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【Web3】ワイオミング州がDAO法で最先端になっている理由が面白い

 ここ最近、仕事柄Web3を追いかけていますが、その中でもDAOの法整備についての話題が面白く、仕事の必要性を超えていろいろ読み進んでしまいます。

 DAOとはDecentralized Autonomous Organizationの略称で、一般には分散型自律組織と称されることが多いでしょうか。その実態については様々のため一意、一律に定義されることはありませんが、大まかには「スマートコントラクトを用いて運営される、中央集権的な主体が不在である、自律的な組織」でしょうか。非常に流動的な領域のため、DAOの実例については他の記事に譲りますが、例えば日本の金融庁が委託調査にもとづき公開しているものとして下記のような資料があります。

DeFiのトラストポイントに関する分析https://www.fsa.go.jp/singi/digital/siryou/20220620/jimukyoku2.pdf

 法律の知識がある方はピンとくるかもしれませんが、上記のような定義の組織を、法的にはどのような位置づけとするか、というのは現実の社会においては重要なテーマになります。例えば、日本法においては「権利能力」の主体を「人」としています。例えば動物には権利能力がないため、人と動物では契約を結ぶことができませんし、動物は何かを所有することができません。
 しかし、いわゆる「人間(個人)」しか権利能力を持たない、とすると、複数人で集まって何か商売をはじめようとしたときに、誰かが代表して一身に責任を負ったり、バラバラに権利をもったり、と何かと不都合があります。
 そのため日本法においては「法的な意味で人格を有する」ということで「法人格」というのものを想定しています。これがいわゆる「法人」です。なので、わざわざ日本の会社法3条では「会社は法人とする」と定めています。

 では、DAOはどうなのか? というテーマが、アメリカではなかなか面白いことになっています。

 まず、こちらの長島・大野・常松法律事務所から発表資料では、ワイオミング州におけるDAO法の概要がまとめられています。

<NFT/Web3 Update> ワイオミング州DAO法の概要

 見ると分かる通り、アメリカのワイオミング州では、DAOを「既存の会社(有限責任会社)」の一種として法人格を付与するが、既存の会社とは異なることを認めて、例外的な取り扱いを許しています。技術の普及で発生したDAOという特殊な事例を、既存の法体系に柔軟に取り組む、面白い立法です。

 面白いのは、おおむねDAO法とみなせる立法を行っているのは、現時点ではワイオミング州とバーモンド州くらいで、他の記事でもワイオミング州はパイオニア的存在として紹介されています。

米国でのDAOを巡る法的論点とは|Gamma Law寄稿

暗号資産(仮想通貨)やDAOに投機・投資資金が流入し続ける中、こうした新しい分散型機関の将来性を理解することは不可欠です。現在までに、ワイオミング州は米国の中でDAOを合法化した唯一の州であり、これにより別名カウボーイ州と呼ばれるワイオミング州はブロックチェーン投資家の注目を浴び、最も「暗号にフレンドリーな」管轄区域という評判を即座に獲得したのです。
他の49州はDAOを法人として認めていませんが、暗号資産業界が規模と勢いを増し続け、DAOが提供する多様で巨大な可能性から利益を得ようとする州が増えるにつれて、おそらく状況は変化していくことでしょう(2022年4月現在)。

米国でのDAOを巡る法的論点とは|Gamma Law寄稿より引用(2022/09/11 23:25時点)

 では、なぜそもそもワイオミング州だけが、こんなに攻めているのでしょうか? 意外と知られていないのですが、アメリカ法というのはかなり州法によるところがあるので「政策的な理由で攻めた立法(と司法制度の整備)を行う州」というのも少なくありません。著名なのがデラウェア州です。

 デラウェア州は、アメリカで二番目に小さい州で、日本だとぶどうの名前と間違えられそうな(しかも、そのデラウェアはオハイオ州の地名という)州ですが、会社登記といえばデラウェア州、と伝統的にされてきた場所です。

 なぜそのようなことになったか、その優位性をデラウェア州自身がサイトでまとめています。

 シンプルに言えば、デラウェア州は企業優遇的な政策からスタートし、特に会社法や司法制度を洗練させることで、多くの企業を(登記上)集めることに成功した、ということです。これにより、さらに企業に関連する争訟の取り扱いが増え、裁判例が増えることで「デラウェア州であれば、どういう結論になるかわかりやすい(≒他の州だとどのような裁かれ方、判決になるか予測しにくい)」という意味で、企業としては予測可能性が高い地域となった、という好循環があった、といえます。
 余談ですが、上記のようなデラウェア州の優位性に大きな役割を果たしているのが衡平法裁判所(Court of Chancery)で、詳しいことは下記記事をご参照ください。

 ということで、デラウェア州が「会社法の州」となったように、冒頭のDAO法の解説の中も、ワイオミング州は「DAO法の州」を目指している、という分析がなされています。

 州レベルのデジタル資産法制に目を向けると、州ごとに法規制の進展は大きく異なり、中でも米国中西部に位置するワイオミング州が突出してこの分野の法整備を活発に行っています。米国では会社法に関する先例の蓄積と柔軟性及び予測可能性の高さから、デラウェア州が会社の設立準拠州に選ばれることが非常に多いですが、ワイオミング州はデジタル資産に関する法令において同様の地位を確立することを目指していると見られています。具体的には、仮想通貨(virtual currency)の定義※2やデジタル資産(digital asset)の米国統一商法典(Uniform Commercial Code)上の法的性格※3を規定する法律、また、州独自のステーブルトークンの発行を検討する法律※4などがこれまでに成立しています。

https://www.noandt.com/publications/publication20220513-1/

 ここで以前謎なのは、なぜワイオミング州が、という点です。ワイオミング州はアメリカ西部に位置する、ロッキー山脈と平野が広がる、どちらかといえばひなびた田舎寄りの州といえるでしょう。いわゆるシリコンバレー・サンフランシスコを擁するカリフォルニア州や、日本人でも知らぬ人がいないニューヨーク州と比べると、意外なイメージを持つ方も多いのではないでしょうか。
 ではなぜ、そんなワイオミング州がDAOで攻めた立法をしているかというとこれがまた民主党vs.共和党、というか保守とリベラルの対立起因だ、というのがまたアメリカ的です。

その観点でこちらの記事は全般的に大変面白く、大変オススメです。
以下、一部引用します。

クリプトの振興では、州政府のほうが力を入れていて、ワイオミングは2021年7月、DAOをLLCとして法制化した。ワイオミングに限らずレッド・ステイトでクリプトの振興に力を入れているのにはそれなりの歴史や経緯がある。その筆頭がFRB外しを目指した「ロン・ポールの革命」だ。
(中略)
実のところ、ワイオミングでクリプトやDAOの法整備を進めている政治家の中にも、この「ロン・ポールの革命」の実現に関わってきた人たちがいるという。彼らからすれば、中央銀行なしにマネーが発行されるビットコインのようなクリプトカレンシーの仕組みは、FRBからの離脱を目指したロン・ポールの目的を実現させる手立てのひとつなのである。

アメリカ西部の辺境「ワイオミング州」が注目されている「意外な理由」
テックをめぐる米国内のせめぎ合い
https://gendai.media/articles/-/98478?page=3

 要は、共和党支持層からすると「小さな政府」志向からすればFRBや連邦政府(=中央集権)からの離脱という意味ではクリプトやDAOはぴったりの方法論、なので、伝統的に共和党が強かったり、独立志向の強い州(≒田舎であることも多い地域)が意外にも最先端の立法を推し進めたりしている、という構図になります。思想的にも(前に述べたデラウェア州の会社法のような)実利的にも、最先端であることの意味が大きい、ということです。

その意味では、州という枠組みで実験的に立法してみる、みたいなことができるのも自由の国アメリカらしさだな、と思うところです。今後、DAOに関する訴訟などが起きれば、その裁判例の積み上げが出てくるでしょうから、ワイオミング州がそのたびに話題になる可能性もでてきます。もしくは、別の州がより先鋭的な立法、あるいは、逆に消費者保護的な立法を進めていくかもしれません。こうした、州同士の競争による政策的なイノベーションの推進というのも、法律の進歩、規制とイノベーションという意味ではすごく面白いテーマだと思います。

 ということで、今回はワイオミング州のDAO法について一通りご紹介しました。翻って、世界やアジア圏における日本法の優位性とは? そういう観点で、金融関連の法整備を眺めてみるのも面白いと思います一般には、NFTだけは規制と整理のバランスがはっきりしていて良い、と言われることも多いですがその他はかなり厳し目の規制(暗号資産関連)か、不明瞭なことも多いと批判されています。一方で、アジア圏は急速に消費者保護によってきているので、相対的に日本がゆるい国になっているとも。
 ワイオミング州にも、日本にも、法整備という観点で引き続き注目していきたいと思います。

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