「医師が死を語るとき」

イギリスの脳外科医の話

退職間近の脳外科医がこれまでの人生を振り返る話です。

脳外科の手術シーンがたくさん出てきます。覚醒下開頭手術、脳の腫脹、前頭葉の物理的損傷、腫瘍の吸引など、初めて知りました。副題に「自省」とある通り、失敗の話が多いですが。手術をしてもどうにもならない患者に手術した結果、もっと状況が悪くなったというケースもあります。

イギリスのほかにも、ネパールやウクライナでの手術の話も出てきます。同じく失敗の話が多く、読んでいると気が滅入ってきます。

コテージ

手術の話ばかりではなく、NHSや自身の生い立ち、両親のことなど、いろんな話題が時間と場所をあちこちしながら出てきますが、それを、中古で買ったコテージというテーマでつなぎながら物語が進みます。読後、長大な楽曲を聴き終えたような感覚になりました。本でいうと、吉川英治の「新・平家物語」の感覚でしょうか。

ゴミ屋敷だったコテージの先々代オーナー一家の話も心に残ります。

脳と移動

物語の中で、進化において脳が大きくなった理由についての話が出てきます。もっとも有力なのは移動ということでした。

移動するには予測をしなければならない、そのための器官として脳が大きくなった、というものです。

その例としてホヤが挙げられています。若いときは神経系を持っていて、それで海の中を移動するが、成体になると岩にくっついて動かなくなり、持っていた神経系を再吸収してしまう、というのです。

動く必要が無ければ神経系は要らなくなるんですね。



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