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暮らしと自然のバランスによって現れる風景が美しい 村上佳苗

こんにちは!note更新担当のたぬ子です。

今回は、故郷である瀬戸内の島を軸に作品をつくられている、村上佳苗むらかみかなえさんに、油絵を始められたきっかけや、島の魅力などについてお伺いしました。

[プロフィール]
■氏名
 村上 佳苗(むらかみ かなえ) 
■ジャンル
 芸術(油絵)
■経歴
 愛媛県大三島(今治市)生まれ。2011年多摩美術大学大学院博士前期課程絵画専攻油画研究領域修了。
 故郷である島の風土や土着観念を軸に、自身が見聞きし体感して身体の一部となった、”この島のどこかでいつかある(あった)こと・もの・ひと”の積み重なりを、キャンバスや瓢箪ひょうたん油彩ゆさいで描いています。制作の中で目指すのは「島」とは何か、(私自身も構成要素として含まれている)その姿を捉えること「島」をあらわすことです。
 それがいつか島の語り部としての役割を果たし、世代をつなぐ要素の一つになっていくことができればと考えています。
■SNS
 ・Instagram(@murakamikanae

美しいだけではない風景の良さ

向こうの畑_キャンバス、油彩_2020 提供:村上佳苗

ー 油絵を始められたきっかけを教えてください。

 高校で美大に進学したいと考えた時に、美術の先生に進路を相談をしたんですよね。最初は、描き方や描いたものの雰囲気、ものの捉え方が、日本画向きなんじゃないかと言われていたんですけど。自分が何を描きたいのか考えた時に、油絵科のほうが自由度が高く、対応ができるんじゃないかということで、油絵で描くことになりました。

ー そのころから島を描きたいと思われていましたか。

 受験をするにあたって、様々なものを練習で描いていくんですけれども、その中で何度も島が出てくるんですよね。それで「私は島を描きたいんだな」と気が付きました。
 小さいころから島、地元がすごく好きで、島のためになる仕事がしたいとずっと考えていたんですけど、観光や行政の仕事はピンとこなくて。島を描いているうちに「美術だからできることがあるのかもしれない」と、作品づくりに繋がっていきました。

ー では、島の魅力を教えてください。

 圧倒的に風景の美しさですね。
 ただ美しいだけではなく、自然の中に文化や人間の生活があって、もちろん人間の手も届かない、周りきらない部分もあります。それは必ずしもいいことではないけれど、そういう不自由さみたいなのも含めて、暮らしぶりと自然のバランスによって現れている風景が、私の目には美しく見えています

ー 帰省した際に、島の変化に驚くことはありますか。

 今、移住者の方も増えてるので、しばらく空き家だったところが、新しくお店に変わっていたり、観光客の数が以前より多くなっていますね。
 その反面、耕作放棄地のようなところが増えていて、人の手が回らず、山に飲み込まれていく様子がうかがえる場所もあります。

自分の経験をベースに、変化も含めて”島”を伝える

御手ノ真中(部分)_キャンバス、油彩_2009 提供:村上佳苗

ー 島を描かれる時は実際に見に行かれたり、資料を見ながら描かれるのですか。

 島での経験をベースに描いているので、学生の時は年5~6回、今でも年に4~5回は帰って、島の中を歩いたり、見に行ったりしています。
 島の文化や歴史を知るために、郷土資料や本を探して読むこともありますね。

ー 村上さんの中にある“島”を表現されているのですね。

 自分から半径数メートル、本当に身の回りの場所から少しずつイメージを広げて描いています。

ー 島以外のものを描かれることはありますか。

 島にまつわるもの以外は、今のところほとんど描かないですね。 
 今は風景が多くなっているんですけれど、元々祭りが好きだったので少し前までは、とにかく祭りの絵ばかり描いていました。

ー 祭りから風景に描く対象が変わったのは、何か理由があるのですか。

 コロナで3年間祭りが開催されていなかったので、観ていないものを描くわけにはいかないなと。
 もちろん、それまでもその年に観た祭りを、そのまま描いているわけではなかったんですけれども、祭りを観ていない状況でイメージが固まりづらくなったというのは、あったかもしれません。

 またコロナ前も、祭りはあっても少子高齢化などで、昔ほどの勢いはなくなってしまっていたんですよね。子どもの頃から20代ぐらいまでの、すごく祭りが賑やかだった時の雰囲気が好きで、その時をベースに描いていたので、祭りの規模が段々小さくなっていくことに寂しさを感じました。
 そういうところもしっかり観ないとな、と思ってはいるんですけれども、まだ消化不良のところもあって、その気持ちを無視して、好きだったころの祭りを描くのも違うなと思うんです。

ー 今の村上さんが観て、感じたものが絵に大きく反映されるのですね。

 そうですね。自分が観たもの、感じたものはすごく大事にしています。経験と現実が離れすぎていて「あのころは良かった」だけになるのは危険ですし、私としては綺麗なとこだけを自慢げに描きたいわけじゃなく、いいところもそうでないところも含めて、全てを引き受けた上で描きたいんですよね。
 そのために、変わっていく過程やリアルタイムの状態も、きちんと知って感じておきたいと強く思っています。

瓢箪なら描きたいことが表現できる

島のこと(農協下、3月)_瓢箪、海砂、流木、油彩_2023 提供:村上佳苗

ー 瓢箪に絵を描くようになったきっかけを教えてください。

 中学校の時に、学校の畑で作った瓢箪を持って帰っていたんですよね。それがずっと手元にあって「これを使って何かできたら楽しいな。せっかくだから、作品に使えたらいいのにな」と思いつつ、20代過ぎるぐらいまで使いどころがピンとこなくて。ある日、今の自分の状態で絵を描いてみたらどうだろうと試したら、自分が表現したいことにピッタリの素材だったんです。

 絵って、観たものを四角く切り取って描く、とよく言うんですけど。私の場合ちょっと違っていて、自分の体感を基に描いているので、振り向いたり、見上げたりしている全方位の視点を1つの作品に入れ込みたいと思っているんです。
 その点瓢箪は、全体が曲線で繋がっていて端が無いですし、正円や正方形のように綺麗な形ではなく歪みがあって、それが人間の視点の不安定さや頼りなさみたいなものと合っていて、自分の表現したいことができる素材なんですよ。

瀬戸内の方々に、作品を観ていただきたい

恐み恐みも白す_キャンバス、油彩_2016 提供:村上佳苗

ー 今後、愛媛でやりたいことを教えてください。

 作品を観ていただける機会を増やしたいと思っています。島にまつわるものを描いていますが、それは大きく捉えると愛媛のこと、四国のこと、瀬戸内のことですので、同じ文化圏の方にたくさん観ていただきたいですね。

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