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横長絵本のヒミツ

1.いろいろな本のカタチ

絵本のカタチに注目してみたことはありますか?
縦長の本、横長の本、正方形の本、手提げのような型抜きの本……。
ちょっと思い出してみるだけでも、たくさんのカタチの作品が思い浮かぶのではないでしょうか。

でも、なんだかヘンですね。
文庫やマンガの多くは、縦長の本です。
なぜ絵本にはいろいろなカタチがあるのでしょう?

2.カタチによる絵の見え方の違い

例えば、連なる山を旅するお話しがあったとします。
もし縦長と横長の2つの紙面にこんな絵があったら、皆さんはどのようなお話しを想像しますか?

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縦長絵本に描いてみると、険しい山を登るお話しに見えるかもしれません。

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横長絵本に描いてみると、私には長い旅路を行くお話しのように見えます。

皆さんは、どのような印象をお持ちになったでしょうか?
絵本は、形状も重要な要素になっていることが分かりますね。

3.横長の絵本はじまり

日本に横長(短編綴じとも言います)の絵本を浸透させたのは、多くの名作絵本を発表した名編集長の松井直(まついただし)さん。
1961年、当時「こどものとも」の編集長だった松井さんは、翻訳絵本の企画をきっかけに横長絵本の視覚的効果に気付いたのだそうです。

当時は横長本を作る設備がなく、大変な苦労をされたそうです。やっと出来た作品も書店さんからは棚に入らないとクレームが来たり……。それでも松井さんは数々の名作絵本を発表していきました。
その魅力は次第に浸透し、今日では当たり前のように横長の絵本が店頭に並んでいます。


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縦長から横長へ規格が変更となった「こどものとも64号」
とらっくとらっくとらっく(福音館書店)
作:渡辺茂男 絵:山本忠敬 
定価:本体900円+税

4.横長絵本の視覚的効果

横長絵本の代表的な視覚効果には次のようなものが挙げられます。
①絵が横に動いていくように見え、物語が進行している感が伝わりやすい

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②紙面に2つの画面を入れやすい

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③パノラマのような眺望ワイドに広げたダイナミックな絵を表現しやすい

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④縦開きに紙面を使うことで、高低感のある表現も可能

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絵本は見開きの絵でお話を表現し、ページをめくる作業により、お話が展開していきます。そのため、絵を効果的に見せるためには、カタチも一つの選択肢といえるでしょう。

残念ながら、全ての横長の絵本がこれらの効果を狙ったものとは限りません。初出が単行本でなかったり、出版時の事情もさまざまです。

因みに小説作品の多くが縦長の本である理由は、和文が右から左に流れていくためと言われています。横長の本に縦書きの長文は読みにくいのですね。

5.横長の紙面を活かした作品の例

さて、横長の紙面を活かした絵本作品はたくさんあります。ここでは、いくつかの例を紹介したいと思います。

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おおきなかぶ(福音館書店)
再話:A・トルストイ  訳:内田 莉莎子 画:佐藤 忠良
定価:本体900円+税

横長の紙面いっぱいに一家が連なってかぶを引く様子を描きました。かぶの大きさや重量感も伝わってきます。構図に注目して読んでみてください。

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でんしゃがきた(偕成社)
作:竹下文子 絵:鈴木まもる
定価:本体1,000円+税

車列の長さを左右の長さを使ってに表現したり、駅の混雑をパノラマに見せたり。横長の紙面を自在に使った作品です。

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 おばけのパンこうじょう(理論社)
著者:オームラトモコ
定価:本体1,350円+税

パンの製造機を横長の紙面に描いています。ベルトコンベアにのせられた
生地が左から右へ流れていく様子を楽しむことができます。

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100かいだてのいえ(偕成社)
作:いわいとしお
定価:本体1,200円+税

縦開きの絵本。主人公のトチくんが100階の頂上を目指すストーリーです。ページをめくるたびに上のフロアに上り、トチくんと一緒に冒険をしているように読み進めることができます。

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ふしぎなたけのこ(福音館書店)
作:松野正子 絵:瀬川康男
定価:本体900円+税

突然伸び出したタケノコ。紙面を縦開きにして雲より高く伸びた様子を表現したり、海へ架かった橋のように竹を左右いっぱいに描いたり。パワーあふれるタケノコの勢いが紙面から伝わってきます。

いつもと違った視点で横長の絵本を楽しんでみませんか?

横長の絵本は、全国どこでも量産ができるというわけではなく、製本をする設備は限られていると聞きます。横長本を製造する技術とノウハウは、絵本を軸として発展してきたともいえるでしょう。

今回は、横長の紙面を活かした作品の数例を紹介させていただきました。
まだまだたくさんあるので、見つけたらぜひコメントをお願いします。
えっ?縦長の絵本の魅力も気になります?そのお話はまたいつか……。

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ご案内は…
矢阪亜希子
印刷業界初!の絵本専門士(第5期)/JPIC読書アドバイザー(第25期)。絵本まるごと研究会や地域の読書支援ボランティアなどを通じて、造本の視点から見た絵本の魅力を伝えていきます。





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