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vol.14 ねんどの話をしよう(1)ねんどが私に教えてくれること

手が考える、「ねんど」

ある美術家さんが、摩訶不思議な形をしたセラミック(陶芸)の作品を美術館でたくさん並べて展示されていて
「頭ではない、手が考えた形なんです。手が考えるんです。」
というような説明書を添えていたのが、とても印象に残っています。
10年ほど前の出会いです。それはもう大きく心の中で首を振り、力強く、静かに、深々と頷きました。

20代後半から、拙作でもセラミックを扱うようになりました。
土の気持ちよさに驚いたのは、学生時代の友人の陶芸教室をお手伝いする名目で、初めて土粘土に触らせてもらったときのことです。ひや〜として、手が吸い付くようで、心が安らぐのが分かりました。
セラミックでの作品作りは今も続いています。

大人になってからの粘土との再会は、よくよく思い出してみると、それよりも数年前、大学の裏山の土で作った自作粘土がありました。掘り起こした土からはミミズが出てきて、驚いたカマキリがひょっこり顔を出しにきたりもして…。彼らの住処を荒らしてしまって申し訳ない気持ちと、人間がものを作ることの意味を改めて考えてしまったことを、小論文に書いてもいました。土というメディアは、本当にいろんなことを私に教えてくれます。

手が考える、なんて、普通の生活で味わうことは、ほとんど皆無でしょう。むしろそんなことをいちいち感じて暮らしていては、生活に支障を来たします。
だけど、粘土、大人も触ってみてください。その時は、シンプルに土と水だけでこねて作られた土粘土がおすすめです。手が味わっている感覚を、手からの情報を、目を閉じてゆっくり味わう時間をとってください。
「何を作ろうかな」なんてことを考えるのは、そのあとで。味わったその手がどんな形を作るのか、ただあなたは自分の手に委ねて、眺めていてください。
そうすることで、「手が考える」体験が、あなたにもできるかもしれません。

こんなお話から始めたのは、小さなこどもたちが粘土に魅了される理由が、身体レベルで分かってもらえるのではないか、と願うからです。
幼児教育において、粘土ってすごく奥深い素材だ、という確信を持っています。思考が言語に支配される前の幼児だからこそ、「触る・触れる」から得る感覚は、繊細で、刺激的で、大人以上に大きな情報をもちます
大人がこうした身体感覚を謙虚に思い出すことを前提として、今回はこどもと遊ぶことに重点を置いた目線で、「ねんど」について解説して行きます。

「ねんど」が教えてくれること

たくさんの情報を私たちに与えてくれる粘土ですが、成長の発達段階によって、得らるもの、感じられるものは変わっていきます。私たちは粘土から何を与えられているのか、順に辿って読み解いていきます。

1、触覚から刺激される心の動き(情緒の安定)

「触れる」という行為が安心感をもたらすことは、誰もが経験があるでしょう。リラックス・グッツには「触れる」ことで効果が発揮されるものも少なくありません。また、指先を動かすことは脳神経に働きかけ、リラックスにつながることが明らかになっています。イライラしている時にはハンバーグを捏ねる、など、力を発散させることでリラックスにつながる例も、よく言われますよね。
粘土は種類によって、さまざまな触り心地があります。身体の発達だけでなく、本当はそのときの気分にも合わせて、程よい柔らかさ・硬さのある粘土を選ぶことで、ストレスを和らげ、安心感や情緒の安定につながります。
この効力は、初めて粘土に触れる低年齢の時期から享受できることです。個人的には、全て自然素材で構成された粘土の方が、安らぎを覚える気がします。
心に負荷もかかりやすい新年度など、手を使って「触る」遊びに、粘土も一案入れてみてはいかがでしょうか。

2、指先と身体の運動能力

粘土は、指先の運動につながるだけでなく、アプローチによっては椅子から立ち上がり、身体全体を動かさなくてはならない時があります。たくさんの量や、硬さのあるものを扱う時が、そのような時です。小さな身体では立ち上がって踏ん張ったり、お腹に力を入れたりしないと、大きな塊から掴みとったり、千切ったりすることができないのです。
また、指先の動きを鍛えることは、鉛筆を握る、ボタンを止め外しするなど、生活に必要な指先の力をつけることにもつながりますが、脳神経への刺激から脳の発達を促すことも明らかになっています。粘土は、遊び方次第で、幾通りもの手と指先の動かし方をすることになります。

3、物体の力学や構造を理解する、思考力

粘土で何かを作ろうとすると、必然的に重力の存在について知ることになります。トンネルを作るなど重力に逆らう自立構造を実現させるには、安定したバランスや構造的な強度が必要なことを、こどもたちは失敗を繰り返しながら、感覚的に理解し、遊びを進めて行きます。
また、押したら凹む、凹んだぶんだけ押し出される、という物体の変化を知る機会も生まれます。水溶性の粘土であれば、水につけることでドロドロに溶けていく様子を見ることもできます。
このように、科学的に説明されるような物質のさまざまな特性を、学習ではなく「遊び」の経験から知り、理解していくことができるのです。

4、見立てる力、想像力

見立てる力や想像力は経験の厚さが関わってきますので、すぐに伸びるものではありません。しかし、形が抽象的であればあるほど、見立てられるものの幅は広がります。
粘土はあらゆる形になることができます。抽象的な形から見立てが始まり、想像力を膨らませることで具体的な形まで作り込むことが、容易に可能になる素材です。人形遊びに発展することもありますし、建物などの遊びの舞台になったり、お料理作りのようなごっこ遊びに発展することもあります。
粘土は見立てや想像力を刺激してくれる素材なのです。

どんな遊びをしている?

ねんどは体幹がしっかりして座って手を動かせるようになる1歳前後から遊ぶことができますが、それではどんな遊びが実際に行われるのか、紹介していきます。

つまむ、千切る

この時の達成感たる顔を出せないのが残念。
「やり切った〜」という笑顔でにっこりでした。

どんどん小さく千切る

「千切る」の最終形。その時のこどもの指の動かし方を見てみてください。

ひたすら長〜く伸ばす

凸凹に押し当てる

身の回りの「凸凹探し」が、面白い遊び。年長さん向きの遊び方かもしれませんが、一緒に小さな人たちを誘ってやるのも、発見が多い様子です。紙粘土や石塑粘土を外に持っていく非日常感も面白いですよ。

小学生はやっぱり、目の付け所が面白い。

水を混ぜる(水性のものに限る)

次のvol.15で紹介しているねんどのうち、油ねんど以外は、全て水性です。これらの粘土の乾燥を防ぎたい時には、密閉袋に入れて、スプレー水をかけて、保湿してから保存します。一度驚いたことがあって、この保存作業を集中するこどもに見つからないように行なっていたはずなのですが、やはりこどもは敏感。触っているうちに粘土が乾燥して触り心地が変化することに気づいたのかもしれません、教えてもいないのに「ここにお水入れてみてもいい?」と聞いてきたのです。
最初は一気にたくさんのお水を入れたがると思いますが、結局すぐには粘土も溶けませんし、粘土の変化に注目させられないので、「お水は少量ずつ入れて、スプーンとかでつついて様子を見てみよう!どうなるかな?!」と促します。
水に溶かしてしまった粘土は、液体状になっていても水道には流せません。水が乾く(干からびる)まで待つか、ビニール袋に入れて口を締め、燃えるゴミとして出します。

変化があるかどうかと、度々様子と見に来る。

容器に入れる、押し込む

決まった形ではなく、身の回りのいろいろな容器を集めて入れるのが楽しいです。透明のゼリーやプリンの廃材を利用すると、形のバリエーションが広がって興味が広がりますし、透明容器は中の様子が見れる面白さがあります。

丸める

こどもの方から丸める、ということは案外見かけない気がしています。こんな手の動かし方をしたら、これが作れたよ!とそばにいる大人が発見して見せることも、時に必要なのだと思います

何かに見えてくる…!

様々なねんどの特性を引き出すように遊んでいると、結果的にその時偶然的に出来上がった形に、物語が生まれることがあります。
このプロセスがあって初めて「あ、ねんどって、作りたい形が作れるんだ!」ということを自ら気付けたら、その時の喜びは大きいことでしょう。

パパが肩車してくれた(2020年 当時4歳)

広々と、粘土を床に広げて遊ぶ

広い場所であそぶことが叶うなら、保管が比較的容易な水ねんどを大量に使って、床に巨大なレリーフを作るように、全身で遊ぶ遊び方も、いつかしてみたいものです。残念ながら、さすがにこれは腰が重く、うちのアトリエでそれをまだ実現できていません。大きな体育館で、助っ人が充実しているとこにいつか私も体験してみたい遊び方です。

形だけでなく「遊び方」も自由自在

柔軟な素材、ねんど。テーブルで遊ぶのか、床で遊ぶのか、外で遊ぶのか、いつもとちょっとした要素を変えることで、また新しい遊びが生まれます。
また次のvol15、vol16では、ねんどの種類と、道具について書いています。
ぜひ参考になれば幸いです。


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