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世界で定義される「生きる力」を解剖する

今日は世界で色々と定義されているこれから求められる生きる力の要素について整理していきます。

背景として

なぜ今日はこの内容を書くのかというと、理由は二つあります。

  1. これから必要だ、と言われている「生きる力」の資質能力が多すぎるため

  2. 弊社の理念が「今、これからを生きる力を」を掲げているため

まず1についてですが、日本の学習指導要領やOECDが(経済協力開発機構)のPISA(学習到達度調査)が掲げているGlobal Competence、21世紀スキル、など様々な領域で「これから必要な能力」についての定義がなされています。

OECDとかであれば経済の基準であったりと、それぞれの分野ごとに価値基準がありそれらを軸に生きる力の定義をしていますが、全体の方向性として概ね方向性としては共通項も多いです。では、具体的にはどのような点が異なっているのか、この点について明らかにしたいと思いました。

2点目としては、弊社(一般社団法人国際エデュテイメント協会)の理念として「今、これからを生きる力を」を掲げています。この言葉は非常に汎用性があり、上にあげられている様々な要素を全てを包含しています。一方で、生きる力と一言で表現しても、具体的にどのような課題に対してどのような生きる力を育むための事業を行なっていくのか、、を検討しており、今回様々な指標を整理することで我々の方向性を明確にしていく狙いがあります。

ということで早速いってみましょう。
今回紹介する指標は以下になります。

  1. 文部科学省が掲げる「生きる力」

  2. 21世紀スキル

  3. WHOが掲げる「Life Skills」

  4. UNICEFが掲げる「Life Skills」

  5. OECDが掲げる「Global Competence」

1. 文部科学省が掲げる「生きる力」

最近では、新学習指導要領の改訂についての話題が日本教育界隈では盛り上がっていますが、そもそもの改訂の元となっているのは、求められる「生きる力」が変化していることにあります。

文部科学省では、以下のような点を生きる力と定義しています。

一人の人間としての資質や能力を指す力であり、「知・徳・体のバランスのとれた力」の総称を「生きる力」と文部科学省は呼んでいます。

https://mama.chintaistyle.jp/article/zest-for-life/より引用

知: - 基礎的な学力、学問の基本を確実に身につけ、その知識を活用して自ら課題を見つけ、自ら学び、考える力。 - 見つけ出した課題に対して主体的に判断・行動し、より良く問題解決する資質や能力。
徳: - 自らを律しながら、他者と協調性を持って行動する力。 - 思いやりの心や感動する心などの、豊かな人間性。
体: - たくましく生きるために健康で過ごす力や、体力。

https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/より引用

そして、これらの「知」「徳」「体」を育むためにさらに具体性のある定義としては、以下3本柱の「知識技能」「思考力、判断力、表現力」、「学びに向かう力」です。

1. 知識及び技能:実際の社会で働き、生活するために役立つもの

2. 思考力、判断力、表現力など:未知の状況にも対応できるための能力

3. 学びに向かう力、人間性など:学んだことを人生や社会に生かしていく資質

https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/siryo/attach/1364316.htm

このように、一見学校教育では、知識の部分を習得する意味合いが多く含んだように印象としてはありますが、実は"自分を律し、他者と協調する"ことや"健康でたくましい"という文脈も生きる力の定義の中に含まれています。

2. 21世紀スキル

続いて、21世紀スキルになります。これは、日本国内ではあまり見慣れない概念かもしれませんが、ATCs21という国際団体が提唱した概念です。AppleやAdobe, Microsoft, Ciscoなど世界で名高い企業がメンバーとして入っており、彼らが考える21世紀以降のグローバル社会を生き抜くために必要な能力になります。

21世紀スキルとは以下のような図で表現されています。

https://www.aeseducation.com/blog/what-are-21st-century-skills

図を見てわかる通り、21世紀スキルには3つの領域が重要と表現されています。

1. Learning Skills
2. Literacy Skills
3. Life Skills

https://www.aeseducation.com/blog/what-are-21st-century-skills

また、それぞれの領域では、具体的にどのような要素が必要なのかという点も紹介します。

Life & Career Skills

Flexibility: Deviating from plans as needed
Leadership: Motivating a team to accomplish a goal
Initiative: Starting projects, strategies, and plans on one’s own
Productivity: Maintaining efficiency in an age of distractions
Social skills: Meeting and networking with others for mutual benefit

https://www.aeseducation.com/blog/what-are-21st-century-skills

Life & Career Skillsに関しては、5つの要素があります。日本語で表現すると、「柔軟性」「リーダーシップ」「自発性」「生産性」「社会性」になります。確かにどれも必要なスキルです。印象としては、ビジネスキャリアを推進するために必要なスキルのような文脈で表現されています。21世紀スキルならではの考え方かもしれません。


Learning & Innovation Skills

Critical thinking: Finding solutions to problems
Creativity: Thinking outside the box
Collaboration: Working with others
Communication: Talking to others

https://www.aeseducation.com/blog/what-are-21st-century-skills

Learning & Innovation Skillsについては、「批判的思考」「創造性」「協働性」「コミュニケーション」の4要素で表現されています。


Literacy Skills

Information literacy: Understanding facts, figures, statistics, and data
Media literacy: Understanding the methods and outlets in which information is published
Technology literacy: Understanding the machines that make the Information Age possible

https://www.aeseducation.com/blog/what-are-21st-century-skills

Literacy Skillsに関しては、「情報リテラシー」「メディアリテラシー」「技術リテラシー」の3つが上げられています。

「情報リテラシー」や「メディアリテラシー」を正しく理解している人は少ないかもしれません。

全体を通した印象ですが、やはりビジネスの世界でどう活躍をするか、という軸で3領域に分かれていることがわかります。

キャリアの軸、技術革新の軸、リテラシーの軸という領域の切り方が非常に特徴的です。

引用:https://www.oecd.org/site/educeri21st/40756908.pdf

3. WHOが掲げる「Life Skills」

さて、3つ目に突入しますが、1, 2は日本の教育業界に従事していれば見聞きしたことがあったかもしれませんが、WHOの「Life Skills」については知っている人は少ないかもしれません。私自身も今回初めて知りました。

以下定義から見ていきましょう。

ライフスキル

ライフスキルとは「日常生活に生じるさまざまな問題や要求に対して、より建設的かつ効果的に対処するために必要な能力」(WHO:世界保健機関)である。よりよく生きるために必要な技術・能力、生活技能ともいう。「万人のための教育」推進のために採択された「ダカール行動枠組み」(世界教育フォーラム,2000)で、その習得の必要性と教育プログラムの推進が指摘され、国際的に理解が広がった。

公益財団法人日本女性学習財団より引用

また、具体的なライフスキルは以下の10の項目に分かれると定義されています。

hangoutagileより引用
  1. 意思決定

  2. 問題解決

  3. 創造的思考

  4. 批判的思考

  5. 効果的コミュニケーション

  6. 対人関係スキル

  7. 自己認識

  8. 共感性

  9. 情動への対処

  10. ストレスへの対処

こちらを見てわかる通り、2つ目であげた21世紀スキルと共通して登場しているキーワードとそうでないものがあります。

1~6までは21世紀スキルでも同様もしくは類似した要素になっていますが、7以降に関しては少々異なっています。特に9(情動への対処)や10(ストレスへの対処)はWHOならではの考え方と言えるかもしれません。

冒頭の定義でも表現している通り、"「日常生活に生じるさまざまな問題や要求に対して、より建設的かつ効果的に対処するために必要な能力」"という観点から要素を分解していることがわかります。

4. UNICEFが掲げる「Life Skills」

続いてUnicefが掲げる「Life Skills」を見てみます。表記だけで見ると、WHOとUnicefはどちらも"Life Skills"ですので、全く同じ表現です。

unicefより引用

さすがUnicefといったところでしょうか。非常に明瞭に整理されています。Unicefは"Teaching"と"Learning"のプロセスを非常に重要視していることがわかります。UnicefのWebサイトには以下のような表現があります。

Teaching and learning life skills are incredibly important for empowering children and young people to achieve success in education, employment and personal goals. Nevertheless, few education systems have integrated life skills into their education systems. Some of the reasons for this are challenges concerning the lack of knowledge as to what life skills are, how life skills can be taught and learnt, and how life skills can be measured, assessed and evaluated.

https://www.unicef.org/mena/reports/measuring-life-skills

また、Life Skillsの定義としては、以下のような記載があります。

What are life skills?
– Life skills are transferable skills that enable individuals to deal with everyday life, and to progress and succeed in school, work and societal life. They are comprised of skills, attitudes, values, behaviours and domain-based knowledge. They can be learnt throughout life though there are optimal ages when interventions targeting specific skills are most likely to be effective.

https://www.unicef.org/mena/reports/measuring-life-skills

具体的な項目を見てみましょう。

  • Active Citizenship (有効な市民権)

    • Respect for diversity (多様性の尊重)

    • Empathy (共感性)

    • Participation (主体性)

  • Learning (学習)

    • Creativity (創造性)

    • Critical thinking (批判的思考)

    • Problem-solving (問題解決)

  • Employability (雇用可能性)

    • Cooperation (協調性)

    • Negotiation (交渉力)

    • Decision-making (意思決定)

  • Personal Empowerment (自己啓発)

    • Self-management (自律性)

    • Resilience (立ち直る力)

    • Communication (コミュニケーション)

このように4領域の中にそれぞれ3つの要素が含まれています。
Unicefの母体としては、

"UNICEF works in the world’s toughest places to reach the most disadvantaged children and adolescents – and to protect the rights of every child, everywhere. "

https://www.unicef.org/about-unicef

と記載があるように、青年期や幼少期にある子どもたちに対するサポートを行うことがUnicefのミッションです。

そのため、このUnicefの基本コンセプトを達成するための項目であることがわかります。何度も比較対象となりますが21世紀スキルとは異なる切り口での区切り方となっています。

Active Citizenship(有効な市民権)とEmployability(雇用可能性)が両立しており、基本的には人権を尊重することを起点としてそれぞれの要素が記載されていることがわかります。

5. OECDが掲げる「Global Competence」

https://www.oecd.org/pisa/innovation/global-competence/

さて、いよいよ最後のグローバルコンピテンスに関してです。

まずはグローバルコンピテンスとは?について確認していきましょう。

Global Competence is a multi-dimensional construct that requires a combination of knowledge, skills, attitudes and values successfully applied to global issues or intercultural situations.

https://www.oecd.org/pisa/innovation/global-competence/

上が原文となりますが、私の方で日本語で表現するならば、グローバルコンピテンスとは、知識や能力、意見、価値観のそれぞれを尊重、用いながらグローバル社会課題や異文化間のの様々な状況に対応していく能力です。

Unicefでは、子どもたちの人権を基軸として能力の定義がされていましたが、OECDのグローバルコンピテンスは、社会課題や異文化間の問題を解決することを起点にしています。

では、それぞれの詳細についてもみていきましょう。

  • Examine local, global and intercultural issues (地域、グローバル、異文化間の社会課題を知る)

  • Understand and appreciate the perspectives and world views of others (他者の考えや様々な側面を理解する)

  • Engage in open, appropriate and effective interactions across cultures (文化同士が適切かつ有効的に協力しあう)

  • Take action for collective well-being and sustainable development. (ウェルビーイングや持続可能性のために行動する)

これまでの4つのSkillsよりも非常にシンプルかつ具体的であることがわかります。

グローバルコンピテンスに関する特徴をあげるとするならば、"様々な文化や考えを理解する"ことでしょうか。4つのステップの中で、1つ目と2つ目を使ってIntercultural (文化間)に関する記載が入っています。

グローバルコンピテンスは、OECDが提唱したものですが、OECDのミッションを確認すると以下のような記載があります。

The Organisation for Economic Co-operation and Development (OECD) is an international organisation that works to build better policies for better lives. Our goal is to shape policies that foster prosperity, equality, opportunity and well-being for all. We draw on 60 years of experience and insights to better prepare the world of tomorrow.

https://www.oecd.org/about/

確かに上の記載を見るとグローバルコンピテンスの定義に合点がいきます。様々な国際機関が協力しあい、より良い生活のためのポリシー策定を行うとあります。また、OECDの加盟国はEUの国々が多くを占めているので、ヨーロッパ諸国の協力の部分などが反映されていることが想定されます。

参考:
https://www.oecd.org/pisa/Handbook-PISA-2018-Global-Competence.pdf

共通項

これら5つの「生きる力」についてみなさんはいかがでしたでしょうか。それぞれで定義されている「生きる力」には共通点が多数含まれています。

特に生きる上での能力において、共通して登場している能力はこのような能力です。

  • Critical Thinking (3回)

  • Creativity (3回)

  • Communication (3回)

  • Cooperation / Collaboration (3回)

  • Problem-Solving (3回)

  • Empathy (2回)

  • Resilience (2回)

  • Self-management (2回)

教育においてこれらの要素はどのような軸から生きる力を定義しようとも登場している能力になります。今後の社会を生きる上では、必須と言えるでしょう。

相違点

一方で、それぞれの機関のコアコンセプトによって、能力の切り口が異なっていきます。

  • 経済活動を主軸とした考え方

  • 人の健康を主軸とした考え方

  • 子どもの人権を主軸とした考え方

  • 社会課題、文化間での問題を主軸とした考え方

これらの出発点の違いによって大切にしなければならないことが分かれているということです。非常に興味深いです。

また、日本の文部科学省が強調している「知・徳・体」については全てを包含している印象がありました。

「今、これからを生きる力」を改めて考える

ここまでお読みいただきありがとうございました。

改めて一般社団法人国際エデュテイメント協会は、「今、これからを生きる力を」を理念に掲げています。

今回例にあげた5つの「生きる力」はどれもが今後の社会を生きる上で考慮しなければならない要素です。

一方で、法人としてどの領域に注力するべきなのか、という点については明らかにしなければなりません。今回の気づきとしては、どのような切り口で「生きる力」を定義するのか、ということです。

力強く、そして幸せに、という点を我々は大切にしています。
弊社のオリジナル英語教材「Thinking Critically about SDGs」もSDGsのコアコンセプトである「Leave no one behind」について一定の共感があったこと、またこれからを生きる上で非常に重要な「Critical Thinking」を身につけられるような教材を開発したいという背景からできた教材です。

しかしながら、まだまだそれ以外の領域において我々としてどのようなアプローチをすべきなのかという点について模索をしているため、今回の生きる力について様々な観点から見ていきたいと思いました。

これらの点を踏まえ、今後のVision, Mission, Valueのステートメントをさらに精緻にしていきたいと思います。

ここまでお付き合いいただきありがとうございました!


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