都内から郊外へ向かう地下鉄直通の路線。 平日の昼間だが、コロナが開けてからこんなに空いているのは珍しい。 ドア左脇に席に座り、しばしスマホをいじっていた。 電車が地上に出て、ふと顔を上げると、ドアの右脇に立っている若い女性が目に入った。 スマホで動画でも観ているのか、はたまたメールでも読んでいるのか。 ふいに、彼女の両目から涙がスーッと流れ落ち、マスクの中に消える。 一呼吸おいて、またスーッと。 何故か、目が離せない。気づかれないようについ見てしまう。 彼女もこちら
「寝起きや寝入りばなだけではないのですね」 「はい。昼間起きているときにも見ます」 「実際に起きいないという自覚もあるんですよね」 「はい」 「睡眠と覚醒の移行時のみですと睡眠関連幻覚の疑いがあるのですが、日中も見るとなると統合失調症の疑いも出てきます。しかし、実在の現象ではない自覚があると診断が難しいですね。」 最初にその幻覚を見たのは1995年の1月。朝、神棚の水を取り替えている時。 昼寝をしていると祖母の呻き声で目を覚ます。 「おばちゃんどうしたの」 「割れそう
呟怖朗読王2023 朗読用に投稿した呟怖 道野草太さんが朗読してくださいました。 ありがとうございます。 記念にここに残しておきます。
2022年末、5年間に渡った営業のK著『闇塗怪談』シリーズが全10巻を以って完結した。 『闇塗怪談』シリーズは、著者自身若しくは寄せられた体験談がベースになっているいわゆる実話怪談のために怪異自体は恐ろしく、不気味な話である。しかし、シリーズの意図、著者のどこか優しさを感じる筆致のために怖さの中に何処か救いのある作品が多かったような印象であった。 『闇塗怪談』シリーズ完結より半年、2023年6月末。 営業のKファン待望の新シリーズ『怪談禁事録』が刊行された。 著者があとがき
これは以前、俺がラブホテルでバイトをしていた時の話だ。 ご存知のようにラブホテルの利用目的は、男女の秘め事がほとんどである。だから従業員は、お客様の目につかないように仕事をする。基本的に従業員は、エレベーターの使用は禁止。退入室の多い時間帯は、何度も階段を昇り降りすることになる。 俺の務めていたラブホテルでは、効率よく清掃作業をするために、休息から宿泊に切り替わる午前0時前などは、階段の踊り場で待機していることが多い。 その日も4階の踊り場で待機していると、階段を駆
セラピストの絵里子さんが同僚と焼肉を食べに行った時のこと。 上ロースの中に異様な肉片が混じっていた。 絵里子さんが店員を呼びクレームをつけると、店員は「お客様、これは大変貴重な猿の手です。これを食べると3つの願いが叶います。お客様があまりにも美しいのでサービス致しました」と厭な笑顔で立ち去った。 絵里子さんは、店員の異様な雰囲気に気おされてそれ以上は何も言えずに固まってしまった。 するとそれを見ていた同僚の麻衣さんが「絵里子、食べると願いが叶うんだって、食べてみましょうよ」と
口コミサイトのオフ会で、シュンさんという男性と再会した。 連休になると温泉へ行き、地元の美味い店を探すのが趣味という男だ。その日も温泉地のグルメ情報を参加者に提供して喜ばれていた。 座が和んだ頃、シュンさんは私の隣に座って、教えてもらった店が美味しかった、などと話した後、 「奥K渓谷って知ってる」と尋ねてきた。 「I県とF県の県境の」と返すと、彼は頷いて話し始めた。 シュンさんは、数年前のゴールデンウイークに奥K渓谷からF温泉へ行く計画を立てたそうだ。 奥K渓谷は、
厳冬のS湖では結氷した湖面の一部が盛り上がる氷堤を御神渡りという。この冬の御神渡りはいつになく隆起が大きく、人々は天変地異の前触れだと恐れ慄いた。やがて隆起は社のようになった。国譲りの際に敗れた神の復讐だという者もいるが、それはまだ定かではない。
「次の方どうぞ」 「あれ、閻魔大王は?」 「いません。あなたは略式命令ですから。ところで地獄、餓鬼、畜生、修羅、人間、どれになさいます?」 「選べるんですか?」 「はい。」 「もちろん、人間で」 「それでは、一億円頂戴します。」
女の子が出る夢を時々見る 僕が成長すると彼女も成長していく 合コンに参加すると彼女がいた 彼女も僕の夢を見ていたという 僕ら運命の赤い糸結ばれていた 運命に従い結婚した 妻は家事もせず金使いがあらい 死が二人を分つまで、愛を誓い… 寝息を立てている妻にネクタイを締めてあげた
「生きるのは辛いよなぁ」男は言う 「でもな、乗り越えられない不幸は来ないんだ」 「蝋燭が燃え尽きてるだろ 寿命を全うすると新しい蝋燭にかわるんだ」 「こっちの蝋燭は燃えさしだろ」 「自ら命を絶っちまうとずっとあのまんま残るんだ あんたみたいに」
路上喫煙の取締りをしているAさんはマッチをする音がしたのでその方向を見ると男がタバコを吸っていた 駆け寄り男に「ここは路上喫煙禁止です」と2千円の過料を請求すると 男はタバコと2千円を渡して消えてしまった タバコはマイルドセブン、お札には伊藤博文の顔が…
#呟怖 「今日はどこかに遊びに行こうか?」 「ママ、公園の滑り台で遊びたい」 「じゃあ、公園へ行こう」 「ママ、大好き」 数日後 近所の子供たちが滑り台を滑っていると 見知らぬ女の子が混ざっていた 「ママ大好き」と繰り返し言ってている女の子は痣だらけで半分透き通っていた
他所と交流すると疫病が流行ると言伝えがあった村は近隣とは隔絶されていた 村の男が隣村の娘と恋に落ちた 途端に村では疫病が流行り出した 娘は信仰している天王様を必死に祈った しかし祈りも虚しく男は死ぬ 後を追った娘の亡骸の上には檜扇の花が咲いた 以来村では疫病が流行らなくなった
禁忌を破ることが勇気と勘違いしている輩が必ずいる その若者たちもそうだった 肝試しと称して廃神社の杜へ入ってしまった 一人が「ヤバい!」と叫んで逃げ出したが時すでに遅し 全員がそれ以来まともに喋ることが出来なくなってしまった 故にこのの真相はわからず仕舞いである
夜中に一人歩きの女性を見るとどうにも抑え難い衝動に駆られるんです 多分病気だと思うんです その晩もつき動かされるように後ろから抱きついてしまいました でも女はこの世のモノではなかったんです 怖くてたまりません 捕まえてください 警官は渋い顔で聞いていた