痩せ薬

　ダイエットへの強迫観念から拒食になった女性がいた。日に日に痩せ細っていくその姿を痛ましく思った家族は、彼女を健康体にするために様々手を尽くした。しかし、彼女の痩せたいという意志は今にもぽっきりと折れそうな身体とは対照的にがっしりと強固だった。
　このままでは生命に関わると、ある日家族は彼女を病院へ連れていった。医師はこれといって特別なこともない診察をいくつかおこなった。
「先生、お父さんとお母さんはああ言うけれど、私、もっともっと痩せて奇麗になりたいんです」
　彼女は先生にすがるように言った。実際、彼女はもう自分の身体を満足に支えるのも難しくなっていた。
「ええ。ええ。そのお気持ち、とてもよく分かりますとも」
　医師は彼女の言葉に深くうなずくと、彼女に薬を手渡して言った。
「いいですか、これは痩せ薬です。多くの人がこの薬で奇麗な体を手に入れました。朝昼晩、必ず食後に1錠飲んで下さい」
　女性は医師の言いつけを守り、やがて健康で奇麗な体を手に入れた。