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第17話 定義した語と「定冠詞 the」「不定冠詞 a」の使い方を考えてみましょう

第13話の冒頭にあげた契約書で ORGANIC PREPARARIONS INC. は the Manufacturer、相手方は the Customer とされていました。当事者名に限らず、モノや概念を定義するときに、その言葉に the を付けるのか付けないのか、迷うことがあります。

当事者の定義(略称)にはtheをつけた方がよいのですか?

まず、当事者と the のお話しから始めましょう。

International Business Machines Corporation を IBM と呼ぶように、もともとが固有名詞である語を、加工して略称にするときには the を付けません。

これに対して、「会社」「売主」「銀行」など普通名詞を固有名詞化した上で、略称として使う場合、英国の法律実務家の多くは the Company、the Seller、the Bank のように the を付けます。

一方、アメリカでは、定義しようとする言葉が人(法人なども含みます)である場合は、the を付けないことが多いようです。Company、Seller、Bankというわけです。これは私の根拠のない想像ですが、日本人がモノは「商品」と言ったとしても、会社は「近江兄弟社さん」などと言うのと同じ感じなのでしょうか?

英米の法律家とも、それ以外の言葉の略称には大体 the を付けます。the Project、the Loan、the Ship という具合です。

そこでアメリカの場合は、同じ契約書の中で、定義された言葉に the が付いていないものも、付いているものもある、という結果になります。もちろんこれは大体の話にすぎず、全部に the がついていることもあれば、すべてについていないこともあります。定義すれば普通名詞が固有名詞に変わるのだから、「theは不要」と感じる人もあれば、そうは言っても「元は普通名詞なのだから」、と考える人もいるからなのでしょう。

the は略称の一部ですか?

上のことと少し関係すると思いますが、英国の法律家は the Product という略称を作ったときには、そのかたまりを定義した語と考えて、引用符に包みます(hereinafter called ”the Product”)。ところがアメリカでは(hereinafter called the “Product”)として、the は名前の一部というより、ただの定冠詞と扱うようです。

アメリカの法律家の作った例を付けておきます。もとが人(会社)であった場合の扱いもこれからうかがえます。

Product?  the Product?  a Product?

次に、a を取り上げてみましょう。

特注の工作機械1台の売買契約で、商品を Product と定義した場合は、対象商品は1つだけですから、その商品は the Product ということになります。定冠詞というのは、決まった特定の物(「これであって、これでしかない」モノ)を指すからです。そしてこの the Product は、他の product とは異なる「本商品」という意味で固有名詞扱いにします。

しかし同じ売買契約でも、特定の1個だけの商品の話をするわけはなく、例えば半導体部品のように、何千個、何万個と取引するとき、つまり、たくさんある「本商品」についてこの言葉を使うときは、その商品を他社の類似商品とは区別して、「当社のこの商品」という意味で Product にはしますが、その内のある商品について話をする場合は、a Product、two Products、three Products … ということになります。つまり、「本商品」という意味では Product なのですが、どの特定の商品ということはないので、普通名詞のように扱うのです。そして「10,000 Products を注文する」とか、「もしある商品(a または any Product)に品質問題があった場合は」というように使います。

しかし、ちょっと話はややこしくなりますが、1個の商品の場合であって、それがいくつもある場合でも、「この商品に関する秘密情報」という文脈になると、その商品以外の商品との区別が大事になりますから、「他でもないこの商品」という意味で、… confidential information about the Product といったことになります。

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