演劇のシステムに魅了され、新たな世代へ演劇を繋げる 作家・演出家 鴻上尚史
こんにちは!note更新担当のたぬ子です。
今回は、作家・演出家として活躍されている、新居浜市出身の鴻上尚史さんに、演劇と出会ったきっかけや、演劇の魅力を広めるためにできることなどお伺いしました。
目の前で生の人間が物語を紡ぐ衝撃
― 演劇と出会ったきっかけを教えてください。
幼い頃、母に会員制の演劇鑑賞会に連れて行かれて、何本か演劇を観れたのが出会いですね。そこで「演劇って、おもしろいな」と思って。
中学校で不思議なことに週に1回だけ、放課後以外にも部活動をする時間があったの。放課後の部活動はソフトテニス部に入っていたから、その時間は演劇をしたいと思って、先生「演劇部を作ってください」って頼んだんだよ。
それで見よう見まねで始めたら、あまりにもおもしろくて、週1回の活動なのに文化祭で発表したくなって、放課後は別の部活動で時間がとれないから、朝早くに学校へ行って練習してましたね。
― 幼い頃に演劇を観て、どこに「おもしろい」と感じたのでしょうか。
やっぱり生ですからね。それまではテレビと映画しかなかったから、目の前で生の人間が物語を紡いでるというのは、衝撃でしたよね。
― 今年度(令和5年度)、小さな子どもから鑑賞できる「あらしのよるに」を財団の事業として上演したのですが、そういう風に思ってくれた子がいると嬉しいです。
いると思いますよ。結果が出るのに20~30年はかかるわけで、名のある人になっていれば幸せだし、そうでなくても絶対に何か文化の種を落として、様々なことにプラスになっているんじゃないかという気がしますよね。
でも、おもしろくないとダメだよね。「つまんねえなあ」と思われたら、そこで終わるから。そこは大事なことだね。
演劇っておもしれえなあ
― 中学校で上演された作品は、鴻上さんが脚本を担当されたのですか。
自分で書きましたね。中学生が演じる芝居なんて、当時無かったんですよ。
1本目は、図書館の奥から引っ張ってきたすっごい古い作品だったんだけど、結構ウケたんで、次違うのをやろうと思ったんだけど、他に脚本が無かったから、勝手に続編を書いたんですよね。
― では、独学で書き始められたんですね。
見よう見まねでやりましたね。でも僕らは、テレビも映画も観ているわけだから、そんなに慣れていないこともないと思うけどね。
― 観る側と作る側には、大きな壁があると思っているのですが、そうは感じられなかったのですか。
1本目に上演した作品(『ラクラク館はゆれる』)の続編として書いたので、基にする登場人物や状況設定がありラッキーでしたね。だから、もしあの時ゼロから書いていたとしたら、すごく苦労した気はしますよね。
― このことから、演出家・劇作家を目指されたのですか。
そうですね。演劇というシステムが、いきなり自分を魅了したんですね。
すごく理屈っぽくて賢いなあと思う人が、動き出したら体が貧弱でびっくりするぐらいみすぼらしい感じがして驚いたり、その逆もあったりとかね。
教室で、机と椅子を片隅に集めて空間作って、少し離れて観るだけで、その人の隠そうとしていたものを露わにする、そんな演劇のシステムに中学生でいきなり魅了されたんですね。
― お芝居をすると役を演じるので、役者さんの本質が隠れるのかと思っていましたが、逆に露わになるのですね。
テレビとか観てても分かるじゃないですか。本人はものすごく善人を演じているけど、絶対この人性格悪いぜとかさ(笑)。画面通じて観ている人でも分かるんだから、同じ空間に生きてたら露骨に分かるよね。
だから結局、俳優さんたちは自分を見せるしかないもんなんですよね。もちろん毎回毎回自分を見せてたら大変だから、役づくりはするんだけど、でも役づくりの底にはその人が見えてくるよね。
― 演出をされる際は、役者さんから見える部分を大切にされるのですか。
大切にするもなにも、隠しようがないわけですよ。
だって、恋愛もので嫌い合っている俳優さんが恋人同士だったら、観ていて「絶対こいつら好き同士じゃないよ」というのが、バレるわけでしょう。
だから、そういうものとして対処するしかないですよ。
「おもしろい」は、見れば分かる
― 愛媛で演劇の魅力を伝えるためには、何をしたらよいと思われますか。
それははっきりしてますよ。おもしろい作品をやるしかないんですよ。
別に有名人が出ているとか、装置が派手ということではなくて「おもしろい」ということが、大事だと思いますね。
― それは、多くの作品を観た上で「どうしても、愛媛に来てほしい!」という職員の熱意が必要なんでしょうか。
演劇の厄介なところは、映像作品と違って事前にチェックできないことですよね。しかも、前回おもしろかった劇団が次回もおもしろいとは限らない。
だけど、本当におもしろい作品を見つけたんだったら、それを見てもらえばいいだけ。みんな見たらおもしろさが分かるんだよね。
昔、(日本)劇作家協会が、杉並区の小学校と手を組んで「子どもたちに演劇の楽しみを教えよう」というプロジェクトがあったんですよ。その時に、1年目はすっごい苦労したのね。俺も、ワークショップやシアターゲームで参加したし、渡辺えりさんや谷川俊太郎さんに頼んだんだけど、本当に苦労してみんな絶望的な気持ちで最後の発表会までやりきったんですよ。
それで次の年「またあのしんどいプロジェクトをやらないといけないのか」と思って、みんな惨憺たる思いで小学校へ行ったら、子どもたちがガラッと変わってて、理由を聞いたら「去年の発表を観て、おもしろかったからだ」って。4月から定期的に、最後の発表に向けて月に何回か分担して授業をやったんだけど、全授業1回目から態度が変わっていて「こういうことか」と、僕らも気づいたんですよ。
その学校は、開催回数を重ねるほど、どんどん授業がやりやすくなって、みんなが僕たちを持ち焦がれるようになったのね。なるほど、やっぱり子どもたちも「観れば気づくんだ」ということを、改めて思ったんだよね。
だから演劇を教えるのが難しいとか、子どもたちが振り向いてくれないのは当たり前で、僕らだって見たこともない、おもしろさも分からないスポーツをやれって言われたってできないし「なんだよそれ」って思うだけでしょ。だから、演劇に興味をもってもらうためには、やっぱりおもしろい作品を見せないとダメなんですよね。
― 「おもしろい」と思ってもらえる作品を見つけるのは、難しいですし責任重大ですね。
評判を聞いていたら、だんだん見つかってくると思いますよ。名のある人は、出来不出来はあるけど、ちゃんとアベレージがあって、作品によって極端に違わないんですよね。それは、作品を選ぶ上で信頼できる指標になります。
それから、すごく評判のいい作品は再演するので、再演した中から来てほしい作品を考えてもいいかもね。
コミュニケーションとは、演劇が教えてくれる
― 今後愛媛で更にやりたいことを教えてください。
あかがねミュージアムで作品上演や講演会、ワークショップをやっている一番大きな理由は「表現することは楽しい」ということを、伝えたいわけです。
でも、企画の目的が「表現することは楽しい」だけだと、企画が広く伝わらないので、表現力を高める、つまりコミュニケーションがうまくなることが目的だと言い換えて、ワークショップを開催してるんだけど。
コミュニケーションがうまい人って聞くと、誰とでも簡単に友達になれる人のことだと思いがちだけど、僕は物事がもめたときに、何とかする能力がある人のことを、コミュニケーションが上手だってよく言ってるんですよね。
つまり、表現力が高くなって、様々な表現ができるようになると、物事が行き詰まったり、どん詰まったり、もめたときに、違う言い方や提案ができるようになるんですよね。それを学べるのが、演劇鑑賞やワークショップなんだと。
だから愛媛に関わらず、みんなのコミュニケーション能力が高まれば俺としてはいいんだけれど、全県的に演劇を愛してくれる人が増えることに繋がる何かができたらいいなあと思いますね。
絵しりとり 道化師 ⇒ し○
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