「異世界もの」の言語問題について 〜なぜ言葉が通じるのか?〜
マンガの一つのジャンルとして確立した「異世界もの」。そんな異世界ものの大きな問題として、言語問題があります。
なぜ異世界でも普通に会話ができるのか?
その理由付けは作品こどによって異なります。異世界もののマンガ30作品ぐらい読んでみたところ、大きく7パターンに分類できそうなので、その7パターンをご紹介していきます。
パターン① 赤ちゃんからやり直して現地語を習得
◯『無職転生~異世界行ったら本気だす~』
『無職転生~異世界行ったら本気だす~』では、主人公は赤ちゃんからやり直します。数年かけて現地の言葉を覚えていきました。
これなら主人公が現地の人々と普通に会話していても、なんら違和感はありませんね。
パターン② 神様的な存在が言語能力を与えてくれた
◯『ポーション頼みで生き延びます!』
『ポーション頼みで生き延びます!』では、転生する時に主人公は神様に対して、
「それと、向こうの言葉や文字もわかるようにしてもらわないと」(1話)
とちゃんとお願いをしています。
◯『老後に備えて異世界で8万枚の金貨を貯めます』
『老後に備えて異世界で8万枚の金貨を貯めます』では、転生した当初、主人公は現地の人々の言葉を理解できませんでした。
そんな主人公は神様的な存在が目の前に現れたときに、言葉の習得をリクエストしています。
これによってその世界の住民と会話ができるようになりました。
パターン③ 魔法で言語能力を習得した
◯『転生したらスライムだった件』
『転生したらスライムだった件』では、「魔力感知」というスキルを応用することで、言葉が理解できるようになりました。
自らの魔法を応用することで言葉を理解しています。
パターン④ 前の転生者が日本語を覚えさせた
◯『異世界行ったら、すでに妹が魔王として君臨していた話。』
主人公「じゃあ言語は?皆日本語喋っているけど」
妹「あたしがこの国の王になったとき母国語に決めたの」
おもしろいパターンです。
主人公よりも前に転生していた妹がこの世界の王様になっていて、現地の人々に無理やり日本語を覚えさせていた、という設定です。
過去のエピソードが言及されることで、物語に奥行きがうまれますね。
パターン⑤ VRゲームの世界だから通じる
「異世界転生」とは厳密には違うのですが、VRゲームの中の世界を冒険する作品は数多くあります。
代表的なのは、『シャングリラ・フロンティア~クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす~』や、
『ソードアート・オンライン』です。
最近だと『人外姫様、始めました』という作品がおもしろかったです。
これらの作品では、主人公がVR装置をつけてゲームの中の世界を旅します。ゲームの世界なので日本語は当たり前のように通じます。最も矛盾がうまれない設定ですね。
パターン⑥ なぜか知らないけれどわかる
◯『数字で救う! 弱小国家 電卓で戦争する方法を求めよ。ただし敵は剣と火薬で武装しているものとする。』
「文字や数字はなぜか読めた」(1話)
◯『29歳独身は異世界で自由に生きた……かった。』
「普通に文字読めるね…言葉もわかるし…」(1話)
これらの作品では理屈は説明せずに、事実だけを描写しています。
言語問題は説明しだすと話がややこしくなるので、設定だけ読者に知ってもらえればOKというスタイルなのでしょう。
理屈を難しく解説されるよりも、「そういうものだから」と説明してくれたほうが、読者としては頭を使わなくていいので楽です。
パターン⑦ 特に言及しない
調査をした中で一番多かったのは、言語問題に言及していない作品です。(パターン⑥のように「言葉はなぜかわかった」のような描写すらありません)
◯『この素晴らしい世界に祝福を!』
◯『ポンコツが転生したら存外最強』
◯『神無き世界のカミサマ活動』
最近の異世界ものでは、異世界への転生シーンはあっさり描かれることが多いです。たとえば『神無き世界のカミサマ活動』では、
どうやら流行りの異世界転生をしてしまったようです(1話)
と、転生シーンをシンプルに描きます。
ジャンルとして確立された昨今では、異世界への転生シーンはどんどん省略される傾向になってきています。こういった作品では、言語問題についても言及しない作品がほとんどです。
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以上、異世界の言語問題の対応方法について、7パターンをご紹介しました。
【結論】言語問題の描写の仕方に作品の特徴があらわれる
異世界ものは、共通のルールの中でいかにオリジナリティを出せるか?という知的で文化的な遊びだと思っています。
「異世界でも言葉は通じる」という設定は共通のルールなので、その設定をわざわざ描写しなくても問題はありません。
必須ではないからこそ、描き方の違いによって作品の特徴を垣間見ることができる気がしています。
・言語問題についてとくに言及しない
→異世界ジャンルをある程度読んでいる人向けに描いている
・「なぜだか知らないけれど言葉がわかる」という説明
→細かいことは気にせず、どんどん読み進めていってほしい
・魔法で理解できる
→この世界の魔法は応用すればなんでもできちゃう
・妹が日本語を普及させた
→妹、マジすごいやつ
言語問題の描写の仕方によって、作品の特徴をうかがい知ることができます。
これから異世界ものを読む際は、言語問題について気にされてみてはいかがでしょうか?
【参考】異世界言語問題を題材にした作品
異世界の言語問題についてまっこうから挑んだ作品も登場しています。
◯ マンガ『ヘテロゲニア リンギスティコ ~異種族言語学入門~』
言語学の研究員が魔界にいるモンスターの言語を探っていく作品です。
リザードマンやスライムなど各種族の言語の違いが細かに描写されていて、知的好奇心を刺激してくる作品です。
◯ 小説『異世界語入門 ~転生したけど日本語が通じなかった~ 異世界語入門』
異世界に転生してハレームをつくれると思ったら、言葉が通じずガッカリする主人公。彼はハーレムをつくるために、言語の習得から始めていきます。
本格的な言語学を取り入れた内容になっていて、読んでいてすごい勉強になりました。マンガ化してほしい作品です。
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