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vol.15 ねんどの話をしよう(2)ねんどの種類、何が違うの?

画材屋さんを訪れると、それぞれの素材で作られた「〇〇粘土」が棚に並び、いまや無数に種類があるのではないかと思われる粘土ですが、基本構造は全て同じです。

粘土とは…基本の構成物

土(細かい粉)+ 水 (液体)= 粘土

これが粘土の基本構成物です。
つまり、これさえ踏まえていれば、粘土は自分でも作れるんです!

細かい粒子と水がバランスよく混ぜ合わされることで、自然界においても粘土は生まれています。土を掘ったら粘土質のものに出会ったことはありませんか?

この構造を応用してつくられたのが、ありとあらゆる名前のついた粘土たちです。粉状のものと液状のものを混ぜ、均一に捏ね上げることで、さまざまな種類の粘土が、人工的に作られるようになりました。
その中でも、私がこどもたちと触れるのにお勧めしたい粘土は5種類です。それぞれ詳しく紹介していきます。

こどもと使いやすい、主な「ねんど」

1,土粘土(水粘土)

土と水で構成されている、最もシンプルな粘土で、最も保育園等でお勧めしたい粘土です。
「土粘土」とも言いますし、次項の油粘土の存在に対して「水粘土」とも言います。
自然界にあるもので構成されているので、触り心地が良いのはもちろんのこと、乾燥したら粉っぽくなり、水を入れすぎると泥になり、練り上げることで粘土として使いやすくなるので、物質の変化が理解しやすい素材です。
また、密度があるので、重量感と抵抗感を、指先で味わうことができます。
片付けを放置してしまっても、水に浸けておくことで元に戻すことができます。また、テーブルは水拭きで綺麗に掃除できるので、少しの知識と経験があれば、かなり扱いの楽な粘土です。
また、実は陶芸用粘土は土の鉱物が厳選されているだけで種類としては土粘土で、価格も安価です。焼成に耐えられる成形をするには専門知識が必要なのですが、制作後の可能性を広げる意味で、こどもたちと使ってみるのも面白いでしょう。
粘土の誤飲は禁物ですが、土粘土は成分がシンプルなので、ぺろっと舐める程度で体内に入るようなことがあっても、過剰に恐れる必要はありません。
何度でも再利用できるので永く使うことができますが、衛生の観点から定期的な買い替えはしたほうがいいかもしれません。

2,油粘土

土と油で構成される粘土です。
学童用品として流通する油粘土は安価にするためか、土ではないものもあるようで、灰色、緑色、白色など、さまざまな色の油粘土が販売されています。
できれば本物の土と油だけでシンプルに構成された、プロ用画材の油粘土をお勧めしたいところですが、やや高額なのがネックです。しかし触り心地はとても滑らかで、気持ち良いと感じられると思います。
学童用品の安価な油粘土を購入するのであれば、見立てを膨らませやすくするために、私は白色のものをお勧めしています。あるいは、あえて何色か用意して、一緒に使うのも面白いでしょう。
長く使っていると油の酸化によって、やや臭いが不快になります。繰り返し使える粘土ですが、一度硬くなってしまった油粘土は、少し温めながら練り直したり、乾燥が原因の場合は油を足して練ったりするとまた柔らかくなります。手間もかかるので、あまりに硬くなってしまった油粘土は衛生面から消費期限に達したと考えて、廃棄してしまった方が良いだろうと私は思います。
また、油粘土専用の粘土板や、テーブルを養生するシートがある方が、掃除が楽になります。粘土板については後述するので、参考にしてみてください。

3,小麦粉粘土、米粉粘土

食品粉で作る粘土です。
小麦粉の場合は水で捏ねます。米粉の場合は水だけでも楽しめますが、油を少し入れることで粘土として安定します。
こどもたちと粉から触り(この感触がまた気持ち良い!)、少しずつ水を混ぜて粘土を作ることができるので、形状と質感の変化を時間をかけて楽しむことができます。特に小麦粉粘土は香りがよく、嗅覚からも癒されます。捏ねれば捏ねるほどグルテンが刺激されて生地の伸びが良くなり、最終的には人肌のような柔らかな触り心地になって、気持ちが良いです。
また、絵の具や食品色素を練り込んで、色をつけることができます。食品色素が粉の場合は、水を入れる前の粉に混ぜ合わせてからの方が均一になりますが、捏ねる最中でも、捏ね上げた後でも、どのタイミングで入れても、こどもたちの楽しみには変わりませんので、あまりお気になさらず。
乾燥後は硬くなります。塩を多めに入れ混ぜることでカビが生えにくくはなりますが、いずれにせよ食品なので長期保存には向きません。
生の小麦粉は口に入ってしまうと腹痛を起こすことがあります。塩を多めに入れることは、誤飲時に食べられるものではない、ということを伝えるにも良さそうです。身近な食材なので、低年齢の保護者さんへの説明にも、安心感とご理解を得やすいです。
小麦粉粘土と米粉粘土では、ずいぶん感触が異なりますので、両方経験することでその違いをより楽しめると思います。食品アレルギーだけは、必ず事前に確認してくださいね。

アトリエでは小麦粉粘土からパンを作って食べるまでが大流行している。

4,紙粘土

その名称から、元来は紙のパルプ繊維と水に糊剤を混ぜ合わせたものではないかと思うのですが、現代に販売される紙粘土の成分を確認すると、昨今はパルプ繊維に限らないようです。重たいものから、軽いもの、よく伸びるもの、乾燥後に弾力があるもの、各社さまざまな特徴を凝らした粘土を、総じて「紙粘土」と称し、販売しています。「紙粘土」の「紙」の意味が広義なってきているのか、一番身近そうでいて一番謎ジャンルの粘土だと思っています(笑)
基本的には、水拭きで掃除ができ、使い途中で片付けたい時は、霧吹き等で軽く水をかけてからビニール袋やサランラップで密閉しすることで、数ヶ月保存できます。乾燥すると硬くなります。乾燥が進んで少し硬く感じる時は、水をかけてしばらく揉み込んでやるとまた柔らかい粘土に戻ります。乾燥が進みすぎると戻すのは難しいです。
少量ずつパッキングされている紙粘土は、開封後しばらくは安定した湿りけと柔らかさを保つので、大人の介助がほとんど必要なく、こどもの自立心を後押ししたり、保育者の負担が減らせる良さがありますが、そのぶん関わる機会も減ります。
乾燥前でも、乾燥後でも、水性絵の具で着色でき、乾燥後であればマジックで書き込むこともできます。乾燥後は硬く強度があり、保存状態が良いため鑑賞向きです。
紙粘土選びで気にしておきたいのは、重さと質感です。発達段階と目的によって使い分けたいところですが、その種類の多さに何をどのように選べば良いかわからないという声が多く、確かにこれは厄介に感じます。
すごく大まかに言うと、最近の紙粘土には主成分が2パターンあります。それぞれの主成分の紙粘土を揃えて使い分けると、面白いかと思います。
主成分が
炭酸カルシウム
重たく、硬い粘土。昔ながらの紙粘土。使い心地はボソボソして感じるかも。乾燥後も重い。そのため、小さなこどもとの遊びに敬遠している人もいるようだが、重さが達成感を味わせ、心を満たすこともあることもある。乾燥後のひび割れにはそこそこ強い。
微小中空球樹脂
非常に軽い粘土。原材料の配合バランスによって軽さと強度が変わり、そのほかの特性が生まれるらしい。見た目に反する異常な軽さが面白く感じるものもある。乾燥後はさらに軽く感じる。乾燥前のふわっとした質感が心地よいものもあるが、軽すぎるものは、なんだか握ったり形を作ったりするときの満足感と達成感が薄い気がする時もある。微小中空球樹脂が主成分の紙粘土の中には、よく伸びることを謳うものがあり、これもなかなか面白い体験ができる。

5,石粉粘土

石粉と水と糊剤を混ぜて作られた粘土です。
プロ向けに開発された画材であり、やや高価ですが、粒子が細かいので滑らかな感触が心地よく、薄く細かな造形も作れます。幼児の中でも、指先の細かい動きができるようになった高年齢にお勧めです。
乾燥前の柔らかい状態で触った質感は、各種若干異なりますが、主成分が炭酸カルシウムの紙粘土と、やや似ているかもしれません。しかし乾燥後の石粉粘土に触れれば、紙粘土との違いが明らかにわかります。滑らかで、丈夫で、仕上がりは高級感のある印象を受けます。着彩は紙粘土と同じ要領で、可能です。
こどもの遊びではなかなか行わないと思いますが、乾燥後の研磨も可能です。

番外編: 新素材?の粘土

このほか、木粉粘土、シリコン粘土、樹脂粘土…などは、比較的新素材の人工的な粘土です。画材屋さんに行くと素敵なパッケージでたくさん見つけることができ、使ってみたくなるのですが、こどもたちと扱うのに特筆すべきような特徴があるかというと、その理由づけに至るにはやや弱く、コストパフォーマンスを考えるとどれも高額に思います。

使い分けは?発達段階と「育ちの願い」に合わせて….

土粘土、油粘土、小麦粉粘土と米粉粘土、紙粘土、石粉粘土と、ざっくり5種類の粘土を紹介しましたが、それでもまだ「一体どの粘土を選べば、目の前のこどもにとって最適なの…?!」と迷われると思います。迷いますよね。私も一通り試して、検証しました。
正解はないでしょうが、私なりに「これを渡してみよう」と考える判断基準はあります。その時のこどもの興味に照らし合わせて選ぶことも当然良いですが、こどもの発達段階と、仕掛け人となる大人の「願い」を照らし合わせて、特徴が合致する粘土を選ぶこともできるはずです。発達には個人差があるので、年齢はあくまで目安です。大人の関わり方についても書いておきます。

自然由来の心地よい粘土 (1歳半〜全年齢におすすめ)

・土粘土
・小麦粉粘土、米粉粘土など、食品粉でつくる粘土

気持ちよさを全面に感じられる粘土たちです。口で舐めて確認する欲求が落ち着き、体幹がしっかりしだした1歳半くらいであれば、概ね遊ぶための筋力は発達していると思われます。
食品粉から作る粘土は、粉のところから作られる過程を見せられると良いですが、1歳半とまだ小さい人と遊ぶ時は大人の助太刀は必須です。難しい作業ではないので、少し慣れたら3歳半ぐらいでもだいぶ一人で粉から捏ねられるようになります。
また土粘土も、時々硬くなってしまうことがあるので、程よい柔らかさに調整して、少量ずつ手渡すなどのフォローをしてあげてください。

「作って壊す」を繰り返せる粘土 (2歳前後〜全年齢におすすめ)

・油粘土
口に入れない2歳前後から使うことができます。少し時間が経ったり、寒いところにおいたりしていると固くなることがありので、程よい柔らかさに少しモミモミと練って渡してあげたり、少量ずつ手渡してあげたりするなど、フォローがあると、握力の弱い小さな年齢の人でも、楽しく使いやすいでしょう。作っては壊す、壊してはまた作る、という「再生と崩壊、そして再生」の遊びの循環は、小さなこどもにとってとても大切な経験です。なぜなら、これは社会の秩序を体現しているからです。ぜひ油粘土も取り入れてみてください。

飾って楽しむ粘土 (2歳前後〜全年齢におすすめ)

・紙粘土
乾燥後も保存ができる紙粘土は、「残しておきたい」「誰かに見せたい」気持ちがこどもに芽生えた時、芽生えそうな時に、出してあげたい素材です。
また、手につきにくいことを謳う製品や、伸びの良さを謳う製品など特性の種類が多く、その子の遊び方や発達の特性に応じて選ぶと、可能性が広がります。

細かな造形や特別感を楽しむ粘土 (5歳前後〜全年齢におすすめ)

・石粉粘土
人工素材も添加されて作られる粘土の中では、比較的触り心地の良い粘土です。そういえば、触った質感から「骨」を連想して、恐竜の骨を作ってくれた4歳さんがいました。紙粘土の質感であればきっと連想しなかったでしょう。いろんな質の粘土を用意しておく大事さが、よく分かる出来事でした。
細かい造作もできますので、指先の動きが器用になってきた高年齢にお勧めです。こちらも保存に向いている粘土です。

小さな人と「ねんど」の出会いだからこそ…

粘土はさまざまな遊び方が可能で、大人でも十分に楽しめる素材です。だからこそ、粘土をじっくり味わう時間をすっ飛ばしてしまう気持ち、私もよく分かります。つい、具体性を持たせた粘土遊びに向かってしまう。

しかし、手で味わう粘土の「素材遊び」の時間を、意識してほしい。その時に現れる形って、どんなものが残るでしょう?
目で、匂いで、肌で触れて、味わい、その人のペースで探究する時間をたっぷり、確保してあげてください。そのためにも、1種類のねんどだけで遊ぶのは勿体無い!マンネリしてきたかな〜なんて思った時は、ぜひねんどの種類を変えていることもおすすめです。
「手で考える」時間が、成長発達の土台を、身体的にも、精神的にも、人を豊かにします。そんな体験を新鮮にできるのは、幼児の頃しかありません。その隣に寄り添って、こどものたちの発見を目の当たりにできる大人も、まだ遅くはないはずです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。いただいたサポートは、試作材料費に使わせていただきます。