投資

　とある資産家が、某大手自動車メーカーに巨額の資金投資をしたことが最近話題になった。彼は筋金入りの車嫌いとして知られており、「豪邸」という言葉がそのままでんと具現化したかのようなそのだだっ広い敷地に、彼の車はただの一台も置かれていなかった。彼の突然の奇行についてSNS上では様々な意見が飛び交ったが、所詮は憶測の域を出ず、誰一人真相はつかめずにいた。
　そうこうしているうちに、彼の投資のおかげもあり、その自動車メーカーはめきめきと業績を伸ばし、多くの革新的な製品を世に送り出した。

　ある日を境に、資産家の家に何台もの車が――当然、どれも普通の人間が一生に一台買えるかどうかの高級車だ――立ち並ぶようになった。秘書はたいそう不思議がり、これは一体どういうことか訳を聞いた。資産家は、まるで新しいおもちゃを買い与えられた子供のような表情で答えた。
「見たまえ、ようやく完全な自動運転の車が開発されたんだ。昔から運転がすこぶる嫌いだったが、これでようやく車が買えるよ」