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マイクロソフト戦略転換の研究

こんにちは、広瀬です。マイクロソフトのことは皆さんご存知ですよね? 皆さんが日々使用しているパソコンのWindows OSや、Word、Excel等を開発している世界的なソフトウェア会社です。皆さんはこの会社、どのような印象をお持ちでしょうか? 超有名な会社、名前は聞いたことがある、転職したい会社、ソフトウェア製品のライセンス販売で巨額の利益を上げている会社、などなど様々な印象をお持ちだと思います。いずれにしても、GAFAMのMの会社なので、きっと儲かっている優良企業だろうと、多くの方は想像するのではないでしょうか。

しかし、2010年頃にクラウドコンピューティングが急速に普及し始めた頃は、マイクロソフトの経営は必ずしも順風満帆ではありませんでした。2000年代初頭には、WindowsとOffice製品が市場を席巻し、莫大な収益を上げていましたが、2010年代に入ると、アップルのiPhoneをはじめとするモバイルデバイスの台頭や、グーグルのクラウドサービスの躍進により、その牙城が揺らぎ始めました。

特に、クラウドコンピューティングの分野では、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)が先行しており、マイクロソフトは大きく水をあけられていました。また、モバイル市場でも、Windows PhoneはAndroidやiOSに太刀打ちできず、苦戦を強いられていました。

このような状況下で、マイクロソフトの株価は低迷し、投資家からは成長戦略の欠如を厳しく指摘されるようになりました。社内でも、官僚主義的な組織文化や、新しい技術への対応の遅れが問題視され、閉塞感が漂っていました。

このような危機的状況を打開するため、2014年にCEOに就任したサティア・ナデラ氏は、大胆な戦略転換を断行しました。「モバイルファースト、クラウドファースト」をスローガンに掲げ、クラウドサービスの強化や、オープンソースソフトウェアとの連携を推進しました。さらに、硬直化した社内文化の改革にも取り組み、「成長思考」を重視する文化を醸成することで、新たな時代への適応を目指しました。

今回は、Harvard Business Reviewのポッドキャスト「Microsoft: A Case Study in Strategy Transformation」を題材に、マイクロソフトが2015年に直面した危機と、それを乗り越えるための戦略転換について解説します。特に、従来のWindowsやOffice製品のライセンス販売中心のビジネスモデルから、クラウドコンピューティングを中核としたサブスクリプション・モデルへの転換、オープンソースへの積極的な取り組み、そして企業文化の変革という3つの主要な要素に焦点を当て、これらの変革がどのようにマイクロソフトの復活を支えたのかを明らかにします。

さらに、日本企業がマイクロソフトの事例からどのような教訓を学び、自社の戦略転換に活かせるのかについても考察を加えます。市場環境の変化が激しい現代において、企業が生き残り、成長を続けるためには、絶え間ない変革が求められます。マイクロソフトの事例は、そのための貴重なヒントを提供してくれるでしょう。そして、この事例は「両利きの経営」の好例としても知られており、どのようにして既存事業と新規事業を両立させ、成功に導いたのかについても解説します。


ポッドキャスト概要

2015年初頭、マイクロソフトは成長鈍化に直面し、利益率向上か成長拡大かの岐路に立たされていた。CEOのサティア・ナデラ氏とCFOのエイミー・フッド氏は、成長を追求する決断を下し、社内外の変革を主導した。
当時、マイクロソフトの従業員数は約13万人であった。

社内改革

  • 文化の転換
    CEOナデラ氏は「成長思考」を重視する文化を提唱し、従来の競争的でリスク回避的な文化からの脱却を図った。社員が自由にアイデアを出し合い、革新的な取り組みを奨励する環境を構築した。

  • 組織再編
    部門間の連携を強化し、意思決定プロセスを効率化。成長を促進する新たな指標を導入し、社員の評価基準も変更した。

体外戦略

  • 投資家への説明
    CFOフッド氏は、成長戦略に伴う短期的な利益率低下を説明し、長期的な成長の可能性を提示。クラウド事業の年間売上高200億ドルという目標を設定し、投資家の理解と支持を得ることに成功した。

  • 人材獲得
    開放的で革新的な企業文化をアピールし、優秀な人材を引きつけた。

結果

マイクロソフトは、CEOナデラ氏とCFOフッド氏のリーダーシップの下、これらの変革を通じて、クラウド事業を中心に成長を加速させ、株価も20ドル台から2018年7月には100ドルを超えるまでに大幅に上昇した。この成功は、大胆な決断と、それを支える組織文化の変革、そして投資家とのコミュニケーション戦略が奏功した結果と言える。

変革のポイント

  • 成長鈍化に直面したマイクロソフトが、利益率向上か成長拡大かの選択を迫られた。

  • CEOナデラ氏とCFOフッド氏は、成長を追求する決断を下し、社内外の変革を主導。

  • CEOナデラ氏は「成長思考」の文化を提唱し、CFOフッド氏は投資家とのコミュニケーションを主導。

  • 社内文化の転換、組織再編、投資家への説明、人材獲得戦略など、多岐にわたる改革を実施。

  • クラウド事業を中心に成長を加速させ、株価も20ドル台から100ドル超に上昇。

  • 大胆な決断、組織文化の変革、投資家とのコミュニケーション戦略、そしてリーダーシップが成功の鍵となった。

成長鈍化からの脱却

マイクロソフトは、PC市場の成熟化とモバイルシフトの波に乗り遅れ、2010年代初頭には成長の停滞に直面していました。WindowsとOffice製品のライセンス販売という従来のビジネスモデルは、もはや持続的な成長を保証するものではありませんでした。しかし、2014年にCEOに就任したサティア・ナデラ氏は、この状況を打破すべく、大胆な戦略転換を断行しました。それは、クラウドコンピューティングを中核とした新たなビジネスモデルへの転換でした。

変革の柱

1.クラウドファースト戦略への転換とモバイルへの対応

従来のWindowsやOffice製品のライセンス販売中心のビジネスモデルから、クラウドコンピューティングを中核としたサブスクリプション・モデルへと大きく舵を切りました。Azureクラウドプラットフォームを強化し、Office 365などのクラウドサービスを拡充すると同時に、モバイル市場にも対応するためiOSやAndroid向けのアプリ開発に注力しました。これにより、安定的な収益源を確保しつつ、新たな成長市場を獲得し、多様なデバイスに対応したサービスを提供できるようになりました。

2.オープンソースへの積極的参加

過去には消極的だったオープンソースコミュニティとの連携を強化しました。Linuxとの連携や.NET Frameworkのオープンソース化などを行い、開発者からの支持を獲得し、エコシステムを拡大することで、より多くのユーザーにマイクロソフトの技術を利用してもらう機会を創出しました。

3.企業文化の変革

従来の競争的で閉鎖的な文化から、コラボレーションとオープン性を重視する文化へと変革しました。社員の多様性を尊重し、イノベーションを促進する環境を整備することで、組織全体の活性化を図り、新しい時代に対応できる組織へと生まれ変わりました。

これらの変革により、マイクロソフトはクラウド市場でリーダーシップを確立し、株価も大幅に上昇しました。この成功は、適切な戦略立案と実行、リーダーシップ、そして企業文化の変革がいかに重要であるかを示す好例です。

日本企業に与える示唆

マイクロソフトの変革は、日本企業にとっても多くの示唆に富んでいます。特に、既存のビジネスモデルからの脱却や、新たな成長領域への進出に課題を抱える企業にとっては、貴重な教訓となるでしょう。以下に、企業規模別に具体的な示唆をまとめます。

大企業

  • 既存事業の深化と新事業の探索の両立(両利きの経営)
    マイクロソフトは、WindowsやOfficeといった既存事業を深化させつつ、クラウドサービスという新事業を探索することで、持続的な成長を実現しました。日本企業も、既存事業の強みを活かしながら、新たな成長領域への投資を積極的に行うことが重要です。

  • 組織文化の変革
    マイクロソフトは、官僚主義的な組織文化から「成長思考」を重視する文化へと転換しました。日本企業も、変化を恐れず、新しい技術やアイデアを受け入れる風土を醸成する必要があります。

  • リーダーシップ
    CEOナデラ氏のリーダーシップは、マイクロソフトの変革を成功に導く上で不可欠でした。日本企業も、変革を牽引する経営トップが強力なリーダーシップを確立することが重要です。

中堅企業

  • デジタル変革の推進
    マイクロソフトは、クラウドコンピューティングへの移行をいち早く進め、デジタル変革を成功させました。中堅企業も、デジタル技術を活用してビジネスモデルを変革し、競争力を強化する必要があります。

  • オープンイノベーション
    マイクロソフトは、オープンソースソフトウェアとの連携を積極的に行い、技術革新を加速させました。中堅企業も、社外の技術やアイデアを取り込むオープンイノベーションを推進することが重要です。

  • 顧客中心主義
    マイクロソフトは、顧客のニーズを的確に捉え、それに応える製品やサービスを提供することで、顧客との信頼関係を構築しました。中堅企業も、顧客中心主義を徹底し、顧客満足度を高めることが重要です。

スタートアップ企業

  • エコシステムの構築
    マイクロソフトは、クラウドサービスを中心に、パートナー企業とのエコシステムを構築することで、事業を拡大しました。スタートアップ企業も、自社だけで全てを賄おうとするのではなく、パートナー企業との連携を通じて事業を成長させることが重要です。

  • プラットフォーム戦略
    マイクロソフトは、WindowsやAzureといったプラットフォームを提供することで、多くの開発者や企業を引きつけ、エコシステムを拡大しました。スタートアップ企業も、自社の製品やサービスをプラットフォーム化することで、新たなビジネスチャンスを生み出すことができます。

  • グローバル展開
    マイクロソフトは、クラウドサービスを世界中に展開し、グローバル企業としての地位を確立しました。スタートアップ企業も、早い段階からグローバル市場を視野に入れ、事業を展開することが重要です。

これらの示唆は、あくまでマイクロソフトの事例から得られた教訓であり、全ての日本企業に当てはまるわけではありません。しかし、各企業が自社の状況に合わせてこれらの示唆を参考にすれば、変革を成功させるためのヒントを得ることができるでしょう。

「両利きの経営」成功要因と今後の展望

マイクロソフトの劇的な復活劇は、既存事業と新規事業の両立を図る「両利きの経営」の成功事例として注目されています。WindowsやOfficeといった盤石な既存事業で安定的な収益を確保しつつ、クラウドサービスという新たな領域で成長を加速させるという、一見相反する目標をどのように達成したのでしょうか。最後に、マイクロソフトの戦略転換を「両利きの経営」の視点から分析し、その成功要因と今後の展望を探ります。

成功要因

既存事業と新規事業のシナジー創出
マイクロソフトの戦略転換成功のもう一つの鍵は、「両利きの経営」の実践にあります。これは、既存事業で収益を確保しつつ、同時に新規事業を育成するという経営手法です。マイクロソフトは、WindowsやOfficeといった既存事業で得た収益を、クラウドサービスという新規事業の開発・拡大に投資することで、両者のシナジー効果を生み出しました。

具体的には、既存のOffice製品のノウハウを活かしてクラウドベースのOffice 365を開発し、Windows Serverの技術を応用してAzureを構築しました。これにより、既存顧客の囲い込みと新規顧客の獲得を同時に実現し、クラウド市場での競争力を強化しました。

また、CEOナデラ氏は「One Microsoft」というビジョンを掲げ、社内の組織文化を改革しました。部門間の連携を強化し、既存事業と新規事業の連携を促進することで、両利きの経営を円滑に進める体制を構築したと考えられます。

今後の展開すべき方向性

エコシステムの拡大とAIの活用
マイクロソフトは、クラウドサービスを中心に、パートナー企業とのエコシステムを拡大することで、さらなる成長を目指しています。Azure上で様々なアプリケーションやサービスを提供するパートナー企業を増やし、クラウド市場でのプレゼンスをさらに高める戦略です。

また、近年ではAI技術の活用にも注力しています。OpenAIとの提携により、Azure上でCopilotなどの生成AIサービスを提供し、新たな顧客層の開拓と収益源の創出を目指しています。

さらに、メタバースや量子コンピューティングといった次世代技術への投資も積極的に行っています。これらの技術は、まだ発展途上ではありますが、将来の成長を牽引する可能性を秘めています。

まとめ

マイクロソフトの事例は、既存事業の安定と新規事業の成長を両立させることの重要性を示しています。日本企業も、マイクロソフトの戦略転換から学び、自社の強みを活かしながら、新たな成長領域への投資を積極的に行うことで、持続的な成長を実現できるのではないでしょうか。変化の激しい現代において、企業が生き残り、成長を続けるためには、「両利きの経営」という考え方がますます重要になるでしょう。

いかがでしたでしょうか? この解説が、日本企業のリーダーたち、そして未来を担う皆様の変革への一歩を後押しするものになれば幸いです。




付録:ポッドキャストの全訳

登場人物
1.ハンナ・ベイツ:アシスタント
2.ブライアン・ケニー:司会、インタビュアー
3.フリッツ・フォーリー:ハーバード・ビジネス・スクール教授

ハンナ・ベイツ:Harvard Business Review On Strategyへようこそ。ここでは、ビジネスの新しい方法を発見するのに役立つ、世界トップクラスのビジネスおよびマネジメントの専門家による選りすぐりのケーススタディと対談をお届けします。

2015年初頭、マイクロソフトの経営陣は困難な決断に直面していました。同社は、競合他社と同じペースでイノベーションを起こし、成長することに苦戦していました。現在、永久ライセンスからサブスクリプション販売に重点を移すなど、高成長ではあるものの低利益率をもたらす新たな機会を検討していました。

本日は、ハーバード・ビジネス・スクールのフリッツ・フォーリー教授との対談をお届けします。フォーリー教授は、自身が執筆したビジネスケーススタディのために、マイクロソフトにおけるこの変革期について研究しました。このエピソードでは、マイクロソフトのリーダーたちがどのように様々な選択肢を分析し、投資家と従業員の両方を異なる成長の考え方に納得させたのかを知ることができます。また、このような大規模な変革を実行するために、同社のリスク回避的な文化がどのように進化しなければならなかったのかについても学びます。

このエピソードは、2018年7月にCold Callで初めて放送されました。どうぞお聞きください。

ブライアン・ケニー:1970年代の電子機器愛好家は、毎年1月号のPopular Electronics誌を楽しみに待っていました。それは、最新かつ最もクールな電子機器が特集されることで知られていたからです。そして、1975年1月号が発売されたとき、それは期待を裏切りませんでした。表紙には、世界初のミニコンピュータキットであるAltair 8,800の最初の画像が掲載されていました。世界中に轟くような出来事ではなかったかもしれませんが、多くの人が、それがホームコンピュータ革命の火付け役になったと言います。まさにその雑誌が、若きポール・アレンとビル・ゲイツに、コンピュータへの情熱をビジネスに変え、その後帝国となるきっかけを与えたのです。

今日、マイクロソフト社は、世界で3番目に価値のある企業であり、世界最大のソフトウェア企業です。しかし、40年間にわたり、自らが作り上げた業界の逆風にさらされてきたMicrosoftは、岐路に立たされており、今後の道筋は必ずしも明確ではありません。今日は、フォーリー教授に「The Transformation of Microsoft(マイクロソフトの変革)」というケースについてお話を伺います。私は司会のブライアン・ケニーです。Cold Callをお聴きいただきありがとうございます。

フリッツ・フォーリー教授の研究は、コーポレートファイナンスに焦点を当てています。彼は、投資資本構造、運転資本管理、および関連する幅広いトピックの専門家であり、今日のケースにもおそらく関係してくるでしょう。フリッツさん、参加していただきありがとうございます。

フリッツ・フォーリー:お招きいただきありがとうございます。

ブライアン・ケニー:誰もがマイクロソフトを知っていますが、テクノロジー業界とその先の風景において非常に重要なこの企業が、歴史の転換点でどのような状況にあったのかを垣間見ることができると、人々はとても興味を持つと思います。このケースについて、マイクロソフトのCFOであるエイミー・フッドが主人公です。彼女は、私がハーバード・ビジネス・スクールの博士課程にいた時に学生でもありました。彼女はある選択に直面しています。それは、マイクロソフトが利益率の向上を目指すのか、それとも成長の拡大を目指すのかというものです。

ブライアン・ケニー:ケースを書こうと思ったきっかけは何ですか?エイミーさんとのつながりはもちろんですが、なぜマイクロソフトで、なぜ今なのでしょうか?

フリッツ・フォーリー:彼らが現在進行中の変革に衝撃を受けたからです。2000年代初頭には、株価は20ドルから30ドルの範囲で停滞していました。企業を本質的に現金分配と利益率向上のためだけに経営すべきだと主張するグループもいました。同時に、マイクロソフトはいくつかの成長機会にも直面していました。つまり、どちらの方向に向かうかという真の選択があったのです。多くの企業が直面するこの選択は、CFOについて私が教えるコースで強調するのに強力な例になると思いました。

ブライアン・ケニー:マイクロソフトは、この舞台で最初のプレーヤーでしたが、その後アップルが登場し、多くの人がこの2社を熾烈な競争相手と見ています。この2社が財務戦略をどのように管理しているかについて、違いを説明してもらえますか?

フリッツ・フォーリー:あるレベルでは、確かに両社は似ています。どちらもテクノロジー分野に属しており、マイクロソフトが特に携帯電話に魅力を感じていたことは、アップルが得意とする分野です。しかし、このケースの時点では、投資家の目には両社はかなり異なって映っていたと思います。投資家は、アップルにはまだ多くの成長の余地があり、新しい製品を革新し、人々がまだ気づいていない問題を解決することに注力していると見ていました。一方、マイクロソフトは、一部の人から見れば過去の遺物ではないにしても、将来のイノベーションを考える上ではあまり重要ではない、より古く、より確立された技術系企業とみなされていました。ある意味、このケースは、マイクロソフトがそのような見方を払拭し、再び成長志向の企業になろうとした経緯についてです。

ブライアン・ケニー:マイクロソフトは何十年にもわたり、イノベーションのスピードが遅く、自社の規模と官僚主義に囚われていると批判されてきました。IBMも同様の批判に直面した企業と言えるかもしれません。2012年のマイクロソフトのビジネスはどのようなものでしたか?それが転換点の始まりだったように思えますが。

フリッツ・フォーリー:部門によって業績はまちまちでした。同社が多額の現金保有高を抱えていたため、バリューアクティビスト投資家からの関心もありました。Office製品群とWindowsの市場シェアは非常に高く、様々なユーザーにこれらの製品を提供し続けることに明らかに成功していました。クラウドビジネスは新興でしたが、この分野で勝てるかどうかは不明瞭で、他の分野では苦戦していました。

検索エンジンBingは、Googleに対して牽引力を得ることができませんでした。携帯電話事業は2012年に苦戦しており、ノキアを買収して巻き返しを図ろうとしましたが、その後も期待したような成果は得られませんでした。このように、マイクロソフトは様々な側面で、新しい分野での足場を築こうと懸命に努力していました。しかし、一部の投資家たちは、それはマイクロソフトがすべきことではないと感じていました。OfficeとWindowsに集中し、オンプレミスサーバーとツールビジネスの提供に伴う高い利益率を楽しむべきだと考えていたのです。そのため、マイクロソフトは非常に難しい選択に直面していました。

ブライアン・ケニー:組織自体もいくつかの問題を抱えていたと思いますが、当時、文化的にどのようなことに直面していましたか?

フリッツ・フォーリー:文化的な観点からは興味深い話です。当時は、自分が一番賢い人間だと示すことに高い見返りがある環境でした。私が聞いた話の中には、少し耳障りなものもありました。私ならこの環境では生き残れなかったかもしれません。信じられないほど厳しい、非常に長い中間レビューがありました。効率性と正確さを重視する文化になりつつありました。公平を期すために言うと、マイクロソフトは、失敗することが許されない製品を販売しているという文化から来ていました。人々は、マイクロソフトが提供するすべての製品に非常に高い期待を持っていました。オンラインアップデートで修正できる余地が大きい今日とは異なり、当時のソフトウェアは出荷時にほぼ完璧でなければなりませんでした。

ブライアン・ケニー:新しいWindowsシステムの発売が、新しいiPhoneの発売に似ていた時代を思い出します。人々は新しいシステムを手に入れることに興奮していましたが、必然的にバグがあり、それらが大きく報道され、多くの批判を浴びました。彼らは長い間、顕微鏡の下で活動していたようなものです。

フリッツ・フォーリー:その通りです。製品の故障までの時間、つまり製品やプロセスが故障するまでの時間を測る指標は、非常に長くなくてはなりませんでした。そうでなければ、顧客の不満に直面することになります。

ブライアン・ケニー:では、マイクロソフトの変革期に移りましょう。組織の変更や再編という点で、彼らが行った根本的な変化は何でしたか?

フリッツ・フォーリー:私の見解では、彼らはより成長志向になるために様々なことをしました。その中には、指標に関するもの、文化への明確な変更、そして、成長を追求することが、利益率を高めて株主に多額の配当金を支払うよりも、はるかに価値を高めるという認識もありました。2012年、2013年頃から、この変化の兆しが見え始めました。また、当時、経営陣にも大きな変化がありました。スティーブ・バルマーが退任し、新しいCEOを選ばなければならなかったのです。そこで、サティア・ナデラを選んだことで、実質的にマイクロソフトはより成長路線にコミットすることになりました。

ブライアン・ケニー:利益率の道を選んだ会社の例を挙げられますか?どちらも成功する可能性のある選択肢ですが。

フリッツ・フォーリー:もちろんです。それは非常に難しいトレードオフです。MBAの学生やエグゼクティブ教育の学生に、「成長のために利益率を犠牲にしますか?」と尋ねると、その質問の難しさと、多くの人がそれに対する直感を持っていないことにいつも驚かされます。他の企業は利益率の道を選びました。

ブライアン・ケニー:利益率の選択はより快適で、リターンも早く得られるが、成長の選択は少しリスクが高く、リスク回避的な文化にとっては実行が難しく、未来への賭けになる、というのが根本的な選択なのでしょうか?

フリッツ・フォーリー:その通りです。多くの人は、コスト削減や効率化によるメリットを理解しやすく、成長に伴うものが不確実であることを懸念します。ある意味では、上級財務管理者が、成長を追求するための許可を得る必要があったという話を聞いたことがあります。経営陣が成長を追求する能力があると感じる投資家グループから賛同を得なければならないのです。

ブライアン・ケニー:従業員数約13万人を抱える巨大企業マイクロソフトが、組織文化に反する選択肢を追求しようとしています。どのようにしてそのような変化を、これほど大規模な組織に浸透させるのでしょうか?

フリッツ・フォーリー:文化面では、「成長思考」の文化を明確に取り入れたことが挙げられます。サティア・ナデラ氏は、近著『Hit Refresh』でこのことについて書いています。組織の文化を変えるのは非常に難しいことです。私がこれまで所属した組織で文化を変えようとしたとき、どんなキャッチフレーズもすぐに社内ジョークのネタになってしまいました。

ブライアン・ケニー:私はいつもそのジョークを作る側の人間です。

フリッツ・フォーリー:この難しさはあなたもご存知でしょう。マイクロソフトは、同社の一部門を率いていたキャサリーン・ホーガン氏を起用し、この文化変革を説明し、展開する責任を担わせたのは賢明だったと思います。マイクロソフトで働いていた多くの人は、革新的なエンジニアや非常に創造的な社員で、成長を追求したいと考えていました。彼らにレビュープロセスから離れる選択肢を与え、会議で必ずしも正しくある必要はなく、新しい何かを生み出す可能性のある議論のきっかけとなるアイデアを自由に出し合えるようにしたところ、人々はその変化を受け入れました。

ブライアン・ケニー:ミレニアル世代は、古いマイクロソフトでは働きたくないでしょう。マイクロソフトは、グーグルやアップルなど、開放的で革新的だと認識されている企業と競合しており、エネルギーとアイデアを持った人材を求めています。ですから、マイクロソフトも同じような個性を採用する必要があるのでしょう。

フリッツ・フォーリー:その通りだと思います。少なくとも私の学生の間では、マイクロソフトに対する新たな期待感があります。そこで働くことの意味や、真に斬新で人々の働き方に大きな影響を与えるようなことをする機会があることに、彼らは非常に興味を持っています。

ブライアン・ケニー:主人公のエイミー・フッドに戻りましょう。ケースでは、彼女の考え方が少し掘り下げられています。彼女は、これらの変化を金融界に伝える準備をしています。CFOはどのようなことを考えなければならないのでしょうか?金融界は、成長よりも利益率の選択の方を好むと思います。

フリッツ・フォーリー:もちろんです。彼女が「成長の道を行くことはできるが、もしそうすれば、投資家に対して、利益率はしばらくの間低下するだろう、あなたはそれを好まないだろう、しかし、上昇する可能性があり、それが現れるには時間がかかるだろう」と言わなければならないという選択に直面しているところを想像するのは楽しいですね。ですから、彼女はその上昇がどのようなもので、どれほどの規模になるのかを投資家に伝え、信頼を失わず、本質的に成長を追求する許可を得る方法を見つけ出す必要がありました。

ブライアン・ケニー:金融界では、短期的な利益を重視し、人々はすぐにリターンを求める傾向があります。あなたの経験では、金融界に変化は見られますか?アナリストは、「常に利益率を追求するのではなく、長期的な持続可能な成長を見つけなければならない」という考え方に、もう少し慣れ始めていますか?

フリッツ・フォーリー:それは素晴らしい質問です。それは私を悩ませるものであり、金融システム全般について考えるものです。短期志向、あるいは金融市場がそれほど短期志向ではないという点では、私は多くの人よりも楽観的かもしれません。上級財務チームには、長期的に考え、成長機会を受け入れることでどのように価値が創造されるかを説明する大きな責任があると思います。ある意味では、エイミーがマイクロソフトで行ってきたことを見ると、彼女と彼女のチームがその挑戦を引き受けたことに拍手を送りたいと思います。彼らは、商用クラウド事業の年間売上高200億ドルという目標を明確に設定し、アナリストがその数字を把握すると、それを基に、マイクロソフトがこの目標を達成した場合にどれだけの価値が創造されるかを感じることができるようになりました。

したがって、その道にコミットする勇気を持ち、アナリストがその道の意味を理解するのを助けることで、マイクロソフトはそれを追求することに成功したと思います。一般的に、一部のアナリストは、単に1株当たり利益の数字を取り、現在の倍率を適用し、将来がどうなるかをあまり考えないことを懸念しています。成長機会が存在し、魅力的である場合、財務チームと組織が、アナリストが将来についてどのように考えるべきかを教育する役割を果たしてくれることを願っています。

ブライアン・ケニー:先ほど、授業でこのことについて話したと仰っていましたが、MBAの学生と、すでに組織で信託的な役割を担っているエグゼクティブ教育の学生とでは、この問題へのアプローチに違いがありますか?

フリッツ・フォーリー:興味深い質問ですね。少し考えてみましょう。アプローチは、かなり似ていると思います。MBAの学生の中には、資本市場が経営陣に成長を追求する上で課す制約をあまり意識していない人がいるかもしれません。彼らは、今すぐ現金が欲しいと考えるアクティビストが経営陣にどのような圧力をかけるかについてあまり知りませんが、エグゼクティブ教育の学生はそのような圧力を痛感する傾向があります。どちらかと言えば、MBAの学生は、2012年、2013年にマイクロソフトが利益率を追求するケースを明確に説明するのが少し難しいと感じています。多くのエグゼクティブ教育の学生は、戦略的、財務的に、あるいはリーダーシップを選ぶ上で何ができるかについて、すぐにリストアップすることができます。

ブライアン・ケニー:興味深いですね。組織で一定期間働いたことのある人なら誰でも、文化を変えるのがいかに難しいかという話に戻りますが、その道を選ばない理由を考えるのは簡単です。だから、エグゼクティブ教育の学生の中には、すでにそのような制約を身にまとってやってくる人もいるのではないかと考えたのです。

フリッツ・フォーリー:そうですね、私もそう思います。

ブライアン・ケニー:本日はありがとうございました。

フリッツ・フォーリー:こちらこそ、ありがとうございました。


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