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エレンのこと、嫌いにならないでほしい

※最終巻のネタバレを含みます!

進撃の巨人、最終巻読みました。
色んな意見があるけれど、個人的には非常に良い?終わり方でした。ハッピーエンド的な意味での「良い」ではなくて、考えさせられる「良さ」がありました。

…で本題なんですが。
みなさん、エレンのこと好きですか?

3月の人気投票では5位で、得票率は6.6%です。
少年漫画の人気投票で、主人公は1位を取れないのはあるあるですが、それにしても人気ないよね、と思える順位…。

確かに、エレンって自分勝手で、横暴で、生意気なキャラだった。
それだけでなく、人を殺めるという「絶対にやってはいけないこと」もやりました。

みんな、ミカサとエレンの幸せな暮らしを見たかったし。
アルミンとエレンがともに広い世界を冒険する姿を見たかったし。
ジャンと喧嘩するなかで良いライバルになる二人も見たかったし。

そんな少年漫画的な「見たい展開」がいっぱいあったけど、でもエレンはそれを裏切り続けます。

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ミカサの気持ちに応えず、嫌いだと突き放すエレン!
アルミンと一緒に、初めて見た海にワクワクしていないエレン!
ジャンのことなんて眼中になさそうなエレン!

ずっと読者をやきもきさせるキャラでした。

そんなエレンですが、この最終回があったからこその、彼の「尊さ」みたいなものを感じてほしくて、この記事を書きます。

エレンの気持ちは、誰にも分からなくなっていった。

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エレンの目標はずっと変わらず「巨人を駆逐すること」でしたが、最終的にそれは「巨人の力を消した」ことで達成されます。

ただこの目標は、真実を知る中で、エレンの中でたくさんの変化と決断が起こったうえで「変わらない結果」だったんですが…。
そんなエレンの葛藤は、物語の中ではあまり描かれません。

むしろ、物語の中盤あたりからエレンの真意が分からないシーンが目立つようになり、読者も周りのキャラクターも「エレン、何考えてんだ!?」と思わされます。

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これ、素晴らしい描き方だと思うんですが、物語前半の「復讐に対して妄信的なエレン」「死に急ぎ野郎」を印象的に描くことで、物語終盤まで「エレンはまたそうやって無茶して!!」って、愚かな自己犠牲に見える。

エレンの中では、みんなのために死と虐殺を選ぶ覚悟をしたのに。
周りから見れば、ずっと「死に急ぎ野郎」。
しまいには「あれはエレンじゃない」とかコニーに言われる始末。

こんなに辛いことってあるだろうか。

じゃあ、そんな思いをしてまで、エレンが得たかったものって、なんだったんだろう?

エレンは、何を得たかったのか?

エレンが得たかったものって「自由」だと思われがちなんですが、これはエレン本人の求めたものというより、世界が、物語がエレンに与えた役割みたいなもので…。

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「お前達に止められる結末がわかっていなくても」「オレはこの世のすべてを平らにしてたと思う」「…何でか」「わかんねぇけど…」「やりたかったんだ…」「どうしても…」

じゃあ、結局エレン自身が、この物語の中で得られたものってなんだったのか?

月並みな表現ですが、かけがえのない仲間、なんじゃないかなと思います。

これについては、エレンがはっきり言っているシーンがあって…。
エレンが、最後の本音と、本当の願いを言ったシーンなんじゃないかと思います。

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お前らが大事だからだ、他の何よりも…。
だから、長生きしてほしい。

これがすべてで、誰かに押し付けられた自由ではなく、エレンが勝ち取ったものです。
「争いのない世界」「巨人のいない世界」みたいな誰かに押し付けられた自由ではなく。

それが象徴的に描かれているのが、単行本最終巻の【加筆部分】で、ミカサが年老いて死を迎えます。
その後、街並みがビル群に変わった世界で、また戦争が起きています。

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つまり、エレンが自分を犠牲にしても、争いは無くならないんです。
でも、「ミカサたちが年老いて死ぬまでの、平和な世界」は獲得できた。

つまり、エレンは自己犠牲によって、自分の大好きなミカサの、アルミンの、仲間たちの人生を掴み取ったんです。

大好きな人たちの“自分が隣にいない人生を掴み取ったんですよ!(涙)

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オレが死んだ後もずっとあいつらの人生は続く…
続いてほしい
ずっと… 幸せに生きていけるように

なんて、いじらしいんだろうか…!

残された人の想いはどうなるのか?

ただ、自己犠牲というテーマに、かならず付き添ってくるものが「残されたものの想い」である。

残された人の、「エレンといっしょに生きたかった」人のことを考えると、エレンの自己犠牲は愚かで自分勝手なものに見えるかも。

ただ、ここで思い出してほしい。エレンの不可解な言動の数々を。

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ミカサに「ずっとお前が嫌いだった」と言ったり、アルミンに無能だと言ってボコボコにしたり、明らかに「嫌われるための言動」をしていますよね。

これって、エレンなりの残されたものの想いを断ち切るための行動だったんだと思います。
ただ、結局エレンの思ったようにはいかず、アルミンやミカサ、仲間とのつながりは断ち切れませんでした。

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エレン、ありがとう
僕たちのために…殺戮者になってくれて…
君の最悪の過ちは無駄にしないと誓う

最終的には理解されちゃうんですね。
この「嫌われようとしたけど、ダメだったし、みんなのこと大好きだった」エレンが、なによりも愛しくて、尊いと私は思うのです。

「心臓を捧げる」ということ

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作中でたびたび、鼓舞する言葉として使われる「心臓を捧げよ!」ですが…。

会社の同僚から、なんで「命を捧げよ!」じゃなくて「心臓を捧げよ!」なの?生々しくない?』という話をされたので、考えてみます。

正直、作中であまりにもいろいろな意味で使われているんですが。
エレンにとっての、この言葉の意味を考えたい。
本当に言葉遊びでしょうもないんですが…。

「命を捧げよ」だと「Give your life!」になる言葉。
「心臓を捧げよ」の公式英訳は「Dedicate Your Heart!」になります。

別の意味に訳すると「あなたの心を捧げよ」です。
つまり「あなたの心を犠牲に」みたいな言葉なんじゃないかと…。

定めと、仲間のために、感情を殺したエレンは、この言葉を聞くたびにどんな気持ちになっていたんだろうか?

「自己犠牲」は、さまざまな宗教で美徳とされます。
仏教では「無我」、キリスト教では「無償の愛」「アガペー」などで表されます。
文学においても、宮沢賢治が多く題材として取り上げるテーマです。

友のために自分の命を捨てること、これ以上に大きな愛はない
―『ヨハネによる福音書』15章13節
僕はもうあのさそりのやうに ほんたうに みんなの幸のためならば 僕のからだなんか 百ぺんやいても かまはない。
— 『銀河鉄道の夜』

でもこんなの綺麗ごとで、残された人の人生からその人はいなくなる、非常に身勝手な行為なわけです。そして、現代に生きる人は、それになにかモヤッとした気持ちを持っています。

「安楽死を支持するかどうか」とか、「迷惑をかけるくらいなら死にたい」って言われたとき、どう考えますか?みたいな話。

進撃の巨人がどういう漫画だったかと聞かれると…。
自己犠牲と、それの受け止め方、みたいなものを描いた傑作だった。
そう思ってます。

そんなエレンを、嫌いにならないでほしい!
という話でした。

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