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らんまん 九月


想い出は吾子の細筆ヒメスミレ
輝く峰沼津の二人眺む春
植物図鑑最後に載せてスエコザサ
枕辺の植物図鑑庭の花
メソメソと別れ行く妻待つ花野

緊張の顔ゆるませて文化の日
本棚の吾子のゑ取りて秋日和
仁淀川夏休み会ふ友来たり
秋惜しむ無くなるものを書き残し
行く秋や校正の束抱きしめて

葭障子理学博士の勧められ
七輪や沼津の鯵を炙る昼
文化の日理学博士の名を刻み
見送りの玄関の上百日紅
博士号授与式妻と見上げて秋の青

主ゐぬ書斎の流る初夏の風
玉子丼出戻り覚ゆ半夏生
遺されて植物図鑑初夏挑み
続くこと急須を落とす夏きざす
沼津より干物抱えて梅雨の明

アルバイト入口遠き夏の庭
主人公夏の初めの一休み
縁側の双眼鏡の野薊と
守り抜く標本室の震災忌
応募くる終戦記念日の練馬

ヤマモモや渋谷市場の見張り番
生きていく植物皆へ渡す春
秋日影好きです外は変われども
ヤマモモの破格の値段つけてみて
大願の練馬の荒野今立ちぬ

大地震ヤマモモ残り渋谷店
九月一日標本守り煤け顔
石版の欠片に残りツチトリムシ
再会や強き抱き合ひ草津月
焼け跡のムラサキカタバミ生きていて

草愛し初めましての土佐の春
くねくねと足跡辿り猫じゃらし
再現の標本作り八月尽
空紅く九月一日上野山
決断の渋谷を目指し震災忌

小雪舞ふ別れ話の教授室
想い出と決別時間明日の春
モノクロに花嫁衣裳冬終わる
春近し記念写真の長屋前
冬晴や世界に挑み仁淀川

去年今年ツチトリムシの森如何
主義主張食い扶持切りて秋澄む日
森の根や地べた固めの秋の雨
身に入む日次を託され差配人
うちの子と楽しき日々の秋の暮

召集や生きし証の花の庭
社裏茸を守り熊野旅
新地へと新しき旅銀杏散る
手拭の峰屋の屋号汗拭ひ
木漏れ日や鎮守の森の枯柳

打水や学者の妻待つ待合
待合やカンカン帽の旧き友
旱梅雨皿鉢料理の懐かしく
提灯の灯る料亭送り梅雨
虹立つや財政援助現れて

夏の宵寝そべり眺む星幾多
いつできるアルミ印刷汗ばむ夜
生きられる百二十年淡竹の子
再開発花火の照らす古樹の株
ささがきの金平牛蒡夏没日

久方の喉に染み入り九月蕎麦
九月尽標本の占む長屋
父帰りオリヅルランが土産とは
野薊や未来が見えて酒の道
十月の酵母育てし峰屋かな
紀伊の秋南方熊楠の長き文

鯵跳ねて南蛮漬けのリクエスト
半夏生版元探す夢の旅
人集め人を運びて願の絲
ボーロ食む未来の大器夏来たり
星合や図鑑の欲しい人何処

お上りや店先で飲み麦茶かな
夏暖簾ふわふわボーロ噛み応え
秋来る担ぐ神輿の笑み溢る
探し出し名所描き込み夏渋谷
灯明やヤマモモ映えり町屋には

露草や階段上り売家あり
探し家藪蚊の群の招かれて
汗拭きつ蓮根を焼く昼下り
大志抱く夢の冷まじ北海道
観察や渋谷の長屋どぶさらへ

縁台の家族写真の若き日々
顕微鏡開襟シャツだけの世界
しょっぱくて別れの前の西瓜かな
陸奥の採集遍路夏の空
蒸し暑し道玄坂の人の熱

甘酸っぱい土佐のヤマモモ懐かしき
月上るぶっかけうどんの花かつお
秋惜しむ提灯一灯裏小路
夢捨てず菌の世界の新酒酌み
三々五々人それぞれの月眺む

出る人来る人紫陽花咲く長屋
縁台や午后の麦茶の冷え具合
撥ね返す光る水瓶暑さかな
生え始む戦いの跡オーギョーチ
新商売夜店や流行り土佐の妹

文月の高熱土着の対処ぞ
静寂な月夜の螢虫を呼び
新涼の新たな世界顕微鏡
懐妊や娘の自覚処暑の節
大荷物白露の節の土佐の妹

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