見出し画像

第18話 冠詞の使い方について、もうすこし考えてみましょう ― a Party、the Parties、Parties

「当事者」を意味するには a Party、the Parties、Partiesのどれを使えばよいのですか?


第13話で「本契約当事者」のことを Party と呼ぶことがあるという話をしました。また第17話では Product、the Product、a Product の使い分けを考えました。

今回は当事者に限った話です。契約ですからそこには必ず2人以上の当事者がいるわけですが、何かを規定する場合には、その対象当事者の人数には単数、複数がありえます。ここでは当事者に言及するときに、人数との関係で冠詞をどう使い分ければよいのかを考えてみましょう。

aとtheの使い分けについて

まず、a と the の使い分けですが、「当事者の内の1人」は a Party です。どの当事者なのかは分かりませんが1人の当事者です。同じ1人でも「どちらかの当事者」、「いかなる当事者でも」ということを強調したい場合は、either Party(当事者が2人の場合)や any Party(3人以上の場合)とすることができます。

では the Parties はというと、the という定冠詞がついていることでもあり、お互いに分かっている複数の当事者を指します。原則的には「全当事者」ということになります。説明することなく分かる複数の当事者となると、全員しかないからです。

ただし、少し話はややこしくなりますが(!?)、状況から容易に分かるなら、全員未満でも使うことが可能です。そのような例を見てみましょう。これは7者間の天然ガスの長期売買契約からとられたものです。
 

All notices to be given by any Party and all other communications and documentation between the Parties that are in any way relevant to this Agreement … shall be in the English language.

和訳:
ある当事者が発信するすべての通知、並びに本契約に何らかの関わりのあるその他の当事者間のすべての意思表示、及び書面は英語によるものとする。

通知を出すのは1人ですから、any Party となっています。しかし意思表示や、書面のやりとりは2人、3人……と色々な数の当事者間で行われます。the Parties は 'p 'を大文字にしてありますから「契約当事者」を意味するのですが、その数が全員ではないこともあるのです。日本語に訳しにくいのですが、「2人以上、7人まで」ということです。

なお between は3者、またはそれ以上の関係でも使うことができることについては、第6話の説明をご覧下さい。

必ずキチンと使われているわけではない

もっとも the Parties については、次の例のようにあまりお勧めできないものも、なくはありません。これは3者以上の合弁契約書にあったものです。

"Force Majeure" shall mean all events which are beyond the control of the Parties to this Contract, and which are unforeseen, unavoidable and insurmountable, and which prevent total or partial performance by either of the Parties.

和訳:
「不可抗力」とは本契約の当事者(複数)の支配を超えるすべての事由であって、予見不可能、不可避、かつ支配不能のことをいい、当事者のいずれかの全部若しくは一部の履行を妨げるものをいう。

「不可抗力」はある1人の当事者に対して発生することはあっても、契約当事者すべてに発生するということはないのですから、複数の(the Parties)の当事者について規定するのは適切ではありません。むしろ大抵の場合、関係当事者は1人ですから、最初の当事者を the Parties とする必要はないのです。百歩譲って作成者が「1人、ないしはそれ以上の」と考えていたとしても、規定は不特定の1人について作れば、単数・複数を問わず誰にでも適用できますし、the Parties といってしまうと全員を意味してしまうので、やはりこれは問題です。

では、どうすればよかったのでしょう。答は the Parties to this Contract を単に any Party にすればよいのです。ついでに言えば、後の either of the Parties は、 通常は当事者が2者であるときの用法です。such Party とすれば分かりやすくなるでしょう(もっとも、この変更は作成者の意図とは離れるかもしれません)。

もう1つ言えば、こででは Force Majeure = all events と定義していますが、これもお勧めできません。こうしてしまうと「不可抗力」という語が、複数のものを指す言葉、ということになるからです。もし単一の「火事」、「戦争」が起こったら「不可抗力(複数)」といえるのでしょうか?

an event which is beyond … とするのが普通です。

冠詞のないPartiesというのは、どういうときに使われるのですか?


例えば6者による契約ということになると、a Party はそのうちの誰か不特定の1人、一方 the Parties は全員ですが、そのうちの何人か(2人以上で全員未満)というときは a でもなく、the でもないので、Parties と書くことができなくはありません。この Parties というのが、誰を指しているかは分かりません。同じように two Parties と言ったときには、だれか2人ではあっても、どの2人かは分かりません。two or more Parties といった言い方も可能です。

もっとも、契約書でこんな不確実なことを書くことはあまりないので、冠詞のない Parties の用例はめったに見かけません。何十もの契約書を見て、やっと見つけた例をあげておきましょう

Contribution Agreement” shall mean the agreement to be entered into by and among Parties in accordance with Article 4.2.

和訳:
「出資契約」とは、4.2条に基づいて、当事者間に締結される契約をいう。

出資契約が実際に何人の当事者によって締結されるかは、4.2条に書かれていることが、現実に起こってみなければ分からないようです。そのため「今のところ不特定の数の契約当事者」によって、としているわけです。

上にあげた天然ガスの契約書では「2人以上、7人まで」の当事者に the が付いていたことと比較してみると、必ずしも首尾一貫していないと思われるかもしれません。その通りです。普通は the Parties は全当事者を意味し、文脈でそれ以下であることが分かるときも、同じく the Parties とするようです。契約当事者には違いないからでしょう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?