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主体性とは

主体性を育むことの大切さと聞くと、今も昔も重要な価値観と感じる人は多いのではないでしょうか。一方で、「何があなたにとって、主体性を育む教育/養育でしたか?」という質問に対して、中には「部活動の怖い先輩で鍛えられたメンタルで主体性が育まれた」というような今の時代では賛否がわかれる意見を持つ人もいるかもしれません。

保育においても、主体性を育むことの中身は時代と共に変化しています。今回は幼稚園教育要領の変化と現場という視点から主体性を考えてみます。

主体性とは?

そもそも主体性というのはとても広義な概念です。それは捉える年齢や対象によって主体性の解釈の幅が大きく変わるためです。

私たちの考える主体性は『子どもが自ら課題を設定し、その課題を自ら解決できる能力』です。

“主体性”は聞こえの良い言葉であることから、その中身が曖昧のまま、保育の質を担保しそうな”それっぽい言葉”のように使われてる場面が多々あります。大阪キリスト教短期大学の学長である山本先生の論文でも以下ように述べられています。

主体的な活動あるいは主体性というものが、主観的な解釈に委ねられている。個々の機関や個人における主観的な思いは大切であるし、多様であること自体はむしろ望ましいことではあるのだが、同じ言葉で異なる内容を表すまでに多様性の幅が広くなる事態は、保育における質の向上を検討する時、障壁となる。言葉が熟知されているがゆえに、意味を深く問わずに唱え言葉のように使われているとも見えるのである。」**1 p217

時代と共に変化する主体性

主体性が指し示す言葉の意味は時代と共に変わってきました。幼稚園での活動方針を決める幼稚園教育要領で、主体性が本格的に重要視されたのは平成元年(1989年)の改定からです。子どもの活動を管理して大人主体の保育を「昭和の保育」というような言い方をするのは平成に入るまで大きな要領の改訂が行われず、「子どもを管理的に活動される状況」であったためです。

山本先生は以下のように言及しています。

それ以前の 1964(昭和 39)年幼稚園教育要領では保育者が「ねらいに即する活動を『選択し、配列し』」7)という内容によって、「活動を選び、どう展開するか、そのためにどう環境を構成するか」というような活動が前面に押し出された考え方であった。しかし 89年要領以降は「子どもの発達にふさわしい環境をつくって、子どもがその環境に関わりながら活動を生み出していく」8)保育への転換がなされ、保育者と活動主体の子どもがどう環境を変化させていくかが重要なポイントとなっている 9)。つまり園の活動では子どもの主体性が前面に押し出された保育展開が目指されるようになった。*3

昭和の保育

「昭和の保育」という言葉は職員からも時々聞きます。自分自身が昭和時代に保育現場にいたことがあるわけではないので、昭和の保育を正しく表現しているかは定かでありません。しかし、これまでの幼稚園教育要領を通して過去の保育を俯瞰してみると一斉保育などの大人都合の保育が常態化していたことは察しがつきます。このような保育を総称して「昭和の保育」と呼んでいるのだと思います。昭和の保育というものがどういうものだったのかを、もう少し詳しく振り返ってみましょう。

当時の幼児教育現場はまさしく、全員が知識や技能を同一に習得させることを目的としている時代です。今では少なくなりましたが、乳幼児がトイレの前で体育座りをしてトイレの順番を待つ、乳児は鳥の餌のようにご飯を口に突っ込まれる、このようなことが幼稚園や保育園で当たり前のように行われていた時代でした。

以下の論文でも当時の状況をこのように述べています。

新井(1992)は、当時のそれまでの幼稚園教育では子どもの知識や技能が優先されており、 それが子どもの発達に望ましいのであろうかとの問題提起を行っている。さらに、子どもを管理して訓練をするよう知識技能が優先される幼稚園教育の傾向は、子どもの内面の発達理論が存在しなかったことがその原因の一端であることを指摘しています。 *2

平成の保育

平成元年の改訂によって、子どもの自発的な活動を促す環境作りという文言が要領で示されています。しかし、実際の現場では「子どもの主体性を育む保育」を実践することは中々達成できていません。保育現場では主体性を育む保育を放任と勘違いしているケースも相当あります。そのため、要領の中で詳細に放任ではないあるべき保育について言及されるようになりました。

1998(平成 10)年、幼稚園教育要領(以下 98 要領と記す)告示では、以下のように言及されています。

「一部には幼児の主体的な活動を確保するということは、幼児の活動をそのまま放置するといった誤解も見られ、 環境の構成や教師の役割等に共通理解が不十分な点があり、教育要領の主旨をより良くし ていくための改善が求められてきた」15)経緯の中での改訂である。第 1 章 総則においては 子どもの主体的な活動が確保されるように、教師は「幼児一人一人の行動の理解と予想に 基づき、計画的に環境を構成しなければならない」16)、「幼児一人一人の活動の場面に応 じて、様々な役割を果たし、その活動を豊かにしなければならない」17)等の点が明示され、 2017(平成 29)年幼稚園教育要領(以下 17 要領と記す)に至る現在まで続いている。

子どもの活動を管理するやり方が主流だった中で、指針となる要領で『個々の主体性』という言葉が出てきても、どのように保育を展開するべきなのかがわからなかったのだと推測しています。実際に、私は自園・他園含め、多くの保育園と関わる機会がありますが、園長によって程度は違えど「いつ・どこで・なにを」(主体性)保育として提供するべきなのかわからないという悩みをよく耳にします。

令和の保育?

これまで、主体性保育の変化をみてきました。元号で分類していくと、下記のように変化してきたと考えるとわかりやすいかもしれません。

過去

「昭和:保育者を起点とする保育」→ 子ども管理型。深く根ざされ、今も多くの残骸が残る。

「平成:子どもを起点とした放任になりがちな保育」→ 主体性が大事であるというコンセプトは浸透

NOW!

「令和:子どもを起点とした保育」→ 主体性が実る保育の実装

「保育士起点」と「子ども起点」それぞれの保育のイメージがわかないかもしれないので、具体例をあげます。

例えば、玉ねぎを食べたことはあるけれど、玉ねぎの原型や皮に包まれていることを知らない子ども達と、カレーの具材として玉ねぎを一口サイズに切る活動をするとします。

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保育者を起点とする保育の場合、

保育士が紙芝居で「玉ねぎの皮を剥くと、食べる部分がでてきます。それを食べるためには一口サイズに剥く必要があるね。剥いてると涙がでてきます」といった一連のプロセスを見せてから、子どもたちと一緒に皮剥きをするというものです。つまり、先に答えを与えます。

一方、子どもたちを起点とする保育の場合、

子ども達にとって謎に包まれたモノ(皮に包まれた玉ねぎ)を渡し、子どもたちは嗅覚・触覚・視覚などをフル活用して「この形はなんだろう?」「どんな匂いがするのかな?」といったように興味関心を広げていきます。そして、皮を向いてでてきた玉ねぎに対して、「玉ねぎだー!」「なんでケンカをしたわけでもないのに涙がでるんだろう?」という発見が生まれたりします。中には「りんごの匂いがする」という新しい発見をする子どももいるかもしれません。

もちろん、玉ねぎを剥くためにピーラーを使う際は子どもの安全のために事前に情報を与える必要もあります。重要なのは、子どもの行動をコントロールするのではなく、子どもの興味・関心から始まる保育を保育士自身がコントロールするということです。

放任保育では、子ども達の興味関心の広がりのプロセス(インプットからならアウトプットまでの過程)を無視してしまっています。一般企業で例えるなら、広告予算(インプット)を注ぎ込めばユーザーを獲得(アウトプット)できるという事だけを考えて、どの認知経路がベストなのか?どういうメッセージが刺さるのか?といった中身のプロセスを無視しているようなものです。プロセスの改善なくしてインプット(保育の活動内容、広告予算の最適化)やアウトプット(子ども達の成長、ユーザーの獲得)の改善が進まないことは自明でしょう。

このような子ども一人一人の主体性を尊重する保育を展開するためには、月齢や気質によって異なる発達の理解と、それに伴う環境構成を作ることは必要不可欠です(また、環境構成というのは物的環境と人的環境の両方を指します。)。その実現のために行っているのが、スマートエデュラ事業です。発達の理解と環境構成と主体性の関係については、次回以降で書き留めたいと思います。

おまけ

最後に話が変わりますが、ここ最近は立て続けに各園でエデュリーカルチャー研修を行っています。

カルチャー研修で半日園にいることで以前よりも各園万遍なく園児と関わることができるようになってきたのですが、園毎に同じ年次でも発達に差があると感じます。

もちろん発達の個体差が園児ごとにあるのは当たり前ですが、「個別差」ではなく「園別差」があることは、定量化を通して解決していく課題です(園別差とは各園の同じ年次の園児の発達の違い)。発達の早さの良し悪しではなく、きちんと出てきている定性的な結果に対して関係している要素を整理して因果を追うことは定量化をしていくうえでは不可欠だと考えています。

​というわけで、
主体性を育むという当社のミッション実現のために、最高のプロダクト/サービスを作るメンバーを絶賛募集しています。少しでも興味が湧いた人は是非、話を聞きに来てください!

参考文献 ーリファレンスー
1,(幼児の主体的な活動と保育者の援助についての研究―自己課題の生成の視点から―幼児の主体的な活動と保育者の援助についての研究 ―自己課題の生成の視点から―山本 淳子

2, 新井邦二郎(1992).幼児の主体性の教師尺度作成(1) 筑波大学心理学研究 14

3,(幼児の主体的な活動と保育者の援助についての研究―自己課題の生成の視点から―幼児の主体的な活動と保育者の援助についての研究 ―自己課題の生成の視点から―山本 淳子 2p

4,(幼児の主体的な活動と保育者の援助についての研究―自己課題の生成の視点から―幼児の主体的な活動と保育者の援助についての研究 ―自己課題の生成の視点から―山本 淳子 3p

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