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2年伸ばした髪を切る

成人式に合わせて髪を切ったのがちょうど2年前のことで、それ以来髪を切っていなかった。時々毛先だけ整えたり、トリートメントをしてはいたが、留学中はそれすらもなくただただ伸ばしていた。

男が髪を伸ばすと、周囲の反応が面白い。例えば、私がトイレで用を足していると入ってきた人が一度外に出て、男子トイレであることを確認してからまた戻ってくるということがよく起こる。髪が長かろうが立って用を足しているのだから戻って確認する必要はないとは思うのだが、明らかにあたふたしている様子を見るのは面白かった。

大学の近くには銭湯がコンビニくらいたくさんあるのだが、その入り口でも番頭さんに、「女性の方はあちらです〜」と言われたりする。その度に「紛らわしくてすみません!男なんですよ〜」とヘラヘラ返事をするのだが、申し訳ない顔をされることも多い。

留学中、ナイル川で泳いだ際には、「女が裸で泳いでる」と思い込んだ男が血相を変えてこちらにきて大声で注意してきたこともあった。保守的な地域では女性が肌を見せることはあまり褒められたことではなく、ましてや公共の場所で裸になるなんて考えられない。その地域では女性は川で水浴びをするときでも、全身真っ黒のニカブと呼ばれる服を着ていたことを考えると、男の気持ちもわからなくない。


ナイル川で泳いだ日

それでも留学中は、髪を伸ばしていてもあまり気にならなかった。「アジア人であること」という大きな差異があるため、「髪が長いこと」があまり話題に上がらなかったのだ。また、エジプトにいる日本人には長期旅行者が多く、髭も髪も伸び放題といった人が一定数いるので、特に疎外感などは感じなかったばかりか、「留学生」という立場でありながら、旅人の皆さんにも仲良くしてもらった(もちろん髪が短くても仲良くしてくれたことにはかわりないのだが)。

留学中は髪の長さより髭の長さのほうが重要であった。髭が伸びるとインドネシア人やカザフスタン人、タジキスタン人に間違われるようになり、エジプト人との間でムスリム的な同胞意識のような芽生え、仲良くなることが増えた。アラビア語を少し話すようになると髭との相乗効果でぼったくられる回数も減っていった。


帰国し、年が明け、ようやく髪の毛が40cm近くになったので、断髪式を行うことにした。


まず、毛束を作る


2年伸ばした髪。
この後、さらに短く髪を整えた


周囲の反応がまた面白かった。まず小学校の頃の友達に再会したのだが、「5年ぶりくらいに会った気がする」と言われた。実際にはたびたびご飯に行っているのだが、昔の髪型に戻ったおかげで「あのときの」髪が短かった頃の記憶が蘇ってきたのだという。皆口々に「やっぱり短いほうが似合っている」と言っていた。

対照的なのは年始にあった高校の同窓会でのことである。多くの人が私のロン毛を惜しみ「なんで切っちゃったの〜」と言ってきた。個人的には短いほうが似合っていると思っていたので、理由を聞くと「お前には我が道を行ってほしい」と異口同音に言われた。高校の同級生の間で私は、変な国に行き、変なことをやっている人間というイメージがあるようで、ロン毛はそのイメージに合致していたのだと思う。

中学校の同窓会では、特に何も言われなかった。中学の友達とは交流が無さすぎて、ロン毛の期間があったことすらも知られていなかったのだろう。

何はともあれ髪を切った。楽で楽でたまらない。髪の毛を乾かす時間は1/10になったし、トリートメントに気を使わなくてもよくなった。髪が絡まることもないし、何よりトイレで二度見されることもない。

髪を伸ばした理由はいくつかあるが、それは特に問題ではない。長髪は誰かのためではなく、自分の興味と怠惰が生んだ結果でしかない。しかしながら癌で娘を亡くした親戚に褒められた時は、髪を伸ばしてよかったと心から思った。人毛はやはり品質が高いらしい。自分のエゴで誰かがほんの少しでも助かるのなら、それほど嬉しいことはない。










利用した団体。髪の毛を持て余している人はどうぞ。



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