見出し画像

vol.16 ねんどの話をしよう(3)遊びを広げる道具とは

「ねんど」の道具

滑り出しから小言になるのですが、こどもたちの粘土用道具に使われている素材について、思っていることを少々…。
造形師や彫刻家の大人の制作現場では、木製やステンレスの道具が主に使われるのに対して、学童用品ではプラスチック製ばかりが目立つのが、気になっています。ステンレスはまだしも、選択肢として、木製のものがなかなか見かけることがないのは、なぜでしょう?長持ちもしますよ。
環境的にも、こどもに与える素材としても、画材道具も自然素材のものがあり、その価値にもっと注目してほしいものです。

また粘土遊びで当たり前のように使われる、日本で昔からよく持ち出されるメジャーな道具たちがあります。しかしそれは本当に幼児さんに必要かどうか…今一度検討してみて欲しいものです。

どんな道具が良い?

手先での細かな細工を促す道具より、幼児さんには体(背筋や腹筋)も使うような道具が良いと思います。
また、具体的な形が作れるものより、抽象的な形が作れる道具が多く揃っている方が、見立ての幅が広がり、遊びが自由自在に広がります。

粘土板

こどもたちと遊ぶときに限ると、一人一人に対して粘土板を渡すような使い方はしない方が良いかな、というのが持論です。
なぜかというと、粘土板を置くことで陣地をとったような気持ちになり、遊びのスペースを定めてしまうことになるからです。
それよりも、撥水性のテーブルクロスなどで大きく養生する方が、テーブル全体が、集まるこどもたちの「遊びの広場」になります。そして実のところ、保育者的にも、この方が片づけがスムーズなのではないかと思います。テーブルクロスは、どんな遊びにも馴染むような、無彩色の無地や、透明素材が良いでしょう。

しかし、粘土板を用意することで凸凹を作業台に持てる点は、魅力的です。ただそれはよくあるプラスチック製の粘土板にあるような具体的なモチーフが刻まれたものではなく、抽象的な模様やパターン、粘土を押し当てて型を取ってみたくなるような凹みが理想的です。その上で転がした粘土は、どんな形に丸まると思いますか?とても複雑な、巻き貝のような、なんとも言えない模様が出来上がりますよ。作業台が凸凹していれば、さらに粘土の特性に発見があるのではないかと思います。
ただ残念ながら私の知る限り、そんな商品はまだありません。。。木目の美しい板に、ヤスリや彫刻刀を当てて自作するしかありませんかねぇ。ささくれさえしなければ、木の節目とか、板目の模様とか、木の幹の皮とかに押し当ててみたいと、私は思うのですが…出てこないかなぁ。

とりあえず我アトリエで代用しているのは洗濯板!ただし狭い…。

スクレーパー

捏ねたパン生地を切り分ける時に使うスクレーパーは、粘土用道具でも存在します。小さなこどもの手には少し大きいものもありますが、木製のものは触り心地は優しく、体の重心を利用して切り分けやすい道具です。幼児用の商品ではないので、鋭利なものは省いてこどもの前には出さない、もしくは先端を少しやすったり、削ったりしたものを渡す、などの対応が必要です。

また、元は絵の具遊びのために開発された道具ですが、さまざまな形の凸凹、ギザギザがついたシリコン製のスクレーパーのような製品があります。こちらは粘土でも使えます。ただし、重みと硬さがあって体にあたると痛いかもということで、私が関わる園では5~6歳のこどもたちとの絵の具遊びの、ちょっと特別な時に限って使用しているそうです。目に可愛らしい商品なので、大人たちのテンションの方が上がっているかもしれません。

円柱の棒や、薄い板

これはかなり、おすすめしたい。
円柱の棒というのは、いわゆる”麺棒”です。
私のアトリエでは、ホームセンターで買った木製の直径20mmくらいの円柱棒を、150~200mmくらいに切ったものを数本用意しています。
薄い板は、厚さ2mmのものを、4本以上用意しています。このくらいの厚さですとスクレーパーの代用品にもなりますし、押し当てたりして遊んでいます。
また、薄い板を2本用意して、手で軽く平にした粘土の両端に置き、麺棒の両端が薄い板に当たるように伸ばせば、体を安定させながら粘土を均一な薄さにすることができます。板を重ねれば4mm、6mm、8mmと好みの厚みにすることができ自由自在です。これは陶芸教室でお皿を作るときに教えてもらった方法ですが、美しく伸ばすことができると、なんとなく気持ちの良いものです。大人としては、クッキーの型抜きの前にすると綺麗に抜けてスッキリします。

我がアトリエで愛用する綿棒と木の板。
シンプルだからこそ、遊び方が広がる。

この道具、要る?要らない?

粘土の道具に限らず、どんな道具をこどもに渡せばいいのか、それを見極めるには、まずは自分が触り、使ってみることです。
「あの子は使えるだろう、あの子はサポートがいるだろうな」「テーブルはこんな状態がいいだろう」「この環境でこの道具は使いづらいな」「取り合いになった時なんかに考えられる怪我は、軽症で済むだろうか…」と、使用するときのイメージを浮かべながら、使ってみてください。
それから「この道具を今のこどもたちが使えば、こんな体の動かし方をするだろうな」「ここに力が要るんだな」「この動きはまだ難しいかもな」と、こどもたちの身体的な発達に見合っているかどうかを検討します。
身体的な発達が十分にできていないと、道具はうまく使えません。場合によっては危険を回避するための余計なストレスを、大人たちが背負わねばならなくなります。
そう考えると、幼児時期の大半は、道具を大人が考えて選び渡すより、素材遊びを通して、自らの指で、体の使い方を工夫して、素材について知ることの方が重要だと思いませんか?そうしていれば、いずれそこで知った素材から、こどもたちは道具を作り始めるのです。

本来、道具は作るもの、見つけるもの。

道具は人間が作るものですから、こどもたちも、必要になれば「あ!いいこと考えた!」と、何かを見繕ってきたり、道具を作ろうとします。その時にうまくいく方法を、大人が一緒に考えてくれたら、なんと心強いことか。
もし、すでにそういう道具はこの世にあるのだとしても、「え〜、そんな便利なものがあるの〜。早く言ってよ〜」と、こどもに怒られるくらいで、私はちょうど良いのではないかと思います。かつてそうだった、私のように。
自分で考えて道具を作っていたから、自分で考えて自由に制作する術が身についたのだと、今にしては思います。
十分に遊べる時間とスペースと物質量と、本当にシンプルな道具で、こどもは自ら考えて、遊び進んでいく。だから、大人たちが道具を用意してあげなくちゃ!と、慌てて考えなくて、大丈夫。

今回、写真を出して紹介した製品たちは、手先の器用さを促す道具より、体全体を動かせる道具を意識しました。
粘土を初めて触る子の第一声(表情)は、「気持ちいぃ〜」です。
大人になると、手先を動かす道具の方が魅力的ですが、小さなこどもにとっては、必ずしもそうではないのです。まず、こどもたちは肌で、手で、身体で感じて考えます。その衝撃や感動が大人よりも強く、この段階を通ることが心の安定にも繋がります。

候補として浮かぶ粘土の道具はまだいくつかありますが、安全性との天秤にもかければ、このような道具たちが、保育園で過ごすこどもたちと長く伴走してくれるのではないでしょうか。

ねんどの遊びは、工夫次第で無限大ですよ。ぜひ参考にしてみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。いただいたサポートは、試作材料費に使わせていただきます。