人生の豊かさと言葉の教育
原題:(無題)
初出:Facebook(近況),2016年10月3日,走り書き
「人生の意味は何か」ではなくて,人生に深い意味を与えて生きることができた者が勝ちなのだと思う。そして人生に深い意味を与えるものは,深い経験と,その経験の深さを魂に刻むための言葉とである。この2つのうち,少なくとも後者は教えうるものである。だから,人生の深い意味をとらえるような豊かな言葉を生み出したり研究したり教えたりする仕事は,ほかの人の人生を豊かにすることに最も貢献する仕事の一つであるといえるだろう。宗教・哲学・文学・芸術を生み出したり研究したり教えたりする者は,最もわかりやすい形でその仕事をする者である(ところで,そういうわけで,文学部を衰えさせるというのは,人々の人生を貧しくすることに最もわかりやすい形で貢献する動きであるといえるだろう)が,そういうわかりやすい形でなくとも,人は自分固有の経験から,あくまで言葉に対する誠実さを失わない限りであるが,誰もがかけがえのない言葉を刻むことができる。そして,専門家の場合と違ってその言葉は世の中全体には届かなくとも,少なくとも近しい人々の人生を豊かにするのである。だから言葉(芸術を含む)の教育だけは絶対おろそかにするな,家族に,友に,恋人に,あるいはたまたま接する機会のあった人に,その人の最高の言葉を贈ることが誰にでもできるように,そうしてどこでも人が互いに人生を豊かにしあうことができるように,皆が深い意味を持って人生を生きることができるように,言葉の教育だけは絶対おろそかにするな。
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