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読書「あのこは貴族」:シンデレラのその後

ずっと私に関わりのあることを書いてあるのだろうと言う予感がしていたあのこは貴族をようやく読めた。面白くて一気に読了。

読んでる間中自分の周りの人間の顔が何人も浮かんでは消え、いろんな人の面影が重なった。

調べてみたら作者の山内マリコさんは現在42歳の富山出身。この二人のうちではどちらかと言うと地方出身の美紀に近いのかもしれない。

それで、この解像度で東京生まれ東京育ちの華子とその周辺の空気感を書けるのだから、作家って本当にすごい。

この話はシスターフッド物語で、女性解放の視点から読むことができるが、まずこの2人の女性の人物像を丁寧に、1章2章を丸ごとかけて描いている。

自分はどちらの境遇に共感できるかな…と考えながら読んだのだが、私は地方出身で上京した、立場的には完全に美紀だ。

だが、華子の世界を覗く機会が多かった。穏やかでギラギラしてない、休日はお母様と歌舞伎の観劇に行くような友人達。私のような出自の人間にも優しく、お茶に招いてくれて…と思っていたが、知らない間に美帆のようなことをしていたかもしれない。ちょっとゾッとした。

地方は東京を見ているが、東京に住んでいると地方のことを気にしない。それと同じように、階層の外の存在を気にかけない。華子にとって着物教室のひとが「おばさま」と言う集団に見えたように、十把一絡げの集団に見える。

どちらが上とか下とか言ってはいけないことになっているが、グロテスクな本音だと思う。

そして、最上階層に住んでいる幸一郎は、政治家になる。
幸一郎の薄情さは、最上階層ゆえに周囲の人を自然に見下しているのではないだろうか。育ちがいいので人当たり良くしているが、本当の部分では心を許していない。
さて、ここで幸一郎は下の階層の人を気にかけることができるか?政治家って、最上階層の人を選んでいいのか?

上の階層と下の階層、外に出たい人とその場に安住したい人。物語の中では何重にも入れ子構造になっている。東京に生まれて、外に出たい相楽さんは海外に出た。華子は残った。

3章は怒涛の展開と、結婚生活のその後が描かれている。
結局、王子様はお姫様と結婚したのだと最初は思った。王子様と結婚できるのは、身分のしっかりしたお姫様だと相場が決まっている。貧しい生活をしていても、シンデレラは貴族だし、白雪姫もオーロラ姫も貴族だ。卑しい身分の娼婦だけど王子様に見そめられる話は、あまり聞いたことがない。

この展開、おとぎ話的見方だとお姫様が娼婦に勝利した、という形式になる。

しかし、これは令和の物語である。女たちは王子様を取り合って喧嘩したりしない。ナチュラル見下し王子を二人で懲らしめる。物語は王子様とお姫様は結婚して幸せに暮らしました、めでたしめでたし、とはならなかった。お姫様は、王子様と結婚しても幸せになれなかった。その時、お姫さまは外の世界の存在に気づく。

王子様に選ばれなかった娼婦も、お姫様より早く自立に目覚めている。本当にめでたいのは何か?と問うている。

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