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自らの中国語学習経験を活かし、日本語教師に〜世界の日本語教師たちvol.1(後編)〜|児玉惠理さん

 このedukadoページでは「世界の日本語教師たち」というテーマで、
毎週世界を股にかけて日本語を教える先生たちの現場のリアルな声を取材した記事を配信したいと思います。
今回は、 “日本で教える日本語教育”について後編をお届けします。

<児玉惠理さん>
台湾での留学をきっかけに、日本語教師となる。
現在、東京都内にある2校の学校で教えている。

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⒊日本語を学習する理由とは

—学生の皆さんへ教える基準は日本語検定になりますか。

そうですね、ほとんどの大学では1級レベルが必要だと言われています。ですが、学校によって、例えば地方の場合や有名ではない大学だと2級レベルが求められることもあります。

—少しここまでの質問を整理させていただきます。児玉さんの学生の皆さんには2つのモチベーションがあって、1つは日本の学校に進むため。その学生は日本語検定の習得が必要になるということですね。

 では、もう一方である日本で働くために日本語を学んでいる学生に対してはどのような形で日本語を提供しているのですか。やはり日本語検定の習得ですか。

 そうですね、働くために日本語を学んでいる学生の多くは、学生ビザで日本に来日しています。
 都内であれば、アルバイトの掛け持ちや長い時間働くと一気に大量のお金を稼ぐことができます。自分の国ではどれだけ頑張ってもこれしか貰えないけれど、日本にきてちょっと長く働く、夜中少し頑張るだけで高いお給料を手にすることができます。ですので、学生たちがより日本で働きたいという思いになるのです。
 しかし、就労ビザはなかなか簡単なことではありません。企業が求めるのも最低で3級レベル、できれば2級は持っていて欲しいといいます。ですので、やはり日本語検定で基準が決められています。検定に受かるためにカリキュラムが組まれているということになります。

—ここから少し質問の内容を変えたいと思います。
 日本語検定とは違い、”日本語の漫画を読めるようになりたい”や”日本映画を自分で聞き取れるようになりたい”といったモチベーションで授業を受けている学生はいますか。

 今、自分が働いている学校ではほとんどいません。不定期ではありますが、学校で個人レッスンをやっていて、そこに来る学生は日本語の会話ができるようになりたいという方もいます。ですが、やはりほとんどは先程言ったように入学、就職のために決められたテストのスコアをとる勉強をしています。

—ありがとうございます。では、児玉さんが考える日本語を学習することで、日本への影響や学習者が増えることによって考えられる未来はありますか。

 私の考えでは、昔は日本の企業がすごく成長して日本の経済を盛り上げていましたが、現在は他の国々もどんどん発展してきています。ですので、日本だけにとどまる事は経済的にも将来性においても、もったいないことだと思っています。日本語を通して、他の国との貿易や経済のネットワークが発展し、お互いの国が成長していければと思っています。

 もう一つは、学習者としてではなく、日本人自体についてです。自分も両親が外国の人と言うこともありますが、日本は考えがすごく狭いと感じています。例えば、一つの観点でしか物事の評価や批判ができないことです。ですので、日本語を教えることを通し、色んな国の人から時代的背景、政治的背景、文化的背景を聞いて、私たち日本語教師から考え方をグローバルに変えていくことも日本語教育にとって大事なことだと思います。

—日本は特殊な国です。他の外国と違って、日本は国内で内事がすべて完結できます。自分が出たいと思わなければ、日本人とのコミュニティだけで生活が成り立ちます。ですので、日本語を広めることで逆に日本人がそこから学べることもたくさんあると思っています。

⒋ 今後の願い

—では、最後に日本語教師を専門的に職業にすることに対して “もっとこういう風サポートが欲しい”ということがあれば教えてください。

 私たち教師の間で出ているのは、日本語教師自体の待遇が決して良い訳ではないということです。一つの授業を作り上げるのに、教案・教材を考えたり、文法分析をしたりという手間隙の比率とお金の比率が合わず、本業で日本語教師をやっている若い先生は多くありません。ですので、日本語教育をもっと発展させていくためには、教師の待遇を上げていかないといけないと思っています。

 実際私の知り合いも20代で日本語教師になりたいという方がいましたが、日本語教師を一度リタイアし現在違う職業についています。また、同年代の方からすると「これくらいの待遇なのによくこの仕事続けられるね」、「よほど熱意がないとこの仕事はやっていかれない」と思われているのが現状です。もしかしたら今後日本語教師を副業という形に変え、本職をまた別のものにするかもしれない、ということも考えながら、今は自分の仕事を全うしています。

 また、学生にとってすごくいい先生が待遇を理由に辞めてしまうということも多いのです。他の仕事もしながら教師として “日本語を教えたい、海外の人に伝えたい”という思いで教えていても、どんどん離れていってしまい、結果として辞職してしまう方もいました。

—なるほど。これは英語の先生も同じ状況なのでしょうか。

 英語の先生についてはあまり詳しくありませんが、学校の中でも特に非常勤の先生の環境は厳しいとよく聞きます。今すぐとは難しいとは思いますが、改善していけば良いなと思っています。ただ、英語や中国語と比べると圧倒的に日本語の話者は少ないので、難しいことも理解しています。

—そうなのですね。例えば欧米圏の学生だと、日本語というよりも日本の文化に興味がある人が多い印象です。文化としての日本語を伝えることがサービスとして広がれば、教師需要も増えるのではないかと思いますが、どうお考えですか。

 そうですね。今の授業はスコアを上げるため、合格させるためといった予備校に近いような体制であります。ですので、このように日本のカルチャーを教える世界中の人々に伝えるというコンテンツがあって、もし機会があれば挑戦してみたいと思います。まだ本格的に文化を伝えることはやったことがないので、それに特化するというのは非常に面白いなと思います。

〜記者から一言〜

 日本語を学んでいる方にも様々な理由があり、日本文化の1つとしてではなく、語学として学んでいることが多いということがわかりました。語学習得の判定基準として検定や点数が用いられ、そのためのカリキュラムが作られています。インタビューの中にもありましたが、文化の一つとしての日本語教育が増え、新たな学び方ができれば、教員の需要や環境も変えられるのではないかと感じました。

次回はVol.2をお届けします。
中国の学校で日本語を教える先生に、現地での教育についてお伺いしました。

取材:Tatsuya Horikoshi 文:Jun Sakashima

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