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コロナと居酒屋とインターネット

大好きな居酒屋がある。

1979年開業だというからもう40年以上やっている。
大きな赤提灯。
カウンターとテーブル席がふたつ。
白の割烹着が似合う、年配のご夫婦が二人で営業されている。
地元のお客さんに愛されている小さな居酒屋。

3年ほど前に、その居酒屋のある街からは引っ越してしまったが、その店がお気に入りで、いまでも時々電車を乗り継いて足を運ぶ。

美味くて、安くて、ほっとできる。
ずっとなくならないでほしい。
そんなお店。

しかし、今回のコロナ禍。
飲食店にとっては本当に大変な時期。
当然、このお店も例外ではない。

感染者数の増減の谷間を狙って、「どうしているかな」なんて思いながら、お店の前まで足を運んでみると、
「コロナのため、しばらくの間休業します」
と手書きで書かれた貼り紙がされていた。

まだその頃はコロナがこんなに長引くとは思っていなかったから、「次来たときには営業しているだろ」なんて思いながら、その日はお店を後にした。

その後も、何度かそんなふうにして足を運んでみたけれど、赤提灯にあかりが灯っていることはなく、お店の中は薄暗いまま。
貼り紙もずっとそのまま。

「ああ、もしかしたら、このままなくなってしまうのかな」

そんな考えが頭をよぎった。

それからずいぶん時間が経った。
先日、久しぶりに足を運ぶと、見慣れた赤提灯にあかりが灯っている。

「ああ、よかった。まだやってた」

久しぶりに暖簾をくぐると、以前と変わらずご夫婦が迎えてくれた。
ビールを飲み、いつものメニューを食べる。
幸せ。

実質2年の休業。
それだけでも大変なのに、その間に旦那さんが体調を壊して入院するなどいろいろなことがあったという。

それでも、自治体からの要請に応じて、お店は営業を自粛し、時短営業行い、感染対策もしてきたそうだ。
そうやって何とかやってきた。

そんななか、営業自粛期間中に、感染拡大防止協力金を申請しようと、区の窓口に足を運んだそうだ。
すると、「インターネットから申請してください」とのこと。

このご夫婦。
パソコンを持っていない。
スマホも持っていない。
ネットに繋がっていない。

そう伝えると、今度は分厚い冊子を渡されて、「これを読んで申請してください」と言われ、途方に暮れたそうだ。

しかも、自粛をしていた数ヶ月分はすでに申請期間が終了していて、助成金がおりないと言う。

このご時世、確かにネットに繋がっていない人は、もはや圧倒的に少数なのかもしれない。
その一方で、都会では昔ほど地域のつながりはない。
以前なら、回覧板なんてものもあったけれど、今はそれもない。

「情弱」と言って切り捨ててしまうのは簡単だけれど、
ネットに繋がっていない年配の人たちは、どうやってこうした情報を得たらいいのだろうか。
正直、想像もつかない。

IT化の大きな流れの中で、取り残されていく人が少なからずいる。

このnoteを書いている僕は、ネットに繋がっていて、日々とんでもない情報の波の中に生きているけれど、そうではない人がこの日本にまだいるのだ。

幸いこのご夫婦は、お知り合いに頼んで、まだ申請をできる分はなんとかネットから申請できたと言う。
でも、もしそれさえができなかったら……。

「コロナが早く落ち着いて欲しい」

きっとそれは誰もが願っていることだと思う。
ご夫婦もそう思って、ずいぶんと気をつけて、自治体の自粛要請などに協力してきたそうだ。

でも、その結果としてこんな困難に直面するとは。

もし、こんな風にして、閉店することになったお店があるとしたらちょっとやるせないなと思い、書き留めておく。

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