くろうさぎ

名前をくろうさぎというその男は、見た目からして薄命な人物、という印象を誰もが受けるような人物だった。

目が悪く度のきつい眼鏡をかけており、華奢な体格に似合う女性がごとき細い指の先には、乾燥肌の影響かささくれができている。普段は穏やかに読書をし、気が向けば土をいじり、近所を歩き、野草を観察する。そんな人物であった。しかし、その見た目が故に、内実勇猛果敢な面があるくろうさぎは頭脳派とみられるのが常だった。

もっとも、中身が勇猛といえども、体力が追いつかないのに勇猛果敢な挑戦をするのはそれは勇猛とは言わず、蛮勇という。それに、頭を使うことは元来嫌いではない。周りのイメージ通り、頭脳派で生きるのも別に苦ではない。とにかく、自分の事に対しては無頓着な事の方が多い。

さて、現在くろうさぎはただのアルバイトである。周りが就職だなんだと騒いでる中、一人お小遣いをためては旅に出たり、家にこもったり。世とは隔絶された生活を送っているといっても過言ではない。しかし隔絶された世界の中で、くろうさぎは自分の頭脳の中で張り巡らした論理の迷路を人々に知らしめたいという微かな野心を持ち合わせている。共鳴する人が現れるや否や、是非は後世が決める事と割り切っているくろうさぎは、遂に自らの弱者としての生き方というものを、せめてもの生きた証として残したいと思っている。その遺志を継ぐ者は現れるだろうか。ひとりのぼやきとしてのみ、世界に残るだろうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?