当たり前で、問題にもなりません。しかしその気がなければ、裏付けのある約束と見えるものも、法的には契約失格です。たとえば「映画見に連れてってやる」、「じゃ、帰りにマックでごちそうしてあげる」という約束の組が出来たとして、どちらかが約束を破ったときに、相手を訴える(!)なんてありえませんよね。だからこれは、契約ではないのです。

 ①、②、③が揃ったときに、はれてcontract(契約)が生まれるのです。とは言え、実務では②と③は余りにも当然なので、既に①の段階で agreement=contract と捉えてしまうのです。(☚これがポイント)

さて、話を続けましょう。国際取引では、契約書面を作らないことはあり得ません。「心覚え」という意味もありますし、「経理書類」にもなりますし、何より裁判のときの「証拠書類」でもあります。

こうして「契約」を紙に書いたものも contract と呼んでいます。実務的にはagreement と呼んでもよい、ということは第3話でお話ししました。

決して正しくはないのですが、契約 ≑ 契約書 ≑ agreement ≑ contract
実際には「契約」も「契約書」も、区別なく  contract や agreement と呼ばれるのです。(☚これがポイント)

「部長、A社との契約が取れました!」というときには、「取れた」とはA社がこちらの条件に合意してくれて、「契約」が出来たことを表し、「契約にはいつサインするんだ?」というときには、「契約書」を意味しています。

これから契約書を見ていきますが、この二重の<混乱>はその中にさえ存在します。



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