この顔になりたい!!
人生に一度だけでいい。
一日だけ好きな外見にしてやると言われたら、私はこの人を選ぶ。
三代目橘家文蔵!
一択。
この姿になりたい。
若き日の吉永さゆり?
いらん。
若き日のエリザベス・テイラー?
いらんいらん。
いや、エリザベスカラーはもっといらん。
若き日の……って私の若き日はちょっとしたものだったぜ。
「可愛いね」「アイドル顔だね」と露骨に言われた。
その度に、人は顔じゃない!と反感を覚えたものだ。
しかし最近自分の成人式の写真を見る機会があり、
「誰!? この可愛い娘!!」
と、びっくらこいた。
可愛かったんだよ私……
でもいつも暗くうつむいていた……
いや、そういう暗黒時代の話じゃない。
今!
誰の顔になりたいか?
橘家文蔵だよ!
あの強面に一度なってみたい。
夜の落語会がはねると、下総国の我が家に帰るのは、早くて22時。
時には23時を過ぎ夜中近くになることもある。
BBAだけどね。往年の美少女は危険が多いのだよ。
徒歩だと背後からコツコツ聞こえる足音がぴったり自分の足音とリンクする。
やがて近づいて来て……!!
ああ……追い越して行った。
よかった……。
この危機感は女性にしかわからないだろうな。
そういえば、赤やピンクの服を着ていると男は必ずチラッと見る。
そして、何だBBAか……とばかりに目をそらす。
黒い服だとこの視線はない。
男って色に目が向く動物だったのね。
もっとも自分だってカーキ色のパンツにジャケットのおっさんが近づいて来て、
「何だ何だ!?」
と警戒したらおばさんだったことがある。
女も色彩情報に頼るか。
いや、色彩科学(?)の話じゃない。
徒歩を避けて自転車に乗っても危険は逃れられない。
(バス便のない地域であるし、あっても終バスの出た後だ)
酔っ払い運転があるのだ。
自転車の。
ふらふらした運転で交差点に減速せずに突っ込んで来るのは、たいがい酔っ払い野郎である。
そして減速運転している私の自転車に接触しそうになり「気をつけろ」「バカ」「ババア」などと悪態をつく。
「チッ!」と舌打ちする奴もいる。
そんな時「ああん?」とドスを効かせて言ってやりたい。
だが私の顔とかたちじゃ飛んで火にいる夏の虫である。
そこで、橘家文蔵の出番である!
あの姿かたちで「ああん?」と一瞥してやれば、酔っ払い野郎は尻尾を巻いて逃げて行くだろう。
いや、そもそも橘家文蔵ならば、こんなチンケな酔っ払いが近づいて来ることもない。
一日だけでいい。
往来を堂々と胸を張って大手を振って歩きたいものである。
あの顔で、あたりを睥睨してみたいものである。
誰にも舌打ちされず、人混みでぶつかられず、尻を触られず、おっぱいを触られず、あなたの幸せを祈りますと言われず、お肌のお手入れしてる?と言われず、印鑑いりませんかと言われず、お墓はありますかと言われずに……
その時はきっと真っ赤なダボシャツに、昇り龍の刺繍がついたスカジャンを着て、レイバンのサングラスをかけてやろう。
(昔持ってたレイバンのサングラスは空き巣に盗られたと今どうでもいいことを思い出した)
願わくば職務質問には遭いませんように……。
どっとはらい。
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