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第23回絵本まるごと研究会

はじめに

今回は、令和3年11月28日(日)にオンライン開催されました第23回絵本専門士による絵本まるごと研究会のご報告をさせていただきます。

私は、今回の勉強会で話題提供をさせていただきました第5期絵本専門士の圓山哲哉と申します。言語聴覚士(以下:ST)として療育センターに勤務しており、ことばやコミュニケーション、摂食・嚥下機能(食べることや飲み込むこと)等の発達に遅れや偏りのあるお子様、そしてその保護者様に関わらせていただいております。今回はSTの立場から、お子様のことばやコミュニケーションの発達と、その発達を促す関わり、そしてSTの療育における絵本を通した関わりの例をご紹介させていただきました。


ことば・コミュニケーションの発達について

 「ことば」には3つの側面があると言われています。それは、発語(Speech)・意味の理解(Language)・コミュニケーション(Communication)です。例えば、「リンゴ」と言うためには発声発語器官(呼吸器・喉頭・鼻咽腔・舌・唇など)が成長してその作りが整い、声を出す技術を身に着けることで発語が出来るようになります(Speech)。実際のリンゴに触れたり、食べたりする経験を通して、「これは赤くて丸い、食べると甘酸っぱい味のする果物で、名前はリンゴだ」ということを理解します(Language)。そして、「リンゴ」ということばを使って、「リンゴあったよ」や「リンゴ食べよう」などのやりとりを他者と行うことでコミュニケーションが成立します(Communication)。この3つの側面がバランスよく育つことが、お子様のことば・コミュニケーションの発達にとってとても重要です。

また、ことばの発達には脳全体の発達が必要であるといわれています。このことを分かりやすくイメージしていただく為に、脳の構造と機能について非常に大まかにお伝えします。

まず、脳幹と呼ばれる部分があります。ここは、主にからだの動きや生命維持に関する機能を司っています。呼吸や食欲・睡眠などからだを健康に保つために働いているところで、生活リズムを整えることで育っていきます。その上に大脳辺縁系という部分があります。主に快・不快や喜怒哀楽といった感情、こころに関する機能を司っています。家族や養育者に守られながら安心すること、気持ちのやりとりを行うことで育っていきます。そしてその上に覆いかぶさるように、大脳があります。大脳皮質と呼ばれるところで論理的な思考、学習能力、言語機能などを司っています。様々な経験を通して、知識やことばを覚えたり、使ったりすることで育っていきます。

このように、階層構造になっている脳全体がよく働いて、神経伝達をスムーズに行ってくれるようにするためには、健全なからだとこころを育てる必要があります。このことについては、小児領域に携わるSTの第一人者である中川信子先生がご著書の中で、お正月の鏡餅や「ことばのビル」というイラストを用いて、とても分かりやすく書かれています。

また、お子様のことばやコミュニケーションの発達を促す関わりとして、皆さんがお子様に関わる際、既に自然とやられているであろうことの中にも、とても大切なことが含まれています。ここでは、その代表的なものとして、育児語(マザリーズ)、擬音語・擬声語・擬態語(オノマトペ)、そして身振りやジェスチャーについて触れてみたいと思います。

① 育児語(マザリーズ):母親が乳幼児に対して語りかけるときの言葉使いのことで、学術的には、「対乳児発話」や「対幼児発話」とも呼ばれます。日本では、「育児語」や「母親語」とも訳されます。特徴として、声のトーンの高さ、抑揚の誇張、ゆっくりとしたテンポ、同じことばの繰り返しが挙げられます。世界各国、文化・言語に問わず様々な文化圏でみられるもので、人間が普遍的に持っている一つの習性と考えられています。抑揚が誇張されており共感的に感情を理解しやすくなる、内容を理解しやすく真似しやすいため言語発達を促す、お子様が興味を持ちやすく注目しやすいため“共同注視・共同注意”(ジョイントアテンション)につながると言われています。

② 擬音語・擬声語・擬態語(オノマトペ):様々な音や生き物の鳴き声、動きや様子を表す言葉のことで、表されるもの(実物や実際の様子)と有縁的であるためイメージしやすく、リズミカルで響きが面白いことからお子様の注意が向きやすくなり、興味を持ちやすいと言われています。また、発音としても幼いお子様でも言いやすい音が含まれるものが多い傾向があります。

③ 身振り・ジェスチャー:ことばと合わせて使用することで、お子様が注目しやすく理解しやすくなります。大人が使っているのを見ることで真似したくなること、ことばがまだ出ていないお子様でも身ぶりで伝わることがあること、脳のことばを司る部位は指や手の運動を司る部位と隣接していると考えられており、ことばに身振りや運動が合わさることで覚えやすく思い出しやすくなること、などが効果として挙げられます。

お子様との普段の関わりや遊びにおいては勿論のこと、お子様と絵本を通して関わられる場面においても、改めてこれらを意識して取り入れていただくことは、お子様のことば・コミュニケーションの育ちを促すことにつながるものと考えられます。

絵本を通した関わりの紹介

ブックスタート(Book Start:1992年にイギリスではじまった取り組み。各自治体の0歳児健診などの機会に、絵本をひらく楽しい「体験」と「絵本」をセットでプレゼントする活動。)において、大切にされている考え方に、「絵本を読みきかせる(Read Books)のではなく、絵本をひらくことで広がる豊かな時間をまわりの人と共にする(Share Books)」というものがあります。特に、まだ幼いお子様や、ことばの発達に遅れや偏りのあるお子様にとっては、絵本を読み聞かせる・絵本を読むという形にこだわりすぎず、“絵本を共有する”というスタンスがとても大切であると、STの立場からも考えています。

そして、発達の最近接領域(Zone of proximal Development:ロシアの心理学者ヴィゴツキーが提唱した子どもの発達段階に着目した理論)の考え方も重要です。お子様が今の段階でできること、大人の支援があればできること、そしてまだ難しい(できない)ことは何なのか?を、お子様に寄り添いながら、行動観察や発達検査、保護者様からの聞き取りなどを通してできる限り正確に把握した上で、どのような絵本共有が対象のお子様の為になるのかを考えています。

今回の勉強会では、STの療育における絵本共有について、主に以下の内容をお話させていただきました。

*本棚から絵本を次々に出す、絵本を並べる・積み上げる、絵本のページをよく見ずに次々めくる、絵本を投げる、絵本を舐める、絵本のページを破いてしまうといった遊びも、お子さんの発達段階によっては、認知面や感覚面、手や指での操作といった運動面を育てる遊びとなり得ること。

*抱っこや腕枕などのスキンシップをとりながらの絵本共有や、身体接触遊び(タッチ、くすぐり、たかいたかい等)のきっかけとして、絵本を使用すること。

*絵本に出てくるものと実物のマッチング遊び
(例:絵本のページに出てきた果物の絵の上に、同じ果物の模型を置いて遊ぶ等)

*絵本の中で出てきた動作や行為のまねっこ遊び(※仕掛け絵本だと動きが分かりやすい)
(例:絵本の中で歯磨きをしている様子をみながら、自分でも歯ブラシをもって歯磨きをする等)

*身振りやジェスチャーを取り入れながらの絵本共有
(例:絵本の中に出てくるものを指さす、絵本に出てきた“ちょうちょ”を手の動きで表してみる等)

*Q&Aをしながらの絵本共有
(例:絵本に出てくる事物名称、色や数などの概念、登場人物の行動や心情などについて尋ねる等)

など

おわりに

今回はSTの立場から、お子様のことばやコミュニケーションの発達の概要とその発達を促す支援、そして療育的な視点からみた絵本を通した関わりの例についてお話させていただきました。少し専門的な内容や、一般的なおはなし会・読み聞かせの場面とは異なる絵本の用い方についてもお伝えさせていただいたので、難しいと感じられたり、戸惑われた方もいらっしゃったかもしれないのですが、ご参加いただいた皆様とても熱心にご視聴くださっていました。この場を借りて改めて感謝申し上げます。

ハンディキャップの有無に関わらず、お子様お一人お一人、発達のスピードや認知特性、性格や好き嫌いは異なります。そのような中で、対象のお子様にことばやコミュニケーションの発達の遅れや偏りがあるのかどうか、どのような関わりや支援が必要なのか、ということを見極めたり受け入れたりすることは難しいケースも少なくありません。そのような際には、お一人で抱え込んでしまうのでなく、周りの方の手助けや、必要に応じて専門家の支援を上手く活用していただくことが大切だと考えます。

長くなってしまいましたが、最後までお付き合いいただきありがとうございました。

絵本専門士による絵本まるごと研究会は、絵本・応援プロジェクトに参加しています。

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