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愛が落ちてこいよ

"愛に足が生えてたとするじゃないですか"

多分奴は誰よりもすばしっこい。

速いだけならまだいいのだけれど、5秒に1回くらい、スキップとか、ムーンウォークとかしてくるもんだから捕まえることは困難な訳だ。

小さい頃、愛ってのは簡単に見つかるとテレビで大人達がよく教えてくれたのだけれど、いざ捕まえるのが難しいだなんてのは聞いてないよ。詐欺だよこれ。

アイドルに会えるって聞いて会場に来たのに、双眼鏡でようやく顔の輪郭がボヤけて見えるだけみたいな喪失感だよ。

なんて事をボーッと考えながら流し込むビールはいつもよりちょっぴり苦い。

買ってきた缶を冷蔵庫に入れてなかったせいで、絶妙に生温かいビールを飲む羽目になっていた深夜0時。

あまり舌で味合わないように一息にビールを喉に流し込み、布団に倒れ込む。

うつ伏せになり、枕に顔を埋める。

枕の奥を見つめる。奥の奥。ずーっと奥。

よく物語の中で登場する"真実の愛"とやら。
そいつはこの世の中に実在するのだろうか。

別に惚れた腫れたの話だけではなくて、純粋にそう疑問に感じることがある。

僕は、間違いなく周りの人達が好きだし、感謝しているし、出来るだけ一緒に居たいと思う。

親からは大切にして貰っているし、友人とはいつだって腕を組み合って酒を飲みたいし、恋人が居れば愛を交わす事だってあるだろう。

ただそれが真実の愛なのか僕には分からない。

真実の愛とはなんだ。無償の愛か。

自分の利を顧みず他人に尽くすのが真実の愛なのだろうか。

あなたのためなら死んだっていい!!
よくある台詞だ。というか僕も脚本の中で描くことが多々ある。

相手のためにいつでも死ねるのが愛か。

そしたら、愛ってのは初めから歪みきったものの塊ってことになるわけだ。

酔いが回る。

生温かいビールが胃の中で踊る。

仰向けになり天井を見つめると、足の生えた愛がニヤリと笑ってこちらを見ている気がした。

あー、あいつ笑ってんなぁ。。。

もう立てやしないし、眠いし、気持ち悪いし。

愛が落ちてこいよ。

あいつが足を滑らせる日を、僕は毎晩心待ちにしている訳だ。

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