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「療育」って何のため?

 児童発達支援を今後展開していくにあたり,なぜそうした施設・サービスが必要とされるのか,子どもたちのためにどんなことができるのかについて連続した記事を投稿していきたいと思います。

 今回は,そもそも児童発達支援を受ける子どもはどんな子たちなのかについてご紹介します。
そもそも,児童発達支援は就学前の障害のある子どもが日常・社会生活を円滑に送れるよう支援をするものです。
そこで混乱しやすい「発達障害」「知的障害」について説明します。

発達障害について:増加するニーズと特徴

発達障害は、生まれつきみられる脳の働き方の違いにより、幼児のうちから行動面や情緒面に特徴がある状態です。そのため、養育者が育児の悩みを抱えたり、子どもが生きづらさを感じたりすることもあります。
発達障害があっても、本人や家族・周囲の人が特性に応じた日常生活や学校・職場での過ごし方を工夫することで、持っている力を活かしやすくなったり、日常生活の困難を軽減させたりすることができます。

(厚生労働省『みんなのメンタルヘルス 総合サイト』)

 発達障害という言葉を近年多く耳にするようになりました。特に注意欠陥・多動性障害(ADHD)や自閉症などは行動面にも大きな影響があり、日常生活の中でも気づきやすい障害であることから認知の広まりとともにケアの需要も増加しています。
 まず、発達障害について重要なのは上記にある通り「生まれつき」であるということです。親のしつけや受けている保育・教育が悪いから発達障害になるのではないということではありません。もちろん,ネグレクトや虐待による愛着障害などで発達障害と似た様相を子どもが示すことはありますが、発達障害とは別なものです。そして、発達障害は脳に関するものである以上「治す」ことは難しいですが、自らの特性を十分に理解させるとともに各人に合った環境を整備することが困り感を減らしたり得意なことを伸ばすことにつながり、そこにケアの必要性があります。

文部科学省の調査によれば,何らかの障害があり特別支援学校に通う子供は平成22年度には14万5千人だったのが,令和2年度には30万人まで増加しています。中でも自閉症や情緒障害が大きな伸びを見せていることがグラフから分かります。

文部科学省 令和3年度「特別支援教育担当者会議」及び「特別支援教育の推進に関する関係課長連絡会議」行政説明資料より


これは小学生以上の学齢期の子どもについてですが、就学前段階の子どもでも同様に増加傾向にあると言えるでしょう。実際、発達障害のある幼少期の児童を預かるサービスの利用者数は令和元年度までに5年で2.3倍程度増えていると厚生労働省が発表しています。

厚生労働省「障害児通所支援の現状等について」より


 代表的な発達障害の概要を示します。(厚生労働省『みんなのメンタルヘルス 総合サイト』より)

  • 自閉スペクトラム症

コミュニケーションの場面で、言葉や視線、表情、身振りなどを用いて相互的にやりとりをしたり、自分の気持ちを伝えたり、相手の気持ちを読み取ったりすることが苦手です。また、特定のことに強い関心をもっていたり、こだわりが強かったりします。また、感覚の過敏さを持ち合わせている場合もあります。

  • 注意欠陥・多動性障害(ADHD)

発達年齢に比べて、落ち着きがない、待てない(多動性-衝動性)、注意が持続しにくい、作業にミスが多い(不注意)といった特性があります。多動性−衝動性と不注意の両方が認められる場合も、いずれか一方が認められる場合もあります。

  • 学習障害(LD)

全般的な知的発達には問題がないのに、読む、書く、計算するなど特定の学習のみに困難が認められる状態をいいます。


 学習障害は特に学齢期に学校に通う中で表出する困難ですが、その他は幼少期でも気づくことがあります。概要で示された特性はどんな人でも多かれ少なかれ当てはまる部分はあるかもしれません。しかし、発達障害は特に日常・社会生活の中で課題となり本人に改善のニーズがある場合をいいます。様々なサポートを受けていくには診断等が必要となっていきます。子どものアセスメントについては後述します。


知的障害について:発達障害との違い

厚生労働省は知的障害を以下のように定義しています.

次の (a) 及び (b) のいずれにも該当するものを知的障害とする。
(a)  「知的機能の障害」について 標準化された知能検査(ウェクスラーによるもの、ビネーによるものなど)によって測定された結果、知能指数がおおむね70までのもの。
(b)  「日常生活能力」について 日常生活能力(自立機能、運動機能、意思交換、探索操作、移動、生活文化、職業等)の到達水準が総合的に同年齢の日常生活能力水準(別記1)の a, b, c, d のいずれかに該当するもの。 (※別記1省略)

 特に知的障害は軽度~重度が定義され,行動面での問題(多動,自傷,拒食,物損など)に多少注意すればいいものから常時付き添いが必要なものまで分類されます。
幼児期について見ると,重度であれば言葉の発達が著しく遅く3歳になっても一言も発しない、自分で身の回りのことができるようにならないなど分かりやすいですが、軽度だと少し発達が遅い程度で分かりにくいケースも多いです。保育園,小学校と進み周囲の子どもと関わる中で日常生活や学業の困難さが明らかになっていきます。

 基本的には日常生活に必要な知能水準に年齢に比して遅れが見られることが知的障害ですが、発達障害とは何が違うのでしょうか。
 知能検査を受けると、例えば学習障害の子どもは言語などに関するスコアが非常に低く知能指数も低く出ることはありますが、他の領域のスコアを見れば知的障害ではなく発達障害と分かりま。
自閉症やADHDも知的障害と同様の困難さとなることはあり、さらには知的障害と自閉症を併せ持つといったケースもあることから混乱しやすいですが、本人の困難さが多動や不注意、こだわりなどから来ているのか、それとも知的発達全般の遅れから来ているのかを専門家が判断していくことで判明します。まずは医療・福祉の専門家に相談することが必要です。

障害のアセスメントについて

 障害をどのように診断していくのかについては、厚生労働省のe-ヘルスネットによくまとまっています。以下抜粋しつつご紹介します。

 知的障害について先ほど紹介したように、知的障害には知能指数がおおむね70以下、かつ日常生活での困難さが認められます。
 知能指数は、WISC知能診断検査,KABC-Ⅱ,田中ビネー知能検査などの検査手法が用いられ、専門機関において受けることで測定されます。複数あることからも分かるように絶対的な指標は存在せず、また算出基準も異なるため複数受けると結果が異なることもあります。そこでもう一つの指標が重要になります。
 日常生活に十分に適応できているかどうかは,その様子を観察したうえで以下の基準をもとに診断されます。ただし、幼児のためだけの基準でないことに留意してください。

◇概念的領域:記憶、言語、読字、書字、数学的思考、実用的な知識の習得、問題解決、および新規場面における判断においての能力についての領域
◇社会的領域:特に他者の思考・感情・および体験を認識すること、共感、対人的コミュニケーション技能、友情関係を築く能力、および社会的な判断についての領域
◇実用的領域:特にセルフケア、仕事の責任、金銭管理、娯楽、行動の自己管理、および学校と仕事の課題の調整といった実生活での学習および自己管理についての領域

 さらに,それらの困難さがどのような原因なのかを特定することも重要で、何らかの疾患によるものなのかなども診断を受けます。

発達障害について、発達障害は知的障害と異なり知能指数や疾患で特定できず、要因が解明されているわけではないため診断が特殊になります。
例えば、ADHDはアメリカ精神医学会のDSM-5と呼ばれる診断基準によって判断されます。

◇「不注意(活動に集中できない・気が散りやすい・物をなくしやすい・順序だてて活動に取り組めないなど)」と「多動-衝動性(じっとしていられない・静かに遊べない・待つことが苦手で他人のじゃまをしてしまうなど)」が同程度の年齢の発達水準に比べてより頻繁に強く認められること
◇症状のいくつかが12歳以前より認められること 2つ以上の状況において(家庭、学校、職場、その他の活動中など)障害となっていること
◇発達に応じた対人関係や学業的・職業的な機能が障害されていること
◇その症状が、統合失調症、または他の精神病性障害の経過中に起こるものではなく、他の精神疾患ではうまく説明されないこと

こうした診断においては特に日常の様子を注意深く観察する必要があり,医者が子どもに付き添えるわけではない以上、保護者や保育者、教員などとの連携が重要だと言えるでしょう。

ここまでお読みいただきありがとうございます。今回はそもそも障害とは何なのか、それらはどのように診断されるのかについてご紹介しました。これらの概念は重なり合うところも多く自分の子どもが何に当てはまるのかを判断するのは難しく、また人によって特性も様々です。診断を受けることが目的ではなく、専門家や普段接する保育士、教員などと相談しながら本人に合った環境を見つけていくことが必要です。

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