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②新感覚ストア・クリエイタートークセッション「ぶっこめ!!ネクストカルチャー」レポート part.2

3月13日〜21日の8日間にわたって開催された、アトリエe.f.t.の手掛ける体験型アートイベント「新感覚ストア2021」。その中で、「アトリエe.f.t.」代表であり、教育者、デザイナー、芸術家など、様々な顔を持つ、吉田田タカシと、奈良県東吉野村にあるコワーキング施設「オフィスキャンプ」の代表を務めるデザイナーの坂本大祐氏とのクリエイタートークセッション「ぶっこめ!!ネクストカルチャー」が行われました。「これからのカルチャー」について語っていただき、大いに盛り上がったイベントの様子を、前回からレポートとしてお送りしております。第2回の今回は、いよいよ「これからのカルチャー」の本質に迫ったお話が繰り広げられています。

※第1回の記事はこちらから


吉田田:少し話は変わるんですが、僕が学生の頃によく思ってたのは、「なんでこんなに勉強しなあかんのやろ」ということで、勉強をする人たちは正しい人で、勉強が嫌いな人たちは正しくない人たちとされてたんですよ。それで言うと僕は正しくない人。ほんまに勉強が嫌いやったんですよね。でもそれって僕が悪いのかな?なんか違和感があるなと思っていて。勉強したら何になるのかを具体的に教えてくれる大人はいないし、それなのにめちゃくちゃ詰め込められて、「なんなんやろこの違和感は」と思ったまま大人になったから、今こういうアトリエをやってるんですね。あの違和感を大事にしててよかったって今は思います。そのことと今同じことが起きてて、「僕ら全員が作ってきたこの近代社会って、ほんまにこんな感じでいいの」って社会に対する違和感を持っています。この違和感を大事にしていって、これからの10年、アトリエe.f.t.の運営をしていかないとなと思ってるんですね。その部分は坂本さんはどんなふうに感じ取ってますか?

坂本:今の話を聞いて一番最初に思いつくのは、斎藤幸平さんの著書「人新世の資本論」のことです。資本論と言うとドイツの思想家のカール・マルクスが有名ですが、マルクスは共産主義の根本を作った始祖の方なんですね。斉藤さんはそのマルクスの資本論の研究者なんですよ。その研究が評価されてドイッチャー記念賞という、ドイツのマルクス研究の賞を外国人かつ史上最年少でとったていう稀有な才能の方です。その方が何を書いてるかというと、資本論って基本的に今の資本主義、特に日本の資本主義のベースになったって言われてるんですけど、「資本主義って突き詰めていくと、環境破壊に繋がりますよ」ということをそこに書いてるんですね。

それってどういう意味かというと、ここにあるもの含めたこの世にある全ての商品は、地球の資源を加工して作ってますよね?もともとは全部原価0円なんですよ。めちゃくちゃ大きい車みたいな製品であれ、根本を正すと実は地球の資源をすごく上手に加工したもので成り立ってるんですね。つまり誰も0から1を生み出していないってことなんです。物体になってるのものは基本的に地球資源を加工したもの。加工物を再加工してグルグル回してるうちは良かったんですけど、それをある段階からゴミにしちゃったんですよ。つまりいらなくなったものを捨てるようになったわけです。それまでの狩猟採取の時代はゴミはほぼなかったんで、使ってるものがすぐ自然に還元されるものばかりだったんですけど、いわゆる産業革命以降に顕著になったんですが、ついにいらないものが出てきたんですよ。モノを捨てていくということは、資源を加工したものが地球環境に還元されないということです。つまりゴミがどんどん堆積していくようになったわけです。それは本来なら循環するサイクルをゴミというもので分断してるんですよね。
何が言いたいかと言うと、極論、「我々の資本主義経済をどんどん先鋭化させていくと最後はゴミだけになるよ」って話なんです。この本はそれに警鐘を鳴らしてるような内容なんですけど、つまりダダさん(吉田田)が持ってる違和感は、そういうことと密接してるところがあると思ってます。

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吉田田:一番最初は、デザインのところから違和感が始まったんですよ。僕らが作ってるモノ、生み出してるモノってなんなんやろうと。これって僕一人じゃなくて、世の中のすごい数の人がいろんなモノを作ってて、物凄い数の製品が生まれてる。それをみんな消費してるけど、「これいつまでずっとやっていくの?膨大なゴミを作り続けてしまってるんじゃないのか?」という事が最初の違和感でした。

坂本:みんながそうやって生み出すことで、手に入れないといけないものが1つになっちゃったじゃないですか。わかりやすく言うと「お金」だと思うんですけど、製品であれサービスであれ、どんなモノでも最終的には全部対価としてお金を手に入れるための行動ですよね。それは違和感も出てきますよ。

吉田田:いま確定申告の時期じゃないですか。売り上げあがったら例えば税理士さんが12月くらいに、「結構、売上あがってるからパソコンとか買った方がいいですよ」みたいなこと言うでしょ?「え、なんじゃこれ!こわこわこわ!」って。

坂本:(笑)。

吉田田:怖くないですか、これ?みんな自然に思ってるかもしれないけど、モノをそんなことのために買ってたら、なんのためにモノを作ったのかとか、なんのためにお金が生まれたのかというところを全く無視してますよね。こないだこのイベントで「物々交換アートオークション」というのをやったんですけど、普通のオークションならお客さんが作品を購入したい額を提示していって、一番高値で提示した人が落札するじゃないですか。「物々交換アートオークション」は、例えば「占いができるので占いします」とか、「料理作るのがうまいので料理します」とか。モノやコトを提示して、作家が一番気に入った内容で落札するというオークションなんです。やってみるとこれがめちゃめちゃ面白くて、お金を介さずにこんなことって成り立つんやなって。でもやってわかったことは、結局お金って便利やなってことだったんですね。価値観ってそれぞれ違うから、料理を作ると言われても、「奥さんがいるから作ってもらわなくても別にいいかな」ってなったりするんです。そうなった時に価値が変換できるお金があると、やっぱり便利やなと思うんですよね。でもお金ってそれ以上でも以下でもないはずで、その役割を果たせばいいだけなのに、それがどんどん神格化してきてるというか。マネー信仰みたいになってて、お金を持ってる人は地位が高く見られたりするじゃないですか。「それって気持ちわる!」ってみんな思ってるのかなって。僕はマネー信仰がそろそろ限界に来てるんじゃないかなと思ってるんです。

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(新感覚ストア内で別日に行われた「物々交換アートオークション」の様子)

坂本:マネー信仰ってうまいこと言ってるなと思うんですけど、僕は人間が創造したモノの中ですごく大きいものが3つあると思ってて、その1つが「時間」です。時間って本来ないものを生み出してるんですよ。少なくとも動物は時間って概念を持ってないですよね。人間が創造したから時間ってあるんですよ。つまりこれって創造物なんです。

吉田田:時計って一人で生きてたらいらないですもんね。

坂本:いらないでしょ?しかもないものをあることにしてるということなんです。これはクリエイティビティだと思ってます。
2つ目に「神」。神って目に見えないものなんですけどそれをあるという事にしている。信じるという行為によって、ないものをあるようにしてることがとてもクリエイティビティだと思ってます。あと最後のこれが1番わかりやすいんですけどやっぱり「お金」だと思うんです。
お金も概念ですよね、本来。信じてるから成立してる。紙幣も貨幣もみなさん手元にありますけど、じゃあ1万円札が等価交換で戻ってくるかというと戻ってこないわけですよ。つまり1万円札の原価は1万円じゃないって話なんですね。おそらくよくかかってても原価2、300円やと思うんです。原価2、300円のものを1万円の価値があると思って取引してるから初めてそこに価値が生まれてるわけですよね。ない価値を信じてるもの同士がやりとりしてるからこそ1万円の価値が発生している。これもクリエイティビティ、創造性ですよね。ダダさんのいうマネー信仰はこういうことも関係してくると思うんですけど、この3つを生み出したことによって、人類の特にカルチャー、文明や文化と言われるものが飛躍的に進化したわけです。その先端に我々もいてるんですけど、おそらく4つ目の創造をそろそろする時期なんじゃないかなと思ってるんです。

吉田田:坂本さんがですか?(笑)

坂本:やっていいですか?(笑)。 実は一番重要な4つ目を生み出すために大切な素養って、やっぱりクリエイティビティなんですよ。今ないものをどうやってあるようにするかって話なんです。それに一番近いのがアートの世界と思ってるんです。

つまり今会場にいろんな作品がありますけど、それらも元々なかったものを生み出してるわけです。価値がそれこそ0円になるかもしれないし、100億になるかもしれない。それはつまり価値を創造しているわけです。今お金で計っちゃってるからわかりにくいですけど、多分そういうものを創造できる力は、ビジネスにはなりにくいと思うんですよ、残念ながら。変動する価値を生み出すという事なので。でもこういうアートだったりクリエイティビティの体験の中からでしか、今ここにないものは見えてこないわけですよ。世の中でお金が払われてるすべてのものは、すでに世の中にあるものに対して対価を払ってますよね?だから今ないものを生み出す源泉って、ほぼアート以外にないような気はしますね。

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吉田田:アトリエe.f.t.をやってて、最近そういうビジネスの限界というものを感じるんです。別にめちゃくちゃ儲けてるわけじゃないので言える立場じゃないんですけど、ビジネスができることとできないことの、できないことが大事すぎる時代にきてるんじゃないかなと思ってます。ソーシャルビジネスと言われて社会問題に取り組まれてるビジネスももちろんあって、それはそれで素晴らしいと思いますが、ビジネスでは到底たどり着けないというところがあるんですね。僕らe.f.t.がやってきたことがそれに当てはまってるなと思っていて、ビジネスでできない部分がすごくあるんですよ。ビジネスってお金になることが前提だったりするから、やってもやっても今の社会のシステムだとお金にならないことはビジネスではやらない。結果、苦しんでる子たちが引きこもりのままだったりとか鬱を抱えて苦しんでる人が沢山いる。自死は20代、30代の死因の一位ですよ。
物質的にはこれだけ何もかもが行き届いてる国だけど豊かだと言えるでしょうか。しかも行き届いてるはずなのに、その中で実際に食えない人もいる。

でも、食えない人がいる時代でないことは明らかなんですよ。食べるものは山ほどあるし、着れる服もいくらでもある。住める場所もある。戦後とは違う現代が今ここにあるんですけど、実際に食べるものも無く苦しんでる人がいる。これってめちゃくちゃ問題じゃないですか。この社会問題を解決しようと思って突っ込んでいっても、儲からなければビジネスでは解決できないじゃないですか。でもそういうところを取り組む人たちが増えていかないと、結局はこの100年やってきたことって間違いだったんだなってことで終わってしまう。そんな悲しいことないじゃないですか。ずっと僕らのお父さん世代の人たちがやってきた仕事の集積が今こうやって現代を作ってて、本来幸せとか豊かというものに辿り着いてるはずなのに、「実際は違うかったね」ってなることほど悲しいことはないから、僕らがどんな引き継ぎ方をして、どんなカルチャーを作っていくべきなのかを考えないといけない。僕、40代ですけどそろそろ全体的に面白くなるようなことをしたいなと思ってます。

坂本:それは本当に次の時代のテーマだなと思ってて、さっき出た斎藤幸平さんの本なんですけど、あそこでも問題定義だけじゃなくて、斎藤さんなりの1つの回答も書いてて。いわゆるビジネス、資本主義がより大きくなりまくった結果、「その先に起こったのは分断だ」って言われてるんです。分断って何かというと、ビジネスとか経済をより大きく回そうと思うと、最終的に個別にそれぞれ分断していく方が経済って回るんですね。なぜかと言うと、例えば昭和の「じゃりン子チエ」とかのあの頃の年代って、1つの家に2世帯とか3世帯とか住んでた時代なんです。多ければ1つの家に10人くらいいるところもありました。普通は掃除機って一家に1台じゃないですか。でも10人がバラバラの部屋に暮らし出すと、掃除機って10台要りますよね。つまりそれぞれ個別に住み出すことによって必要なものって増えていくので、それがいわゆるGDPをあげてるわけです。

でも、まとまって住むなら少なくて良かったはずですよね。消費を拡張するために個別にそれぞれ暮らすようになり分断化が進んだわけです。そういうライフスタイルを是としていったわけですよね。それによって何が生まれたかというと、自分が自分自身だけで生まれてきたような感覚になってる人が増えてきたということなんです。それまで大家族として、例えば、3世代同居してた家というのはおじいちゃんがいてて、お母さんがいてて、それで自分がいる。ルーツがある程度見える暮らしをしてたわけです。でも、ポッとその場所に突然生まれたかのような、自分だけしか世の中にいてないような錯覚に陥るんですよ。そうなってきた時に延々と続く人類の系譜の中で自分だけ置いてけぼりにされたような感覚におそらくなってる人もいるんだと思うんですよね。だから自分しか存在しないように思っちゃってる。それが分断なんです。イギリスには孤独担当大臣がいて、孤独がこれから先の社会に対して一番の課題になると言われてるんですね。それに対応するための大臣がイギリスにはいる。それくらいくらい大きな社会課題なんです。
つまり資本主義が先鋭化した先に待ってたのは、実は“孤独”だったという話なんです。

第2回終わり

※第3回の記事はこちらから



【登壇者】

坂本大祐・・・クリエイティブディレクター

人口1700人の奈良県東吉野村に2006年に移住。2015年 国、県、村との合同事業、シェアとコワーキングの施設「オフィスキャンプ東吉野」を企画。その後、建築デザインを行い、運営も受託。開業後、同施設で出会った利用者仲間と山村のデザインファーム「合同会社オフィスキャンプ」を設立。奈良県はもとより、日本全国のデザインや企画をひき受けている。また2018年、同じようなローカルエリアのコワーキング運営者と共に「一般社団法人ローカルコワークアソシエーション」を設立。全国のローカルでコワーキング施設の開業をサポートしている。


吉田田タカシ・・・教育者、芸術家、デザイナー、ミュージシャン、猟師

・「つくるを通していきるを学ぶ」アートスクール 【アトリエe.f.t. 】主宰。(4歳から大人まで約200名の生徒にワークショップを中心とした創造的な学習環境を提供。)
・放課後等デイサービス【bamboo】を手掛ける、「株式会社たのしいにいのちがけ」代表取締役。(発達障害と呼ばれる、こども達の型破りな才能を見出し伸ばすスクール。)
・スカバンド【DOBERMAN】ボーカル担当。(国内外問わず、様々なライブツアーやフジロックなどのフェスに出演。2020年にリリースした、木梨憲武との共作「ホネまでヨロシク」にて作詞を担当。)
・デザイン(紙ものやWEBデザインから住宅、店舗などの空間デザインまで。)
・大学講師

趣味は登山、薪割り、保存食、発酵、ジビエなど。
座右の銘は、「たのしいにいのちがけ」。


テキスト:新 拓也(ピクセルグラム/ブランディングデザイナー)

撮影:岩本真由子(フォトグラファー)




100人100通りの人生に取説は無い! 自分だけの地図を描くチカラを身につける。 「つくるを通して生きるを学ぶ」アトリエe.f.t.です。 応援ありがとうございます!!