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【イギリス教育の本質(1)】平均値では見えなくなるイギリス教育の凄さ

OECD(経済開発協力機構)のPISA(学習到達度調査)についてご存知でしょうか。加盟国38ヵ国の15歳児に対し、3年に1回、読解力・数学的リテラシー・科学的リテラシーの3分野について調査を実施しランキングを発表しています。採点方法について議論はあるものの、ざっくりと各国の学習到達度を比較する指標としては分かりやすいものと思います。本稿ではイギリス学力の国際的な位置付けを把握しつつ、数値からは見えずらいイギリス教育の本質をあぶり出す試みをしています。


1. イギリス学力の世界ランキング

本稿作成時点での最新であるPISA2018年調査結果によると(2021年に予定していた調査はコロナで1年延期に)、

  • 読解力: 日本(15位)、イギリス(15位)

  • 数学的リテラシー: 日本(6位)、イギリス(17位)

  •  科学的リテラシー: 日本(6位)、イギリス(15位)

と日本がイギリスと同じか、かなり上位の結果となっています。他の加盟国38ヵ国と比べても、イギリスは半分より少し上の位置に。この結果を見た時、自分の肌感覚と大きく異なっていて正直なところかなり驚きました。イギリスにおいて成績トップクラスにランキングされる私立小学校(Preparatory Junior  School)の学習内容を覗き見る機会があり、その高度な学習内容を知っていただけに、日本の学習到達度から遅れをとるだけではなく、加盟国中でも中間に位置付けているとは、イギリスはもっと上位にあってもおかしくないはずと。


2. イギリストップ校の学力

その成績トップクラスのイギリスのPreparatory Junior  School(year3〜year8、日本の小学校中学年〜中学2年生に相当)では毎週Mathチャレンジが開催され、同級生のみならず高学年の学友達とも切磋琢磨する競争環境があり、そしてその問題が思わず唸り声を上げてしまうほど難しい。加えて、この問題にどういうロジックで解を導き出したのかという事を理路整然と先生に説明し、質疑応答もこなせるレベル感。形式的な理解では恐らく先生の多角的な質問には答えられないかと思います。間違いなく、その学校のMathは日本と比較して遜色ないか、それ以上のレベルにあるはずだと。サンプル数は少ないにせよ、このような経験をいくつかしてきていたので、PISAランキングでのイギリスの順位には違和感を覚えるばかりでした。


3. イギリスにおける学力の最高峰(博士号取得者数、ノーベル賞受賞者数)の実力

この違和感に解を与えるであろう面白い指標が文部科学省 科学技術・学術政策研究所(NISTEP)のホームページに掲載されていました。人口100万人当たりの博士号取得者数の国際比較です。日本は人口100万人当たりの博士号取得者数で米英独韓4カ国を大きく下回っており、前回調査時点から減少傾向にあるのは最下位の中国も加えた6カ国中、日本だけでした。

(科学技術学術政策研究所 学位取得者の国際比較より抜粋)

また、ノーベル賞受賞者数累計の国別比較においても、イギリスは世界第2位、人口比率を勘案すると(約6700万人と日本の半分)、更にその業績が如何に抜きん出ているかが理解できます。もちろん、上位2カ国が英語が共通言語の国につき、英語による論文発信を行いやすい等の基礎的な背景の違いはあるものの、それを勘案してもやはり、イギリスの学問・研究領域は世界のトップクラスにあると言えるのではないでしょうか。

(World Population Reviewデータより筆者がグラフ作成)



4. 平均値では見えないイギリス教育の本質

そう、イギリスの学力は他国に遅れをとっている訳ではなく、皆が揃って勉強することに熱心なわけではない社会なのだと思います。勉強をやりたい人は突き抜けてやる一方で、勉強以外の事柄、例えばサッカーであったり音楽などに興味が強ければ、比較的早い段階でその道に進路を決めてしまうので、そういった子供達が勉強に力を注ぐとは考えにくく、学力を平均値で測ったとしても、突き抜けて勉強する子供の実態は見えなくなってしまう、即ち、PISAの学習到達度調査で平均値を出したとしても、それは実態を反映しているとは言い難いように思います。逆説的に言うと、イギリスにおいては、「成功」が学問を通してのみ達成されるものではない社会とも言えるかもしれません。サッカーのエリートとして選抜される人もいれば、役者のエリート卵もいる、政治家を志す人もいれば、音楽で一流を目指す人もいる。学問という指標だけが重要視される事なく、成功の為のルートが沢山ある社会、そしてそのルート各々での層は厚く、案外競争も激しいということ、その結果としての博士号取得者数でありノーベル賞受賞者数であるように思います。

いいですね、人生の選択肢が沢山あるって。子供の得意分野を見い出し、そしてそれを伸ばし、自信を持って成長していける環境作りをすることが、イギリスにおける教育の本質だと思います。

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