天皇家の皇位継承について冷静に考える

天皇家の皇位継承について冷静に考える


 天皇皇后両陛下はチャールズ3世英国王陛下のご招待で、国賓として6月22日から28日まで英国をご訪問されていた。

 天皇陛下とチャールズ英国王は6月25日、日英それぞれの最高位勲章である「大勲位菊花賞頸飾」と「ガーター勲章」を贈りあい、ともに佩用(はいよう、勲章等を身に着けること)されてバッキンガム宮殿における英国王主催午餐会に臨まれた。

 ガーター勲章は、明治天皇が日露戦争後の1906年に英国王エドワード7世から贈られており、これで5代続けて天皇陛下に贈られたことになる。キリスト教圏の君主を除くと異例の対応で、ロシアの南下政策に協力して対応するため1902年に日英同盟を締結した当時の政治的背景はあったものの、その後も続く天皇家と英王室の親密さの現れである。

 もともと天皇皇后両陛下は2020年にエリザベス2世女王陛下にご招待されていたが、新型コロナで延期となっていた。エリザベス女王陛下が2022年9月8日に薨去されたため、国葬に短期間だけご訪英されている。

 新国王のチャールズ3世英国王陛下は自らの戴冠式に天皇皇后両陛下をご招待されていたが実現しなかったため、今回改めてのご招待となった。癌を公表されているチャールズ国王陛下としては異例のタイミングでのご招待で、駐日英国大使館も今上天皇陛下とチャールズ国王陛下の親密なご関係を積極的に配信していた。

 チャールズ国王も英国王室も戴冠式の時に「天皇皇后両陛下に招待状を2度も発送したにも関わらず秋篠宮ご夫妻が出席」されたため、今度こそ天皇皇后両陛下がご訪英できるよう最大限の気遣いをされたことになる。

 実際に天皇皇后両陛下の今回のご訪英は、英国王室だけでなく英国民からも大歓迎されていた。マスコミの「通り一遍」の報道からだけでそう感じたわけではない。

 これは天皇家が「世界最長の皇室」であるからというよりも、今上天皇陛下と雅子皇后陛下の「お人柄」や「周囲に配慮される言動」や「自然に感じられる気品」によるところが大きい。これは日本国民にとっても間違いなく大きな外交上の財産となる。

 ところが1889年に成文化された皇室典範第1条で「皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する」と規定されたままであるため、日本国民にとっても大きな財産となる今上天皇陛下と雅子皇后陛下の直系長子の愛子内親王が女性であるだけの理由で、皇統が弟君の秋篠宮家に移ると「安直に」理解されている。秋篠宮家に男性の悠仁親王がいらっしゃるからである。

 現在は「安定的な皇位継承の確保」として女性宮家の創設などが検討されているが、そこでも秋篠宮家に皇統が移ることが「大前提」であり、さらに将来的には悠仁親王の皇位継承まで「決定済み」とされており、そこから先の安定的な皇位継承が議論されているだけである。

 秋篠宮殿下の血筋とか、紀子妃のパワハラとか、悠仁親王の学力や健康状態などに関する懸念がネット上に溢れ返っているが、ここでは単なる噂には与(くみ)するつもりはない。

 しかしここで「安直に」皇統を秋篠宮家に移してしまう前に、明治時代に男系男子への皇位継承に限定した皇室典範の改正をなぜ検討しないのか? 明治以前には10代・8名もの女性天皇がいらっしゃり、この現在に女性であるだけの理由で皇位を継承できないとする方が世界の潮流に逆行している。

 また愛子内親王はご両親の天皇皇后両陛下と同じように「お人柄」や「周囲に配慮される言動」や「自然に感じられる気品」を備えられており、国民の人気も非常に高い。

 だいたい日本の歴史において、兄弟間の譲位(皇統の移動)は必ず大きな政治的混乱を伴っている。そもそも事例が非常に少ない。

 壬申の乱となった第38代・天智天皇から(現在は嫡子の第39代・弘文天皇が即位していたとされるが)第40代・天武天皇への譲位(673年)、天皇家(朝廷)が弱体化して武士に政治の実権を握られるきっかけとなった第75代・崇徳天皇から第76代・近衛天皇への譲位(1141年)、皇統が2つに分かれる南北朝時代の遠因となった第89代・後深草天皇から第90代・亀山天皇への譲位(1259年)などがある。

 江戸時代にも姉弟間の譲位が2例あるが、この時代の天皇家は政治の実権がなく皇室内の事情によるもので大きな混乱はなかった。江戸幕府の皇室に対する影響が強すぎたことになる。

 もちろん現在でも天皇には政治の実権はないが、GHQが作成した現行憲法でも「天皇の地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく」と規定されている。しかも皇統を「日本国民の総意」により他に移動させるのではなく、他に移動させないように皇室典範を改正して愛子内親王の立太子を進めるだけで(皇太子とするだけで)、何も不自然ではない。

 現在の秋篠宮殿下は皇嗣であるが、皇嗣とは「その時点において皇位継承順位が1位である」だけで永久的な地位ではない。従って愛子内親王が永久的な立場である皇太子となられ、さらに皇位を継承されても(皇室典範さえ改正しておけば)矛盾はない。

 皇室典範の改正は、憲法改正に準じた発議や国民投票が必要なわけではないと解される。単なる法律改正だからである。人気低迷で解散を封じられ総裁選を乗り切れない岸田首相も、皇室典範改正を国民に問うとして衆議院解散に打って出て実際に改正できれば、ご褒美であと1年くらい政権を担当できるかもしれない。

 ただ愛子内親王が皇太子となり将来的に皇位を継承された場合、ご成婚されてお子様がいらっしゃるなら、お相手によってはそこからの皇統が女系になることがある。その前に現行の皇室典範ではご成婚された瞬間に皇籍離脱となるため、ここも皇太子は除くなどの例外措置を設けておく必要がある。単なる公務のためだけの女性宮家創設は意味がない。

 確かに日本の皇室は2000年近く男系を維持しているが、側室がなくなり戦後に11宮家が皇籍を離脱しているため、そもそも男系維持には無理がある。

 過去には女性天皇である第43代・元明天皇の長女の第44代・元正天皇は、父親は皇族ではあるが即位しておらず女系天皇であるはずで、その後にもここに書けないような事例もあり、万世一系の男系継承が2000年近く維持されてきたとは言い切れない。さらに生物学的にも男系のY染色体には突然変異もある。

 この辺は大昔のことを議論しても無意味であるため、愛子内親王にはご自由にご成婚相手を選んで頂きたい。確かにお相手には皇籍離脱された旧宮家の子弟が好ましいかもしれないが、できたら血の近いご成婚は避けて頂きたい。ご聡明な愛子内親王とご両親の天皇皇后両陛下が、小室某のような「異物」を皇統に呼び込むとは考えられないからである。

 日本国民にとって「現時点」で重要なことは、将来の(愛子内親王以降の)皇位継承などではなく、一刻も早く皇室典範を改正させて愛子内親王の立太子を急ぐことである。

 世界的には2000年近く続く皇室の存在そのものが邪魔で、潰そうとする(あるいは傀儡に入れ替えようとする)勢力が大勢いて、実際にいろんな工作を仕掛けている。そういう事態に現在の「中途半端な」状況が好ましいはずがない。

 決断して行動するのは政府でも宮内庁でも警察庁でもなく、主権が存する日本国民であることを忘れてはならない。

 最後に天皇皇后がご訪問されていた英国王室の王位継承ルールを挙げておく。

 スチュワート朝最後のアン王女(在位・1702~14年)には成人した嫡子がおらず、このままだとアン王女の異母弟でカトリックのジェームス3世に王位が移ってしまう事態となっていた。

 英国王室は延々とカトリックであるフランス王室と対立しており(というより乗っ取られる恐怖を常に覚えており)、英国政府はカトリックを永久に英国王室から排除するため1701年に「王位継承法」を制定しておいた。

 それによると王位継承者は、スチュワート家の血を引くプロテスタントの嫡子(男女は問わないが庶子は除かれる)に限定され、その時点で継承順位のトップがハノーバー選帝侯妃のゾフィーとなった。実際にゾフィーはアン王女より先に亡くなったためその長男でハノーバー選帝侯のゲオルグが1714年にジョージ1世として英国王として即位しハノーバー朝が始まる。

 現在の英国王室の「直接の祖」である。ここでなぜ「わざわざ」英国王室はドイツから国王を迎えたのかと思われるが、そうまでしてでもカトリックを王室から永久に排除したかったからである。

 その直前の1688年にはカトリックのジェームス2世を名誉革命で王室から追放しており、後年チャールズ皇太子(現国王)がダイアナ妃と離婚するが、その根本的理由もダイアナ妃の実家であるスペンサー家がジェームス2世の子孫でカトリックだったからである。

 もっともダイアナ妃はそれだけなら死ぬことはなかったが、イスラム教徒の富豪が新たな恋人となったため、さすがにプロテスタントもカトリックも協力して消してしまった。

 ただこの「王位継承法」では直系長子が女性の場合のみ直系長子の男性が優先するとなっていたが、実際にはビクトリア女王もエリザベス2世も直系の男兄弟がいなかったため適用例はなかった。しかしこれが2013年に撤廃されている。わずか10年ほど前である。

 それでも皇太子である(次期国王である)ウイリアム王子のお子様は、ジョージ王子、シャーロット王女、ルイ王子の順番なので、よほどのことがない限り相当期間にわたってこれも適用されることはない。それでも「将来まで見渡した安定的な王位継承」のために改正したことになる。閣議と議会承認だけで改正されている。

 日本の皇室においては「もっと緊急の重大事案である」皇室典範の改正と愛子内親王の立太子だけでも急がなければならない。繰り返しであるが、それを決断して行動するのは主権が在する日本国民である。