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続:現代の和菓子はおもしろい《練り切り編》

「現代の和菓子はどんどんアップデートされている。洒落ていて、新しくて、おいしいんだ!」


現代の和菓子のおもしろさを伝えたくて書いたnoteには、たくさんの反響をいただきました。読んでいただいた皆さま、ありがとうございます。


私は和菓子の作り手ではないし、お店の人として広報をしているわけでもない。

でも、若者の和菓子離れと言われている現代でも、こんなにもめずらしくて、心がときめくような和菓子は今もなお作り手の方達の努力で絶えず作られている。


新たな挑戦を応援したいのなら、味を、お店を長く楽しみたいのなら少しでも広く伝わっていくことが大事だと思うのです。


あの記事をきっかけにこんな和菓子もあるんだ!と知っていただけたのなら、とてもうれしく思います。


はじめに

話を改めまして、
本題に入る前にまずは導入として簡単に和菓子の種類のお話から始めたいと思います。


和菓子は大体、干菓子(おせんべいや落雁などの乾いたもの)、半生菓子、生菓子の3つに分類されるそうなのですが、前回紹介したような掛け合わせの和菓子も多くある通り、同じお菓子だからといっても断定がしづらく厳密な線引きはむずかしいようです。


タイトルにはわかりやすく練り切り編と記しましたが、今回は前回お伝えしきれなかった和菓子の花形でもある練り切りや錦玉をはじめとする〈生菓子〉のお話を写真とともにお届けしたいと思います。






◯「鶴屋吉信」春詩(京都)

桜の花びらが水辺に舞い降りて波紋が浮かび上がる……そんな春の景色を連想させられる。白あんをういろうで包んで模様をつけている



◯「千本玉壽軒」天の川(京都)

ただ着色させるんじゃなくて、膜越しに色を透かして見せるのが風流だと思う。黒あんを葛で包んでいる。



◯「御菓子司こまき」紫陽花(北鎌倉)

薄紫色の寒天に光が反射すると雨に濡れた紫陽花のように見える。葉が敷かれているのがまた風情があって素敵だ。中は白あん、錦玉製(お砂糖と寒天を煮詰めて冷やし固めたもの)




◯「とらや」林檎形(赤坂)

虎屋の林檎形。まるで本物の果実さながらの色や模様は職人さんが一つ一つ手作業で作るからこそ成せる技。羊羹製の中に白あんが包まれている。



◯「七里香」蛍月夜(早稲田)

きらめく星空、浮かぶ満月、儚い蛍の光。日本のどこかで見られる夏の一夜の情景がこのお菓子ひとつに表現されている。台座には本練り羊羹、錦玉製の菓子。


◯「亀屋良長」銀河(京都)

菓子という小さな空間に銀河が閉じ込められている。色の奥行き、あぶくはずっと見ていられるほどに美しく、時間までもが刹那的に閉じ込められたように思える。中は白あん、錦玉製。



◯「亀屋」虹のしずく(埼玉)

虹からひと雫こぼれ落ちたらこんな姿形をしているんだろう。落ちる影の色さえ気持ちを明るくさせる。東京の日本橋三越の催事にて、テーマの「虹」に寄せて作られた一品。錦玉製の菓子。




◯「乃し梅本舗佐藤屋」オーダーメイド生菓子(山形)

日本橋三越の催事会場にて希望のお題に沿って即興で作ってくださった上生菓子。人が入り乱れる催事会場という一種の戦いの場でこんなエンターテイメント性のある催しをする心意気に感服した。和菓子をちょっと自由に、と掲げられている言葉通り粋な計らいだ。この日お願いしたお題は「夕暮れ」



◯「かんたんなゆめ」嬉々(東京)

練り切りを知らない、食べない、若い人にも思わず食べてみたいと思わせるかんたんなゆめの「嬉々」

チーズケーキを思わせる餡は練り切りを食べたことのない人には親近感を、食べたことがある人にとっては斬新に映るだろう。またデザインによって見せる表情が変わるのも嬉々ならでは。


かんたんなゆめには代表的なこのお菓子嬉々以外にも新しい発想で作られる創作和菓子が季節ごとに登場するので、和菓子に馴染みがない人でも興味があれば一度訪れて見てほしい。








さいごに

今回紹介した生菓子は私の知る限りでは一つ一つ職人さんの手作業で作られているものがほとんどです。


芸術品のようなお菓子は熟練の技術を掛け合わせることで完成するものであり、見た目以上に作るのがむずかしいのです(私も何度か作ってみたことがあるのですが、着色の加減や道具を使う細かい模様付けなど不器用な人間は一つを完成させるのに心が折れそうでした)



練り切りをはじめとする生菓子は、手のひらサイズのお菓子に四季の情景を思い起こさせる表現を施す。見てうつくしい、食べておいしい。私は練り切り(生菓子)を食べられる芸術作品だと思っています。


四季を大事にする文化がある日本ならではの感性、細やかな技術を持ち得ているからこそ為せる技であり、世界に誇るべき逸品だと思うのです。


誕生日やお祝いごとなどでケーキは日常に根付いているけれど、和菓子に馴染みがない人はもしかしたら和菓子を自ら買いに行くという発想も思いつきにくいかもしれません。


けれど、いつしかこの記事をきっかけにしてくださっても嬉しいですし、それ以外でも構いません。


和菓子に少し馴染みが出てきたとして、街の和菓子屋さんや百貨店の和菓子屋さんのカウンターに並べられた練り切りを見て、なんとなく今の季節に思いを馳せる。そんな時が来るかもしれません。


和菓子は練り切り以外にも季節の節目に食べるような意味が込められたお菓子がいくつもあります(私は6月に食べる水無月が好きです。もしよければ意味合いを調べてみてくださいね)


忙しなく過ぎる日々の合間にお菓子を見て味わうことで四季に目を向ける。どこか遠くに足を運べなくとも、そんな時間をもてたのなら十分に豊かな四季の楽しみ方と言えるのではないのでしょうか。


この記事を読んでくださった方がすこしでも和菓子に興味をもち、目を向けるきっかけになってくださればうれしいです。

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