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宇宙兄弟44巻、正直しんどい。

宇宙兄弟の最新刊が出た。紙で買っている最後の本である。正直、早く終わってくれないか、と思いながら買っている。もう44巻だぜ。もっとタイトにまとめてくれよ。

主人公が宇宙飛行士になるまでの苦難を描いた5巻くらいは最高に面白かった。宇宙飛行士になってからのアメリカで地道に訓練を続ける10巻あたりは次に面白かった。その後、無理やり苦難を挟み込み、それを乗り越えてクサい名言で締め、新たな苦難を用意しては乗り越えてクサい名言で締める、という展開に飽き飽きし、これはクサいセリフを用意してそこに着陸する漫画なのではないかとさえ思った。でも、それなりに面白いからなんとか買い続けられたわけだが。

買い続けてよかった、と報われる瞬間もあった。とくに30巻の エディ&ブライアン人形が月面に並べられたシーンは屈指の名場面だ。

エディ&ブライアンは兄弟で、宇宙飛行士を目指し、宇宙飛行士ごっこを普段からしていたが、マジで二人とも宇宙飛行士になった。だが、弟ブライアンが月面からの帰還でパラシュートが開かず事故死。数年度、兄ブライアンは引退を考える年だったが、弟とともに月に立つという約束を叶えようと月に行く。

弟とともに月に立つ。それはもうできない。でも、弟ブライアンは、月面に昔兄弟が買ってもらった宇宙飛行士人形を置いてったんだな。月面についた兄エディは、弟の人形の横に自分の人形を置く。そして、つぶやくわけだ。「ブライアン、待たせたな」と。

ついに人形がふたつ並んだ。でも、本当の名シーンはこの後だ。兄エディは、ここでヒューストンの管制との通信を切る。そして、人形を前に、弟と宇宙飛行士ごっこしていたときによく言っていた、兄弟ふたりだけが知っているセリフを言う。

「ヒューストン こちらエディ&ブライアン
 ここから…地球が見えます
 俺たちの目のように青いです」


通信は切れている。誰にも聞こえない言葉。でも、ふたりだけに通じる言葉。ここには、宇宙飛行士ではなく、兄弟の時間が流れている。

「宇宙兄弟」というタイトルにふさわしい名シーンだが、脇役の名シーンで終わるわけにいかないから、まだまだ物語は続く。場面は再び、主人公の兄弟に戻り、また新たな苦難が用意され、またクサい名言で締める連続がはじまる。面白いから読んでるのか、惰性で読んでいるのか、意地になって読んでるのか、おれにはもうわからん。

「宇宙飛行士を目指す」という初期は取材可能なドキュメンタリータッチだったけど、「月面で生活し、船外活動をする」後期は、データから想像を駆使して描くSFになってしまった。だから、用意される「苦難」がどうにも無理やり作り出した過剰な演出に見えてしまう。そんな間違え起こすかね、そんな事故起きるかね、じゃあまだ月面に行くべきじゃないんじゃないの、人体実験じゃん、という意地悪な目で見てしまう。

だが、44巻である。ここまで買っておいて、主人公を見捨てるわけにはいかない。どれだけつまらなくても最後まで結末を見届けるつもりである。どれだけクサい台詞も甘んじて受け入れる覚悟がある。こち亀を買い続けた人、ワンピースを買い続けている人の地獄に比べたらなんでもない。

さて、きょうの音楽は、ソウルドアウト「COZMIC TRAVEL」。2007年に打ち上げられた月周回衛星「かぐや(SELENE)」の公式サポートソングである。奇しくも宇宙兄弟の連載がはじまったのも2007年である。もう16年目か、、、長すぎだろうが。


宇宙空間では、外から力が働かないかぎり、物体は等速直線運動を続ける。これを、慣性の法則という。だれか止めてくれるまで、おれは宇宙兄弟を最終巻まで買い続ける。これを、惰性の法則という。

次の45巻で完結してください。もう勘弁してください。お願いしますから。


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