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戦争のあと

第二次大戦後、ポーランドからカナダに移り住んだ祖母と「ぼく」との交流を描いた絵本。ジョーダン・スコットとシドニー・スミスによる絵本だけに、大きな期待とともに発売と同時に入手した。【以下ネタバレあり】

ジョーダン・スコット文 / シドニー・スミス絵『おばあちゃんのにわ』原田勝訳(偕成社、2023年)

ところが、この冒頭の一文を読んだ途端、私はしばらくページをめくることができなくなった。

ぼくのおばあちゃんは、大きな道のそばにある、もとはニワトリ小屋だった家にすんでいる。

『おばあちゃんのにわ』冒頭

それは戦後の引き揚げにより、頼った親戚宅の納屋で暮らすことを余儀なくされた母の体験談を想起させた。幼い頃、母から繰り返し聞かされた戦後の苦労話は何も日本に限ったことではなく、世界中に似たような苦労を強いられた人々が存在したことに改めて気づかされる。

ぼくのおばあちゃんはポーランドで生まれそだち、第二次世界大戦中は家族とともにたいへんな苦労をあじわいました。戦争がおわると、おばあちゃんはカナダに移り住み、ブリティッシュ・コロンビア州にあるポート・ムーディという海辺の小さな町で、おじいちゃんとくらしました。ふたりは、バーネット・ハイウェイのそばにある硫黄工場のうらの、ニワトリ小屋を作りなおした家で寝起きしていました。

『おばあちゃんのにわ』あとがきより抜粋

読み進めてみると、「ぼくのおばあちゃん」はその仕草や癖が母と似通っており、私は幼少期の暮らしを再び思い出すことになった。

ぼくはまだ、おさなかったのですが、それでも、ババのくらしぶりが少し人とちがうことに気づいていました。例えば、石鹸のかけらを流しの下にとっておき、たくさんたまったら、ひとつにくっつけて新しい石けんとして使っていました。

『おばあちゃんのにわ』あとがきより抜粋

私の母は自身を「貧乏性」と言ってよく笑ったが、私はそれを笑えなかった。そんな母を見る度に、戦争の痕跡がいまだ消えないことを思い知らされたからだ。でも、次世代ならば受けとめ方も多少は異なってくるのかもしれない…と思ったが、やはりこれは作者の優れた人間性ゆえの違いだろう。

絵本の「ぼく」は祖母宅で食事の世話などをしてもらっていたのだが、やがて自宅のベッドで眠る祖母に食事を運ぶようになる。庭仕事ができなくなった祖母に代わって土を肥やすためのミミズ探しを「ぼく」が引き継ぐさまが、情感豊かなシドニー・スミスの絵とともに胸に迫りくる。今回も期待を裏切らない珠玉の一冊。


【追記】
当記事をこちらに加えていただきました。
若林薫/絵画講師さま、ありがとうございました。こちらこそ感動しました☺️