「趣味は数学です」と言って何が悪い?好きを共有する居場所こそが最強である!
「趣味は数学です」
自己紹介でそう語る人を見かけたら、あなたはどう思うだろうか。もしかすると半数以上の人が「え?趣味が数学ってどういうこと?」と疑問に思い、ときにはギョッとするかもしれない。
好きなことを趣味にする。そんな当たり前のことが「数学」という分野ではまだ全く浸透していない。
日本全国の数学好きの人たちと一緒に、心の底から「数学が好きだ!!」と叫べる場を作ってきた「ロマンティック数学ナイト」の裏側とは。
登場人物①:堀口 智之さん
「ロマンティック数学ナイト」を主催する和から株式会社の代表。高等数学から算数まで、数学の使い方が分からずに困っている人や、数学が大好きな人たちに向けたイベントや教室を開催している。数学と人を愛する。
登場人物② 辻順平/tsujimotterさん
趣味として数学を楽しむ日曜数学者。高度な数学的な概念をわかりやすく・楽しく伝えることに定評がある。「ロマンティック数学ナイト」には第一回目からプレゼンターとして登壇。
登場人物③ 鈴木健太郎
教育クリエイター。堀口さん率いる和からとともに「ロマンティック数学ナイト」を企画・実現。日本中の教育イベントやプロジェクトに携り、その可能性を広げる活動をしている。「教育をもっと自由に、もっと楽しく」
進行・編集 但馬 薫
本対談記事の編集役。文系出身で数学は数ⅡBどまり。読者代表として、理系3名の数学論議・「ロマンティック数学ナイト」愛をかみ砕く。
そもそも、「ロマンティック数学ナイト」って何ですか?
「ロマンティック数学ナイト」というのは、数学が好きな人のためのイベント、なんですよね?
具体的にどういうことをやってるんですか?
「ロマンティック数学ナイト」は一言で言うと、“数学のショートプレゼン交流会”です。登壇者が自分の研究していることや、興味、発見をプレゼンするのですが、講義・議論の場ではなく、発表・発見・交流の場になることを目指しています。
2018年第12回「ロマンティック数学ナイト」。『予備校のノリで学ぶ「大学の数学・物理」』でおなじみ数学系YouTuberのヨビノリたくみさんが登場。
簡単に言うと、TEDの数学版みたいなものなんだけど、それだけじゃ大切な部分が全然伝わらないんですよね。
ちゃんと語ろうと思うと2時間くらいほしい…。堀口さんはどんな感じで説明していますか?
え~、僕はなんて言って説明してるかな。
数学のイベントを主催しています。「ロマンティック数学ナイト」っていいます。やばいですよね。名前がもうやばいですよね。
って感じかな(笑)
たしかにまず、名前がやばいですよね。
この「ロマンティック数学ナイト」っていう名前はすぐ決まったんですか?
実は、この名前には裏話があるんですよ。
もともと、堀口さんから「和から」のプロモーションの相談を受けたことがきっかけでした。
「和から」という会社は、大人向けの数学教室などをやっている数学専門の会社です。
和から株式会社トップページのスクリーンショット
最初はウェブサイトをどうリニューアルするか、みたいな話だったんですが、この会社が何をやっているかみたいなことを対外的にアピールするよりも、数学好きな人たちを集めたこれまでにないイベントやコミュニティを作るほうが、本質的だしストーリーも美しいな、と思ったんです。
IT系のトークイベントは昔から色んなところでやられていたので、それの数学版ってどこかにないかな?と思ったら、「ロマンチック理数ナイト」というイベントが過去に一度だけ開催されたことを知りました。
このイベントは、謎解きゲームで一大ムーブメントを作ったSCRAPさんが手がけたもので、100人~200人集まっていたようです。
そちらは理数が対象で、サイエンスなんかも含まれていたんですが、僕らは単発のイベントではなく数学のコミュニティとして機能していくようにつくったら面白いんじゃないか!?と思いました。
そのときには、SCRAPさんもすでに「ロマンチック理数ナイト」は開催しておらず謎解きに集中されていたので、「こういうイベントをやりたいんですが、似ている名前で使ってもいいですか?」とお問合せフォームから連絡して、了承をもらって使っています。
別に由来は隠してないですし、色んなところで言ってますから(笑)
いやぁ~、なんか思い出してきたな。
もちろん、元ネタがあるとはいえ、僕らは数学オンリーということも含めて「ロマンチック理数ナイト」とは、イベントの目的も企画の仕方も全く違います。
僕と堀口さんは数学をエンターテイメントとして楽しんでもらって、ここにコミュニティを築いていくことを目指していたので、初期の段階からロゴや公式ソングを作ったり、六本木のクラブを貸切って会場演出したり、と他では絶対やらないだろうこともめちゃくちゃ工夫してやってきました。
なので今の「ロマンティック数学ナイト」ができてきたのは、二人で手を組めたのが大きいかな、と我ながら思っています。
2016年第1回「ロマンティック数学ナイト」。雨の中、200人も数学ファンが集まり、行列していました。
数学が好き、と当たり前に言えるように
僕はよく、「好きなことを好きって言っていいじゃん。」という話をするんですよ。
野球が好きだから、野球場に行く。サッカーが好きだからサッカースタジアムに行く。それって違和感ないですよね。
で、もちろん数学が好きな人もいるわけです。それなのに「数学が好き」って言うと、「え!?」って変な目で見られるんですよ。
会社から帰るときに、
「この後、数学のイベントがあるんでお先に失礼します」
とか言いづらいですよね。
そうそう。
ちょっとJAZZを聴きに行く、ライブに行くって言えば「行ってらっしゃい」って送り出してもらえるのに「数学を聴きに行く」って言ったら、
「はっ・・・!?」
って変な顔される。
なんなら、数学なんて地球上で一番学ばれてる学問なのに、「数学を聴きに行く」とか「数学を楽しみに行く」っていうことが理解されないという背景がありました。
よく、「ロマンティック数学ナイト」がどうしてビジネスとして成立しているのかと聞かれるんですが、僕にとってはすごく当たり前のことでした。
大好きな数学を誰とも共有できずにモヤモヤを抱えている人がたくさんいるんです。そういう人たちが楽しめる場所を作ったら、そりゃ好きな人たちは来ますよ。
2017年第7回「ロマンティック数学ナイト」。参加者の皆さんとの記念撮影。みんなニコニコ良い笑顔です!
「内なる数学を解き放て」―その情熱が胸を打つ
「ロマンティック数学ナイト」では「内なる数学を解き放て」というキャッチコピーが使われていますが、そもそも数学好きの方たちは、自分の中に数学を秘めているものなんですか?
僕、大学生のときに「数学ってこんなに面白いのに、なんで解き放てないんだ」って悩んでたんですよ。
友人に話しても引かれるし、誰に対してこの面白さや感動を共有できるのか分からなかったんです。
千葉逸人さんっていう、今は東北大学の教授をやっていらっしゃる方がいるんですが、当時は大学生か大学院生くらいで数学のブログを書いていらっしゃいました。僕はそれを一人で見て、ひとりで興奮するという日々を過ごしていました。
1人でフェルマーの小定理を証明して「うわ!すげー面白い!こんな証明方法あったんだ!!」と感動したものの、それを誰かに伝えたりはできませんでした。
堀口さんは大学時代に物理学科だったそうですが、授業や一般的な勉強会でその情熱を解き放ったりはできないものなんでしょうか?
これは全部の大学に当てはまるかは分からないんですが、少なくとも僕の周りでは数学そのものに情熱を燃やしているというよりかは、単位を取るのが目的になっているみたいな空気はありましたね。
数学ってやっぱり大前提として結構難しくて、大学の授業では「理解すること」に重きを置かれていたように思います。情熱とか解き放つとかではなかったな…。
もしあの時に「ロマンティック数学ナイト」みたいな、僕の中の数学を解き放てる場所があったら、僕の大学生活は暗黒時代じゃなくて、もっと華やかだったと思います(笑)
「ロマンティック数学ナイト」では一般の人でも登壇することができますが、普通は発表する機会も持てないですよね。
大学に所属していて、それなりの立場にある人が研究内容を専門家に向かって発表する、あるいは、大学の先生が授業や講演会などで話をする。それくらいしかなかったと思います。
それこそ大学から離れてしまった普通の人たちが数学について熱く語れる場なんて本当にないんですよ。
2018年第12回「ロマンティック数学ナイト」でのtsujimotterさんのプレゼン。「好きな関数はいくらあってもいい」と、この日はj関数を語りました。
最初、鈴木さんとキャッチコピーを考えているときも、
「『内なる数学を解き放て』以外ないと思います!」
と熱く語りましたね。
第一回目のときに、予定していた登壇者のプレゼン終了後に、飛び込みプレゼンを募ったんですよ。
そしたらそこで誰もが知る大企業のトップエンジニアの方が手をあげてくれたんですが、
「こんなに皆が数学に向き合っているのに、自分は何をやってるんだ!仕事をしている場合じゃない!」
とすごく情熱的に感想を語ってくれました。
もちろん資料はなし。マイク一本で、自分の数学に対する想いとか、実は抱えていた数学への未練とか、これからどうしていきたいか、とか「自分と数学」をテーマに話し続けて、会場を圧倒しましたね。
彼のように、数学のことは大好きだけど、今は数学とは違うことを仕事にしている人もたくさんいます。
ロマンティスト(編集注:「ロマンティック数学ナイト」ではプレゼンターをそう呼ぶ)の人たちの熱量がすごかったので、どうしても僕の情熱を解き放ちたいと思った、と言ってましたね。
やっぱり人が本気になってる姿とかワクワクする姿って、胸を打つんですよ。
もちろん、パッションが持つ力の大きさを知っていたからこそ「内なる数学を解き放て」っていうキャッチコピーを採用したんですけど、その予想をはるかに上回る熱量が生まれたんです。
「みんなそんなに内なる数学を持ってたんだ!」って、良い意味で驚きました。
「数学」はメディアの注目の的だった
「ロマンティック数学ナイト」は、これまでにないイベントとして、メディアにも多数取り上げられていますが、そのあたりはどれくらい狙っていたんでしょうか?メディアに取り上げられるためにやったことは何かありますか?
本当に前例のない、インパクトがあることをやろうとしていたので、成功すれば取り上げられるだろうなとは思っていました。ただ、運営側からプレスリリースを出したり、新聞記者の人にお知らせしたりとかメディアに取り上げられるためだけの施策は何もしてないです。
メディアに取り上げられるためのPR施策のハウツーって色々ありますが、すごくシンプルで、前例のないめちゃくちゃおもしろいことやれば取り上げられるんですよね。
でも、正直ここまで多種多様なメディアが取材に来るというのは予想してなかったです(笑)
『月曜から夜更かし』とかも出てますよね。
テレビも新聞もいっぱい出てますよ。
狙ってはいませんでしたが、よくよく考えてみると必然なのかもしれないと思いました。
数学ってやっぱり、日本人全員がやったことあるものだし、メディアからみても取り上げられやすいんですよね。
数学できたら便利だな、必要だなっていうのはなんとなく誰もが思っていることですし、その中でキャッチーな「ロマンティック数学ナイト」はネタにしやすいんじゃないかな。
「今数学ブームじゃないですか!?」みたいな取材依頼は、毎年来ますからね(笑)
メディア露出のおかげもあり、イベントとしての知名度は数学業界ではトップクラスだと思います。
ロマンティック数学ナイトの舞台に立ちたい!ロマンティスト超かっこいい!という憧れの舞台のようになってきていますが、それこそ最初は、1件1件堀口さんと一緒に「登壇してもらえませんか?」とお願いして回ってましたね。
大人になっても、違う仕事についても数学を楽しみ続ける大人たちの姿を見てほしい
企画段階で考えていたことっていうのは、イベントの熱量をどれだけ高められるかということだったんですね。
そう。だからウェブで配信してくれっていうのもずっと言われてるんだけど、これまではやってきませんでした。
現場の熱量が一番大事だと思ってるし、そこに来ないと体験できないものを大切にしています。
数学って楽しいんだな、楽しんでいる人たちってこんなにいるんだなっていうことを感じてほしいという思いがあるから、プレゼンの内容を映して配信するだけだとちょっと違うんですよね。
「その場」に集中するために、昨年までは動画の撮影も一切なし。とはいえ、記録用にだけでも残しておけば良かったなと、ちょっと後悔していますが…(笑)
これまでの「ロマンティック数学ナイト」では、現場での熱量を大切にしてきたと思うんですけど、今の情勢的に、今後はどうしてもオンラインで開催せざるを得ない部分もありますよね。
今後のオンライン移行は、どのように考えているんですか?
オンラインについて考えていることは2つあります。
1つは、オフラインと同じ熱量をオンラインでも再現できるかどうか。
昨年はコロナでリアル開催ができず、はじめてオンライン開催をしました。オンデマンド配信だけではなくて、そこにソーシャルを組み合わせることによって、リアルとはまた違った盛り上がりを作ることはできる、という手ごたえはありました。
初めてのオンライン開催となった2020年第15回「ロマンティック数学ナイト」。全国から644名の数学ファンが集まりました。
もう1つは、リアルでは届けられない人にまで届ける、ということですね。
リアルの「ロマンティック数学ナイト」では、毎回200人くらい集まってくれるうちの1割くらいは関東圏以外の遠方から来てくれる人たちなんです。中には高校生が夜行バスに乗って一人で来てくれたり。
それが「ロマンティック数学ナイト」の良さだと思ってたんだけど、やっぱりどうしても、来たくても来れない子たちもたくさんいるんですよね。
これまでは来たくても来れなかった人も参加できるようになったというのは、オンラインの大きな功績です。
だからこそ、オンラインでやる以上は、できるだけたくさんの人に見てほしいと思います。
もう日本のすべての大学の数学科の子たちは必修にしてほしい(笑)。
オンラインの「ロマンティック数学ナイト」を見て、自学自習してまとめてレポート出したら2単位あげる!みたいなこと、どこかの大学でやってくれないかな。
大学で数学科に入ったからと言って全員が数学で食えるわけじゃないし、実際数学を仕事にできる人なんて、100人いたら1人2人だと思うんですよ。
残りの98%の人たちが、卒業したあとに「数学意味なかった」みたいに思うのはかわいそうだし、実際意味がないみたいなことはありえない。
ロマ数に参加している人たちは、社会に出ても数学を楽しんでいる人たちだから、学生のうちにそういう大人にあってほしいという願いはもっています。
-------------------------------------------------
「ロマンティック数学ナイト」とは?
数学に興味がある、数学で繋がりたい、数学を共有したい-
そんな数学好きの人たちのための、数学好きの人たちによる数学のショートプレゼン交流会。
ここでは数学者として格式や、数学としての難易度は一切関係なし。あなたの内に秘めた数学を解き放つ場です。
2021年9月23日(木・祝)18:00~
「ロマンティック数学ナイト@オンライン #16」を開催します!
▶チケットはこちらから(参加費 1,000円)
https://peatix.com/event/2295886/view
■■ 「”教育クリエイター”鈴木Pのネタ帳」 ■■
教育クリエイターの鈴木Pこと鈴木健太郎のnoteです。
マガジン「教育をもっと自由に、もっと楽しく。」では、これまで携わってきた数々の教育プロジェクトやイベントについて、一緒に作り上げてきたメンバーとともに対談形式で振り返っています。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?